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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
           2節 世界の行く末
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 陸とひまりは非常階段まで進んでいた。渋滞は羊腸に詰め込まれた挽肉のように、じりじりと進む。一段降りるたびに足場を探り、中腰で足を下ろす。かなり、きつい。


 人々の頬には涙のあとがあったが、突然のあの悲しい気持ちは、もうなくなっていた。


 11階の踊り場手前で大きな揺れがきた。階段全体が傾いて壁に押しつけられる。満員電車が、ちょっとした余興に思えるほどの圧縮だ。


 左肩の痛みが激しく、陸は頭がくらくらした。


「……ひまり、大丈夫か?」


 腕の中の小さな頭に声をかける。返事がない。


 非常灯が消えた。暗闇におののいた人々が悲鳴をあげる。どすん、と、また揺れた。視界が、ぐるりと回って上下左右がわからなくなる。もみくちゃにされ、殴られ蹴られ、意識が遠のく。


「ひまり――っ!」


 揺れがおさまった。うめき声、泣き声、痛みを訴える声が聞こえる。陸は自分の右足が、ぴんと伸びたまま、肉と肉の間にはさまっていることに気がついた。


(これは、まずい――)


 そう思った瞬間、一気に雪崩が起きた。崩壊の音が響き、落下。降り注ぐ瓦礫と埃。生暖かい液体が顔にかかる。ばきり、と嫌な音がして陸は気を失った。



   ◆◆◆



「陸――陸、起きて!」


 光がゆらめく。


 目を開こうとすると、目蓋の裏で何かが、ごろりと動いた。こすろうとしたが、眼球を傷つけてはいけないと思ってやめた。


「陸!」


(――そうだ、状況はどうなった? ひまりは?)


「あぎゃっ!」


 体を起こそうとして、あまりの痛みに叫んでしまう。


「動いちゃ駄目!」


 薄目をあけると、ひまりが覗き込んでいた。手にLEDライトのキーホルダーを持っている。


「ほら、見て」


 ひまりが腕を差し込んで、首を起こしてくれた。陸の右足の膝から先が、へんてこな方向を向いている。


「……くそう」


 平らな場所に寝かされている。どうやら、まだホテルの中にいるようだ。


「怪我はないか?」


 ひまりが、うなずく。


「わたしは大丈夫だよ。なんか、わーってなって、どーっと出て、バラバラになったの。そのあと、後ろのほうで凄い音がして、静かになった」


(ここは、たぶん催事用の大部屋だ)


 暗くてよくわからないが、他にも、あちこちに人が倒れているようだ。


「俺の足、血は出てるか?」


「ううん」


 動けさえすれば、まだ、ある。痛みは耐えるしかない。なんとか移動をはじめないと――。


「その辺に棒が落ちてないか。鉄でも、木でもいい」


 ひまりは言われたものを探しに行った。

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