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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
第5章 アカムとうり 1節 最後の戦い
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 白金での行動開始の5日前、7月3日。それは、六本木で黒煙の化け物が暴れた2日後の午後のことだった。


 入井と安藤院は、影山一佐に呼び出されて会議室に向かった。すっきりした薄いブルーのポロシャツ姿の老人がソファに座っていた。


 影山が言った。


「先生、今行動の指揮をとる入井三佐と部下の安藤院二尉です。入井、安藤院、こちらが園田夜介館長だ」


「園田夜介です」


 老人は静かに立って礼をした。入井と安藤院は礼を返して自己紹介すると、影山に促されて着座した。


 安藤院は初対面のわずかな所作で、その小柄な老人から並々ならぬ迫力を感じた。どこまでも静かで、それでいて部屋を圧する存在感がある。


「メールで書いた通り、園田館長は私の合気道の先生だ。古武術の研究家でもいらっしゃる。赤鉄アカムや黒煙の化け物の件で、ご意見を頂こうと連絡をとっていた」


 影山は、いつも通り、いきなり本題に入った。安藤院なら、会議冒頭は場を和ませるべく言葉を選ぶ所だが、影山は頓着しない。それが出世のコツなのかどうか。安藤院にはまだ判然としない。


 影山は続けた。


「結論から言えば、今回特設した君たちの部隊に園田館長のご助言を活かしてもらいたい。すでに新しい弾薬の製造も始まっている」


「弾薬? どういうことです。まさか、銀の弾丸なんてことは言わないですよねぇ、ひひ」と、入井が茶化した。


 入井は、いついかなる時も、このような軽い態度をとる。それでいて上層部には受け入れられている。これも安藤院には不思議だ。


 影山は嘆息して小さく頷いた。安藤院は、その意図を計りかねた。


「先生、恐縮ですが、是非先生の口からお聞かせ下さい」


 園田老人は影山の言葉を受けて、体を入井と安藤院に向けた。


「仙人というのを、ご存じですか」と、園田老人が言った。


「水墨画の仙人ですかぁ?」と、入井が問い返す。


「ええ、それです。赤鉄アカムというのは、その仙人です。黒煙の化け物というのは、私は知りませんが、いずれ仙人の裏返った何かでしょうな」


「ちょ、ちょっと待って下さい」


 安藤院は思わず割って入った。


「もう少し説明を……」


 園田老人が安藤院を見てうなずく。


「そりゃあ、わけが分かりませんわな。しかし、影山くんから時間がないと聞いていましてな。いきなり結論を言ったまでです。それに、あなたには想像がつくでしょう? お見掛けしたところ、まだ科学で説明されていない力のあることを、あなたは知っているでしょう」


「そうなのかぁ、安藤院? ひひ」


 入井が、こちらを向いて言った。目が笑っている――否、実際に笑い声が漏れているが。


「安藤院君を特設部隊に指名したのは、それも期待してのことだ。武道の達人は知らずにこの力を使っているらしい。私には、できないがね」と、影山。


 安藤院は面食らって呆然とした。


(ふたりは、なにを言っている? 力だって? なんだそれは?)


 突然、園田老人を中心に異様な威圧感が生じた。突風が吹きつけて机の珈琲が吹き飛ぶ。


「熱ちっ!」と、叫んだのは入井だ。


「僕にできるのは、これくらいのものだがね。――すみません、珈琲をこぼしてしまったな。火傷はしなかったですかな」


 穏やかに言う園田老人の後頭部付近が薄らと光っている。


「合気道では呼吸力と言いますがね。普段は、あくまで自分の内側で高めて、相手との結びに発する。それを外側に押し出すと、いま見せたようになります。いわゆる気というやつです」


「つまり、赤鉄アカムは珈琲をこぼす代わりに、これで戦闘ヘリコプターを爆発させるわけだぁ」と、入井がハンカチで左手の甲を押さえながら言った。


 園田老人がうなずく。


「その通り。武道家は気を高めることで肉体の力を引き出しますが、赤鉄アカムは、あの膨大な気でそれをやります。まあ、無敵ですな」


 園田老人は、どこか愉快そうだ。


「先生、笑い事じゃありませんよ」と、影山が言った。


「いや、失敬。まさか生きて本物を見られるとは思わなんだものでね。正直、感動してるのですよ」


「私には、そんな力ありませんよ」


 安藤院は言葉がぶっきらぼうになってしまうのを止められなかった。園田老人が安藤院の目を正面から見た。


「あなたのビデオを拝見しました。試合に臨むときに高め、打ち込んでらした、あれです。あなたは既に身につけている。訓練すれば、かなりのものになるはずです」


「そんなことは……ちょっと信じられません」


 入井が安藤院の肩を叩く。


「じゃあ、安藤院は特研ですかなぁ」


 影山がうなずいた。


「こりゃあいい! 是非、赤鉄アカムと戦える武道家になって帰って来てくれぇ、ひひひひひ」


 入井は、とにかく嬉しそうだ。園田老人は入井の無礼など気にした風もなく、言った。


「まあ、一瞬で殺されることはなくなるでしょう。素人からはじめたら10年でも無理でしょうが、安藤院さんなら1年かな」


「頼みます。それでぇ、銀の弾丸のほうは、なんなんですぅ?」


 入井は狼狽する安藤院を無視して、訊いた。園田老人が答える。


「洋の東西を問わず、魔物には銀の武器です。銀は気をよく通すのです。吸い込むし、拡散もする」


「9ミリと、7.62ミリの銀弾丸を製造中だ。3日後には、ある程度調達できる」と、影山が補足する。


「そりゃあ、頼もしい。まるっきり悪魔狩りですなぁ、ひひ」


 入井の、にやにやが止まらない。安藤院は、まるっきり笑えなかった。

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