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アカムは目をあけた。雨が全身を打っている。起き上がろうとしたが、バランスを崩して倒れてしまった。
(そうだ、左腕と右足がないんだ)
「うり……」
歯を食いしばって、黒く濡れた芝生を這いずる。まるで両生類のように、腹を引きずって進む。
ようやくリビングのサッシに辿りつき、すがりついて立ち上がる。鍵が掛かっている。右手をサッシに打ちつけたが、跳ね返されてしまった。
(こんなガラス一枚、割る力がないのか……)
アカムは落ちていた煉瓦を拾い、サッシに叩きつけた。三度目で全体が砕け落ちた。内側に手を突っ込んで鍵をあける。
リビングは荒れていた。ソファと机が乱暴に動かされて、ラグが捲れ上がっている。
「――なんだ?」
部屋の中央に、槇則医師と岩瀬看護師が倒れていた。ぐんにゃりと人形のようにねじ曲がった体――ふたりとも、確かめるまでもなく死んでいた。
「うり、どこだ!?」
壁をつたい、片足で跳ねるようにして寝室へ向かう。開きっぱなしのドアに不吉な予感を抱きながら、アカムは部屋を覗き込んだ。
夜の風がアイボリーのカーテンを揺らし、雨が吹き込んでいた。診察機器が乱暴に倒されて散乱している。うりは喉を裂かれて、床の血溜まりに仰向けに倒れていた。




