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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         3節 名古屋TV塔の戦い
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29

 赤鉄アカムが期限と定めた3月14日の翌日、3月15日の20時半。名古屋市栄地区の久屋大通公園で、山本陸は、井上ひまりに言った。


「意外と綺麗だろ? ライトアップ」


 ふたりは3日前に合コンで知り合い、今日がはじめてのデートだった。3月半ばの肌寒さを理由に体を寄せ、右手と右手、左手と左手を握りあっている。


「まあね。でも、なんか地味じゃない? 名古屋TV塔って名前もダサ。なんとかツリーにすればいいのに」


「エッフェル塔みたいで、かっこいいと思うけどな。行ったことないけど」


 ふたりは互いに嘘をつきあっていた。陸は高校生なのに大学生といい、ひまりはOLなのに大学生のふりをしている。


「エッチぃ、手のひら、こちょこちょしたっしょ」


 ひまりが陸の胸にしなだれかかった。


「ひまりちゃんだって、俺の人差し指をしごくなよ」


「しごくとか言うなし……ん……」


 陸が、唇でひまりの口をふさいだ。そのまま、ふとももに手をのばす。


 水曜日の夜で、久屋大通公園内に人影はまばらだ。ふたりがいるロサンゼルス広場にいたっては、おそらく無人である。


 姉妹都市のロサンゼルスから送られた鷲の像の前にベンチのような岩があって、ふたりはそこに座っている。水と岩でできた、ディズニーランドの一角のような噴水越しに、名古屋TV塔が見える。昼間は銀色にかがやく鉄塔は、いまは赤銅色にライトアップされている。樹木が街の灯りをさえぎって、すっかり暗い。その上、噴水の音がおおきく、おたがいの声を聞こうとして顔の距離が近くなる。


 陸はこの場所で、なんども女を口説き落としていた。ついこのあいだも女子高生を落としたばかりだ。夕食後にオアシス21にのぼり、そのあとでここに来るのが、お決まりのコースだった。


(こりゃ、余裕だな)


 ひまりは、案の定、抵抗しない。それはそうだ。ひまりは待ち合わせのときから、いちいち体に触ってきたし、夕食の席ではエッチな話ばかりしていた。


「ちょ……やぁだぁ」


 言葉とは裏腹に、胸を押しつけてくる。


「うれしいよ」と、陸はひまりの耳元でささやいた。


 ひまりの吐息を頬に感じながら、陸は思った。


(ここで? さすがにまじぃか……いや、それもいいか――ん? なんだあれは――)


 視界の隅で、ふいに、なにかが、ちかりと光った。名古屋TV塔の先端のようだ。ひまりの肩越しに目を凝らす。


(――また光った)


 ライトアップとはちがう、白くて、ふわふわと揺らぐ不思議な光だ。


「なんだ、あれ?」


 思わず声が出る。


 まだ、見える。錯覚ではないようだ。まるで生きているようで、子供のころに田舎で見た蛍を思い出した。


「ねえ、どうしたの? いいよ、じゃあ場所を変えて――キャッ!」


 突然の閃光に驚いた、ひまりの悲鳴を、直後にやってきた爆音が掻き消す。


 陸は状況を把握しようとしたが、網膜に焼きついた残像が邪魔で視界が狭い。おまけに、ひまりが首にしがみついてきて身動きがとれない。


(さっきの光が爆発したのか。でもその前に、たしか――こいつ、意外に力が強いな……)


「に、逃げよう、陸くん」


「うん……ああ――いや、連絡しなくちゃ。人がいっぱい、いるはずだ……おい、離せよ」


「やだ!」


 締めつける力が尋常ではない。


 こんどは向こう側、セントラルパークのほうで爆発がおきた。ひまりが悲鳴を上げて、ますます陸の首を絞める。


「く、苦しい……待って……スマホ取れねえだろうがっ……ったく」


 ひまりの脇の下から手を入れて、ジャケットの内ポケットから携帯端末を取り出す。なにか柔らかいものが腕に触れたが、いまはそれどころではない。


(まずは状況を把握して、こいつを家に帰して――)


 陸は今後の行動を考えながら、さっき見た不思議な光を思い出していた。

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