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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         3節 名古屋TV塔の戦い
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 名古屋TV塔で爆発が起きる数刻前、アカムは塔の先端の太いアンテナの根元に着地した。


 降下するにつれて、吹く風に混じりはじめた地上の喧騒が、いまは空気に満ちている。高空を飛んできたアカムにすれば地上に降りた感覚だったが、ここはまだ地上180メートルの高さだ。


 あらかじめ携帯端末で調べたところによると、名古屋市は南以外のぐるりを山に囲まれている。三方に山陰が見えるはずだが、いまはどの方向も空と繋がって真黒だ。地平線まで夜景が続いているように見える。


 眼下に、街路樹に挟まれて南北にのびる細長い公園がある。公園の両脇の道路は街灯が明るく車や人の往来があるが、公園内は暗く無人のようだ。公園内の街灯は、鉄塔のライトアップとおなじオレンジ色で、数も少なく控えめに並んでいて存外に趣味がいい。広い公園を中心に、三越があり、観覧車があり、楕円形に青く光る洒落た建物があり、なかなかに洗練された都市風景だった。


 この街のあちこちで、恋人同士が、友達同士が、家族が、楽しく過ごしているだろう。ここから見えるすべての灯りの下で、いつも通りのいとなみが平穏無事に行われている。――つまり、だれもアカムの忠告など気にしていない。


(それならそれで、いいけどさ。いつもそうだ。やつらは、言葉を軽んじている。わかりやすい証拠を提出しないと、だれも信じない。相手に伝わるように、考えて、気をつかって、それでも50%、否、30%、受け取ってもらえるかどうか。


『それがコミュニケーションというものだ』


『心ある人はみんな、伝わらないことを前提に工夫してやり取りをするもんだ。お前だって、そうしてもらってきたんだよ』


 ――はっ!)


「面倒くせえ」


 アカムは吐き捨てた。


 町田警察署で暴れて以来、臍のあたりに感じる熱――その熱に集中する。熱は、アカムの中でゆるやかに明滅する光だ。アカムが存在を感じようとした分だけ、かがやきを増す。


 集中が高まるにつれ、名古屋の夜空を流れるノイズが遠くなっていく。足もとの優しいピアノの和音も、バイクのエンジン音も、鉄塔の骨がまとう風音も、静寂に飲み込まれていく。身の内に光があふれ、熱が四肢に満ち、自分が光の塊になったような高揚感がやってくる。


 ここまで来ると、光は物理的な力をもつ。目の前のコップをつかみ上げる気軽さで世界に触れられるようになる。


 アカムには、幼いころから、この光の感覚があった。ときおり、光は体の中から、使ってくれとせがんできた。


 声に従い、1度だけ、光に身をまかせたことがある。そのときにアカムは母親を巻きこむ事故を起こした。母親が重傷を負い、家がめちゃめちゃになり、両親になじられ、恐れられ、禁じられた。それ以来、その禁はアカム自身の禁となって、光をおさえ込んできた。


(だけど、いまはちがうんだよなあ)


 アカムは光を制御する方法を身につけつつあった。町田警察署の一件から、日々、試行している。それは楽しく興味深い体験だった。


「さあ、ここからだ」


 光を集めて、大砲の弾のように撃ち出したいのだが、ちょっとしたブレで霧散してしまう。なんどか試したが、ピンポン玉ほどの大きさが限界だった。それっぽっちでは、せいぜい数百メートルの爆発だろう。名古屋を吹き飛ばすには、ぜんぜん足りない。


(もう少し、もう少し)


 アカムの体から脈動する光が漏れ出す。


 そのころ、2百メートル離れたロサンゼルス広場の噴水脇のベンチで、山本陸が井上ひまりの太腿をなでていた。山本陸が目撃した明滅する光は、この光だった。


 アカムは女性の肌に触れるがごとく、繊細な操作に熱中していたが――。


 いきなり、名古屋テレビ塔の先端が爆発した。アカムは爆圧で名古屋の夜空に放り出された。

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