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ステイホーム  作者: ソロ歌
1章
6/6

5話 揺れる心

「お疲れ様でした!!」

 部員達の声が体育館に響く。

 サークル活動も終わりボールを片付け出す部員達。練習メニューが書かれた書類を整理する明音。書類整理中の明音をボーッと眺める冬夜。疲れを噛み締め壁にもたれかかる東生。

 それぞれが、やるべき事をしたり駄弁ったりして練習後の余韻に浸っている。

「お疲れ様でした」

 いち早く東生は片付けを終え、体育館を後にする。東生の背後では「お疲れ様でした!」と後輩達が声をかける。

 体育館を出た東生は、校舎への渡り廊下を歩く。外では、他のサークルの活動中の音が聞こえてくる。

 騒がしい渡り廊下を歩きながら東生は考える。

 帰ったら、絢香と何か話した方がいいよな。にしても何話そう…。

 自分がどうしたらいいか分からずに頭を抱える。


 着替えを終えた東生は、さっさと学校を出て行き帰路につく。

 黒の傘を低めに持つと、自分が濡れないように身を隠す。

 雨はどんどん強くなってゆき叩きつけるような音が鳴り響いていた。

 しかし、空を見ると夕暮れ空が広がっている。お昼のお天気雨に続き、綺麗な夕暮れなのに大雨が降っている。

 不思議な天気に東生も気分が下がって行く。

 いつも通る公園も今日は誰もいない。ただただ今は、ブランコが雨に濡れている静かな公園。

 いつもは、小さい子達で賑わっているのに。

 雨音を背景に、東生は思った。


next


「お帰り〜」

 突如帰ってきた東生に、絢香は慌ててスマホに目を落とす。

「あ、帰ってたのか」

 リビングまでやってきた東生が、バッグを下ろしながら話しかける。

 絢香は必死に平然を保ち、スマホをいじる。

「あ、う、うん」

 平然を意識しても、絢香には難しい話であった。



「「あのさ!」」



 少しの沈黙を耐えかねたのか二人は揃って声を上げる。

 なんだよ。この恋愛物みたいな流れ!王道だぞ!王道!

「なに?」

 落ち着いた口調で東生が聞く。

 ただその落ち着きからも不安の気持ちが漂ってくる。

「い、いや。なんでも」

「そう」

 何を話したら良いか分からなくなり、再び絢香は場を濁してしまう。

「ごめん…!」

「えっ?」

 急に謝った東生を見て、驚き顔を覗き込むように近づく絢香。

 そんな絢香を気にせず、頭を下げたまま東生は話を続ける。

「なんか、話さないとって思ってさ。無理して話そうとして変な空気作って」

「……私も!」

「え?」

 謝っている東生を遮るように絢香は叫んだ。

 それに反応して東生も顔を上げてしまう。

「私も話さなきゃって焦って。それで!それでさ!私!」

「……!?」

 何かを言いかけて辞めた絢香の顔を東生が覗き込もうとした時。それは起きた。

 東生の胸に絢香の顔が当たる。

 髪の優しい匂いが香ってくる。

 そう。東生は絢香に抱きつかれたのだ。

 東生の早い心臓の鼓動が、絢香の耳に届く。

「い、いや。ごめんなさい!」

 絢香は急に何をやっているのかが分からなくなり、東生から離れる。

 東生はしばらく黙ったが、何かを思いついたように、絢香に近づく。


 そして


「えっ?」

 お返し。と言わんばかりに東生は絢香を抱く。

「僕、もう絢香に無理させない」

 急な決め台詞に絢香は赤面した。

 それを言った東生本人も赤面していた。

 絢香の脳内では、涼太と東生が揺れ合う。

 東生に抱きついたのは焦りからであって、そういう恋愛感情はなかった。ただ、東生に抱きしめられたのは、とても嬉しかった。

 絢香の脳内でさらに、揺れが激しくなる。

 そろそろ、外では雨がやんできていた。

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