表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         3節 名古屋TV塔の戦い
36/116

35

 どすん、と腹にくる地鳴りが起こった。床がびりびりとふるえたかと思うと、潮の匂いがする強い風がやってきた。


「もうやだよ。行こうよ、ねえ」


 井上ひまりが山本陸の袖を引く。


「ひまりちゃんは帰って。俺は残るから」


 ふたりはオアシス21という、青く光る楕円形の建物の屋上公園にいる。


 陸が家へ帰るように言っても、ひまりは聞かなかった。ならば勝手にしろと現場に向かうと、あとをついてきた。


 オアシス21から公園まで距離はあったが、樹木が吹き飛んで中を見ることができた。そのときの稲妻は、幸いにも、ここまでは届かなかった。


 そのあと、目の前で繰り広げられた非現実的な光景に魅入られたまま、ふたりは、いままでここにいたのだった。


「じゃあ、行くよ。知らないからね。あたし、行くからね」


 ひまりが繰り返す。


 そのとき、オアシス21前の地面が動いた。


(なんだ?)


 陸は目をこらした。――人だ。人が倒れている。


 いつからいたのだろう。いまのいままで、まったく気がつかなかった。その人影は、月灯りを背負って立ち上がると、上着を脱ぎ捨てた。


「おお」


 陸は、思わず声を出し、慌てて口に手をやった。


 月光に浮かび上がったのは、TVや雑誌でしか見ないような素晴らしいプロポーションの女性だった。丸刈りなのか、髪がないのも、アーティスティックな印象を強めている。


 女は、よろけながらセントラルパークのほうへ去り、闇に消えた。


 それから五分あまり、陸は呆然としていた。遠く、サイレンが鳴り出す。


「すげえものを見たなあ。人生観が変わりそうだ」


 陸はひとりごちた。


「ちょっと、あんた」


 突然、耳元で声がした。


「わ、びっくりした。まだ、いたのかよ」


「これからどうすんのよ」


 さっきまでの甘えた声はどこへやら、ひまりの声にも表情にも、棘しかない。


「ごめん、今日は送っていけない。また連絡するよ」


「ふん」


 鼻を鳴らして、ひまりは勢いよく立ちあがった。そして、虫でも見るような目で陸を見た。


「この遊び人が! あんたに、はなはやらないよ!」


「はなって、はなちゃんのこと?」


「そう、あの子はあたしの妹よ」


 陸はしばし考えて、言った。


「そっか、俺を試してたのか。わかった。はなちゃんに、ありがとうって伝えといて」


 ひまりの声は怒りのあまり震えていた。


「よくも、そんな軽々しく……あの子は本気なのよ!」


「知ってるよ」


 軽く言って、ひまりを置いて階段へと歩きだす。


「ちょっと、待ちなさいよ。あんた、なに考えてんの!?」


 ひまりが大声で言った。


「人助け」


 陸は右手を上げて答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ