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「日本政府に要求します。国民1人から毎月千円を徴収して、俺に支払ってください」と、赤鉄アカムは言った。
「日本の人口って1億2千万人くらいでしたっけ? 全部あわせれば毎月1千2百億円だから、まあ、そのくらいもらえれば十分かなって思います。今月分からお願いします。5日後までにお願いしたいから、えっと、3月14日かな。口座はあとで教えます」
現場が静まりかえった。スタジオもお茶の間も同様だろう。
「あの赤鉄さん、それはどういう――」
吉田の言葉をさえぎって、赤鉄アカムは、できの悪い部下を諭すように言った。
「だから、日本政府から俺への給料だよ」
(なんなんだ、こいつは)
吉田は、もはや呆れるしかなかった。
婦警を陵辱し、それをゴールデンタイムのお茶の間にあまねく届け、こんどは日本国に大金を要求しだした。理解しろというほうが無理だ。
赤鉄アカムは続ける。
「たぶん、日本政府は俺を無視するでしょう。国民のみなさんはTVの前で嘲笑っているでしょう。だから、ここで宣言します。もし、3月14日までに1千2百億円を俺の口座に振り込まなかったら、百万人都市のひとつを消します」
(丸っきり馬鹿みたいだ)
気が遠くなるような非現実感を、吉田は感じた。しかし、それでも質問するのが吉田の仕事だ。
「赤鉄さん、うかがっていいですか? それは――百万人都市を消すというのは、どういう意味にとらえればいいでしょう?」
赤鉄アカムが嘲りの表情で吉田を見る。
(その顔をやめろ、はったおすぞ)
吉田は心の中でだけ喧嘩腰に言った。しかし、直後に赤鉄アカムと目が合った。
(――しまった、顔に出てしまったか。まさか心が読めるのか?)
吉田の脳裏に妻と娘の顔が浮かぶ。
「吉田さん、そんなに馬鹿にしないでよ。いままで、さんざん我慢してきたんだからさ。少しくらい偉そうにしたって、いいじゃないですか」
「いえ、そんなつもりではないんです。ただ、少し面食らってしまって……」
「言葉通りの意味ですよ。都市がなくなって、都市の名前の湾ができるってこと。札幌湾とか、北九州湾とか。それでさ、給料が入ったら払うってことでさ、どこか高級ホテルに俺の部屋を用意して欲しいんです。帝國ホテルのスウィートルームとか、いいな。あとで行くから、帝國ホテルのみなさん、準備お願いしますね。――以上です」
赤鉄アカムが言葉を終えて、しばし無音の時間が流れた。
吉田は役割を果たすべく、気を取り直して、ふたたび口をひらいた。
「質問いいですか?」
「どうぞ」
「あなたはいま、日本国民全員に月千円を要求して、それを給料といいましたね?」
「はい、いいました」
「では、あなたは、どんな見返りを――つまり仕事を、日本国民に対してするのですか?」
「おお、いい質問ですね!」
赤鉄アカムは腕を組んで、しばらく考えてから、カメラ目線で返答した。
「災害救助、国防、治安維持を、いまのところはイメージしてます。きっと役に立ちますよ」
「警察力になるということですか?」
「そうです、そうです。圧倒的ですよ。なんせ俺、地球を壊せますから」
赤鉄アカムの自信満々の顔を、吉田は茫然と見つめた。




