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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         5節 帝國ホテルタワーの戦い
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 銃の発射音も、家具が壊れる音も、うりには、くぐもって聞こえた。まるで、幕を1枚へだてたむこうの出来事のようだ。


 赤鉄アカムが、うりを守っている。緑の目との間に見えない壁があって、表面で小さな光が瞬いては消える。


 赤鉄アカムは、じっと動かずにいるが、それはきっと動けないのではなくて、動かないのだ。


(わたし、足手まといだ。でも、どうしよう――)


 もし赤鉄アカムから離れれば、うりは蜂の巣になるだろう。


「動けるか?」と、赤鉄アカムが言った。その声は、はっきり聞こえた。


「うん」


「よし。試したいことがある。合図したらベッドの陰に隠れて」


「う、うん、分かった」


「……いまだ!」


 号令を受けて、うりはベッドと壁の間へもぐり込んだ。そのとき、足になにか当たった。うりのリュックだ。うりはリュックの中に手をつっこんだ。


 音がやってきた。銃撃音が胸に響く。アカムの後頭部が直視できないほどに輝きだす。うりの傷を治したときとは比べものにならない強い光だ。


 光の中心に、おおきな蕾のようなものをみとめて、うりは目をしばたたいた。


 アカムのまわりに、いくつもの光があらわれる。光は、いちど強くかがやき、それぞれに集まりかけて、散った。同時に、アカムの後頭部の光もおさまる。


「畜生、やっぱり、うまくいかねえ」


 ふいに爆発が起き、外壁が吹き飛んだ。黒い侵入者が土煙のなかに姿を消す。土煙はうずを巻き、猛烈な勢いで赤鉄アカムとうりに迫ってきて、ふたりの手前で透明な壁にさえぎられて四散した。吹き飛んだ壁のむこうに、夜の東京が広がっている。


(すごい、きれい)


 こんなときなのに、うりは思わず夜景に見入った。遠く、どこまでも宝石のような光がつづいている。


 と、床が途切れて夜景がはじまるあたりに、緑の光がひょっこり現れた。長い筒から煙の尾を引いて、なにかが飛び出す。


「伏せろ!」


 赤鉄アカムが叫んだ。


 天井が爆発した。建材が飛び散り、降ってくる。土砂と瓦礫が、うりの頭上で斜面を滑るように移動して、まわりに落ちる。


「くらえ!」


 赤鉄アカムの声に弾かれて、瓦礫が飛んだ。直撃を受けた侵入者が夜空に放り出される。天井から、金属製のパイプや、なにかの機械がガラガラと落ちてきた。


(本当に超能力者なんだ)


 たちこめる砂塵の中、超然と立つ赤鉄アカムを、うりは見上げた。


(こんな力を持っているって、どういう気持ちだろう)


 周知の事実ではあった。信じていないわけではなかった。しかし、実際に見ると、その非現実性は凄まじかった。


 ふと、耳のすぐ横で羽ばたくような音が聞こえた。すぐに轟音になる。まわりを見まわしても、なにもない。


 そのとき、強烈な光が闇を裂き、爆発的な風塵が視界をさえぎった。


「大掛かりじゃん。最初っから、ここ、ぶっ壊すつもりかよ」


 赤鉄アカムの声には笑いが混じっていた。


 ライトの逆光でシルエットしか見えないが、細い機体に短い翼のようなものが見える。


(ヘリコプターだ)と、うりは思った。


 ヘリコプターは、ふたりを見定めるように宙に佇んでいたが、いきなり、その鼻先が火を吹いた。ピアノの早弾きのような金属音とともに、赤鉄アカムの前に火花が咲きひろがる。


 朱色にも黄金色にも見える光と爆音の競演。心臓が暴れて肋骨が痛む。


 余命宣告、赤鉄アカムを目指す冒険、突然の襲撃。気づくと、うりは非日常の中にいた。


(未来のかわりに、わたしは、この冒険の世界を手に入れたの?)


 暗がりの中から、うりの目の前に、なにかが転がりでた。それは黒くて丸くて、いくつもあった。ひとつが、ごつりと足にぶつかった。重くて、硬い。


「アカム!」


 叫んで、アカムの裾を引いた。――刹那、黒いものが爆発した。

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