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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         3節 名古屋TV塔の戦い
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 吉田和志は、自宅書斎のPCモニターでTVを見ていた。夜のニュースが名古屋の惨状を伝えている。伊勢湾の沿岸地域が海に沈んだらしい。ヘリコプターによる空撮が海を映し出している。


「あなた、ご飯」


 妻の声がしたが、吉田には聞こえていない。


 赤い腹を見せてタンカーが海に浮かぶ。黒いのは重油だろう。よく見ると、たくさんの漁船やクルーザーが、おもちゃのように散らばっている。その他にも、なにか白いものがいっぱい見える。


 レポーターの声が聞こえてきた。


「――ここはどこ? え? あの橋、あれ、名港中央大橋? じゃあこれは、金城ふ頭が――ああ、金城ふ頭が、なくなっています。あの白いの、あれは車です。港で積み込まれるのを待っていた自動車たちです。あの白い長いのは、じゃあ、ああ! あれは、リニア・鉄道館に展示されていた新幹線です。なんてことでしょう!」


 レポータも、だいぶ混乱しているようだ。


 夜の海は暗く、カメラがとらえている範囲はせまい。画面の外の惨状は朝になるまで分からないだろう。


 吉田は無意識に口を手で覆った。


「パパ呼んで来て」


 また、妻の声がした。


 レポーターはヘルメットをかぶり、画面に身を乗り出してレポートを続けた。匂いや温度について、それから被害の状況について話す。つづいて、死者、行方不明者、怪我人の数。しかし、画面のインパクトが強すぎて、ほとんど頭に入ってこない。


(俺ならどうレポートするだろうか。少なくとも、画面に顔を突っ込んで視聴者の邪魔はしない。画で足りるなら口をつぐむ。自分の顔にカメラが落ち着いたときに、視聴者がいちばん知りたい情報を伝えればいい。この場合、伝えるべき情報はたったひとつだ。それは、この惨事を起こしたのが赤鉄アカムなのかどうか、だ)


 六日前、赤鉄アカムは町田警察署で声明を出した。それは、日本人全員から月に千円、つまり総額で毎月千二百億円の要求だった。さらに、断れば百万人都市を沈めるといった。


 声明を全国に伝えたのは吉田だ。直接赤鉄アカムのもとへ向かい、質問し、撮影した。その期限が五日後、つまり昨日だった。


 画面が一旦、スタジオにもどって、こんどは川のようになった道路が映った。ボートに被災者が乗りこでいる。


 キャスターが新しい情報を伝えはじめた。


「名古屋TV塔が破壊されたという情報が入ってきました。被害は電波塔にとどまらず、周囲の久屋大通公園セントラルパークや、栄の街全体に及んでいるようです。名古屋TV塔で、なにがあったのでしょうか。伊勢湾爆発と関係があるのでしょうか。付近のみなさまや、名古屋TV塔に登っていたみなさまの安否が心配です」


「関係あるに決まってるだろ」


 吉田は、思わずモニターにつっこみを入れた。


「パパ」


(こりゃあ、情報を隠してるな)


 吉田は確信した。その証拠に目撃者のインタビューがない。重要な情報を持っている人を警察が保護しているか、報道を禁じているのだ。


「パパ」


 有事の際には、報道の自由は暗黙のうちに失われるものだ。報道する側も結局は受け入れる。それは仕方ない面もある。表現者だって人間であり、人の親なのだ。その一線を踏み越えることを胸に誰もがこの世界に入るのだが、組織の中で人は変わる。


(俺だって、そうだった……)


「パパ!」


 誰かが服のすそを引いているのに気がついて、吉田は我に返った。四歳になる娘が、悲しそうな顔で立っている。


「なんだい?」


 愛娘の頭に手をおく。


「ごはん。ままがよんでるよ」


 そういえば味噌汁の匂いがする。吉田はマウスを操作してTVを消した。


 娘が笑った。最近、自分に似てきたと思う。美人の母親に似て欲しいと願いながらも、吉田は嬉しくて仕方がない。


「ママに、すぐ行くっていっといて」


 娘がリビングへ駆けだしたのを見とどけて、吉田は立ち上がり、クローゼットに向かった。

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