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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
           2節 世界の行く末
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 陸とひまりは、間一髪でグランドプリンス高輪の崩落から逃れた。


 椅子の脚とカーテンの切れ端を使って添え木をして、ようやく立てるようになった陸は、ひまりの肩をかりて大部屋を出た。5階から非常用シューターで外に出て、歩き出した途端、建物全体が崩れた。地面に伏せたふたりの背中に、土砂と轟音が降り注いだ。


 長く感じたが、実際には数分だったろう。幸運にも大きな落下物の直撃はなく、崩落はひと段落した。


 辺りは、すっかり暗くなっていた。空を見ると、赤い光の柱はない。たくさん浮いていた光の球も消えている。


 わずかに残った街灯が照らす周囲の暗がりで人々が蠢いていた。呻き、嗚咽し、励まし合う声。どれほどの犠牲が出たろうか。瓦礫を掘り起こし、誰かを助けようとしている人を、いつもの陸なら手伝ったろう。けれど、このときの陸は、ひまりに支えられて歩くだけで精一杯だった。いまは自分とひまりが助かることだけを考えよう、と、決めた。


 携帯端末の地図アプリで調べると、近くに小学校があった。陸はボランティアの経験から、そこを目指すのが得策だと考えた。


「あそこ、白金小学校だね」と、ひまりが言った。「ちょっと、大丈夫!?」


 陸は目眩がして倒れてしまった。


「ひどい熱……ああ、どうしよう!」


 なんとか意識を保って、ひまりの肩を借りて立つ。ふたりは、明るく照らされたグラウンドへ向かった。




 白金小学校は予想通り、避難所になっていた。発電機のエンジン音が鳴り響いている。


 陸とひまりは受け入れられて、体育館に案内された。避難所は開設されたばかりで、医師の人手は足りていなかったが、それでも化膿止めと痛み止めをもらい、ちゃんとした添え木と清潔な包帯で処置をしてもらうことができた。


 陸は少し眠ろうと横になり――すぐに身を起こした。


「どうしたの、痛む?」


「いや……ほら、あれ」と言って、指をさす。


 3つほど向こうの寝床で、医師と看護師が、黒い革繋ぎを着た女性を診ている。洗面器の横に血を含んだ布や脱脂綿が山と積まれているのを見ると、ひどい怪我をしているのだろう。別の看護師が大きな裁ちばさみを持ってきて、3人掛かりで上半身の革繋ぎを切りにかかった。一瞬、美しい乳房が見えた。


「あの人、名古屋TV塔の……」


 ひまりが声を押さえて言った。陸がうなずく。


 額の上に正三角形に髪を残した坊主頭、上品な美形、モデルのような長身。間違いなく、名古屋の久屋大通り公園で赤鉄アカムと戦っていた女だ。


 女が低く呻き、暴れ出した。看護師が手足を押さえる。


「このままじゃ危ないぞ……」


 医師がつぶやいた。




 やがて、中国人女性は静かになった。応急処置は済んだものの重症で、一刻も早い専門処置が必要らしい。けれど近所の病院はいっぱいで、受け入れてくれない。身元も分からず言葉も通じない。持ち物もない。毛布を掛けられて、ただ寝ている状態だ。


「これから、大変だね」と、ひまりが言った。


 陸は、女は機を見てここから逃げるだろうと思った。おそらく殺し屋とか、そんな素性なのだ。混乱している間に身を隠すはずだ。


(けど、難しいかもな)


 女は両足を失っていた。


(否、それでも――)


 女は行動するだろう。なぜか陸はそう確信していた。そして、女を助けてやろうと思った。

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