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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         4節 うりの冒険
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 名古屋が大災害にみまわれてから1週間後の朝、袴田うりは、TVとちゃぶ台と箪笥だけになった部屋でTVを見ていた。


 街のホールで、家をうしなった人々が毛布を敷いて座り込んでいる。老人や子供が多いのは、若い人は生存者の捜索や被災地の仕事に駆り出されているからだ。


 画面の隅の小さな画面に、海が半円形に街にめり込んでいる様子が映った。海面には、いまだにたくさんの船や瓦礫が浮いている。


 そして、赤鉄アカムの顔が画面に大写しになった。町田警察署で声明を発表した時の画像だ。この男が、名古屋を攻撃してたくさんの人を殺した。憎むべき大量殺人犯であり、テロリストだ。


 日本政府は協議の結果、赤鉄アカムへの支払いを決めた。本物の超能力者であると認め、その力に屈したのだ。国家緊急事態宣言がなされ、内閣は内外の反対を押し切って緊急法案を通した。赤鉄アカムは招請には一切応じなかったというが、多くの国民は信じていない。


 赤鉄アカムは、いま、帝國ホテルタワー最上階のスウィートルームで暮らしているそうだ。ホテルの周囲は、マスコミや野次馬に加えて、赤鉄アカムを崇拝する集団や、非難する集団が集まって大変なことになっている。常に厳戒態勢で、機動隊が固めているらしい。


 当の赤鉄アカムは、襲撃直後に放送して以来、メディアに顔を出していない。女性誌のスクープによれば、夜な夜な芸能界の美女たちを部屋に呼んで遊んでいるのだとか。帝國ホテルタワーにはVIP専用の入り口があって、許された者だけが、その通路を通って赤鉄アカムの部屋に出入りしているという。


(お金と権力を手に入れた男の人がやることなんて、みんな同じかあ……)


 うりは、なんだか、がっかりした。赤鉄アカムの言動は短絡的で、男なんて、と、つい言いたくなる。実際に、そう口にする女性コメンテーターもいる。


 番組はつぎの話題に移った。


 うりはTVを消すと、立ち上がって黒いリュックを背負った。リュックの中には最低限の日用品と着替えと、準備した道具が入っている。


 ちゃぶ台の上に、大家さんと香澄に宛てた手紙を入れた茶封筒を置いた。突然いなくなることへのお詫びだった。わずかな額ではあったが、学費の貯金をサザンカに残した。


 うりは中学の緑色のジャージを着ていた。髪は両サイドを編み込んで、うしろでまとめてある。靴は白いスニーカーだ。


 玄関で、2年間暮らした部屋を振りかえる。なにもない――伽藍堂だ。余命を宣告されて以来、残された時間を未来と感じられなくなっていた。うりの半年には、いまのこの部屋と同じように、なにもないから。未来とは、生を前提としたイメージだと知った。


(けど、ううん。だから、なのかな)


 この1週間、馬鹿らしいと我に返る自分を奮い立たせて、準備を進めてきた。こうして出かけるところまでこじつけて、もう迷っている場合ではないし、その必要もない。


 玄関ドアのノブに手をかける。一瞬、後ろ髪を引かれる。サザンカで香澄や子供たちと笑ったり、笑子に料理を教わったり、窪田のライブを観に行く光景が頭をよぎる。


 うりは玄関の扉をあけた。日の光が、さっと射し込んできた。

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