表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステイホーム  作者: ソロ歌
1章
4/6

3話 輝く光に

「よし。終了だな。お疲れ」

 4時限が終わりバラバラとそれぞれノートをしまい講堂を出て行く。

 東生も食堂に向かうため、ノートと教科書をカバンにしまう。

「なぁ、佐々木」

「なに?」

 横で授業を受けていた「朝比奈(あさひな) (とおる)」に声をかけられ、東生は片付けを続けながらも耳を傾ける。

「お前、麻央と仲良いんだろ?ちょっと紹介してく…」

「無理」

 透の話に考える間も無く即答する。

 くだらない。恋だの恋愛だのと自分からしてはくだらないし、ましてや仲介役などなりたくもない。

「おい!友達だろ!」

「なった覚えはない」

 粘ろうとする透を東生は雑に切り捨てると、バッグを手に持ちスタスタと教室を出て行く。

 友達?「この日」の「この授業」が一緒なだけだろ。今まで話もしなかったし、まず相手は自分みたいな性格嫌いなはずだろ。

 東生は胸の中でぼやく。

「東生〜」

 お出まししたぞ。本人が。

 しばらく廊下を歩いた所で麻央に会う。相変わらず眠そうにしている。

「おぉ。麻央」

「食堂?」

「まぁな」

 同じ場所へ向かっている事を確認し合い、二人は話しながら歩いて行く。

「なぁ、そういや麻央」

 東生は思い出したように話し出す。あの話を。

 話が進むにつれ、顔はどんどん険しくなっていく。終盤では口の中に異物が入っているのか?と思うほど険しい顔をしていた。

「うぇぇ…そう言う人無理。全然無理」

 そう。麻央に話した話というのは、先ほどの透の話だった。

「私、もっとクールで冷静な人がいい」

「あ、そうか」

 麻央の思い切った告白も通じず、東生は『タイプの男性の事か』と流してしまう。

 そんな東生を見て、麻央は悔しそうな表情を浮かべる。

「どんだけ鈍感なんだろ…」

 東生の耳には届かないほどの声で麻央は気持ちを口に出す。

 そのまま二人は、たわいもない話に戻り食堂へと向かっていく。麻央は少しご機嫌斜めだが。


 食堂についた二人は、劉星とも合流して四人席に座った。

「なぁ、今日愛理来ないな」

「たしかに」

 愛理の心配の気持ちで、劉星と東生の頭がいっぱいになっている中、一人だけ別の気持ちを持った人がいた。

 麻央だ。

 愛理に心配してばかりで朝から放置気味の麻央はどんどん場の空気が嫌になっていた。

 その気持ちは貯めておけば良かったのだろう。しかし、麻央はその気持ちを外に出してしまう。

「なんで愛理ばっかりなの?愛理しか考えられないの?ねぇ!それで私は置いてけぼり?ねぇ!」

 二人は麻央を心配そうに見つけている。

『ポタッ。ポタッ』

 大粒の涙が、麻央の綺麗な頰の上を伝い机に落ちる。

 自分で言っておいて、自分で自分を傷つけて、追い込んで。バカみたい。

 麻央はさらに悲しくなり、一層強く泣き出した。

 それを心配し、一層二人も焦ってゆく。

「麻央?どうしたの?」

「どうした?麻央」

 二人は焦るあまりに麻央の本心に少しも気づかない。

 それを察して、麻央はさらに泣く。

 三人の中で負の連鎖が起きてしまっていた。慰めようと頑張れば傷つけ、何もしなくとも勿論傷つく。

「劉星!麻央ちゃんに何したの!」

 麻央の状態に気づいた女子達が一斉に劉星を責め出す。

「なんで俺!?」

 焦る劉星と、尚も心配を続ける東生。

「違う!」

 そんな二人を見て、麻央は叫ぶ。

『そうじゃない。そうじゃないの』

 発っそうとした言葉も、泣いている麻央の喉からは出てくることはなかった。ただただ掠れてしまい、気持ちを言い表せない。

 この場が嫌になったのか麻央は『ガタッ』と音を立て、立ち上がり食堂を走って出て行く。

 その姿を呆然と見つめる劉星と東生。


「それで!麻央ちゃんに何したの?」

 どのぐらい時間が経っただろうか?

 はたまた一瞬だろうか。

 放心状態だった二人に再び女子達のヤジが飛び始める。それから二人は女子達の尋問にあっていた。

 その間も二人は麻央の事を心配していた。


next


 放課後になり、いつもの帰宅メンバーの元へ向かおうとした絢香はふと、朝のことを思い出す。

 なんで、あんなに気分悪かったんだっけ。

 そう。お昼の涼太との会話から絢香は東生の事など忘れきっていた。

 悪いことではないだろう。むしろ良い事なのかもしれない。今の絢香にとっては。

「雨じゃん!」

「本当だ!」

「傘持ってきてないよ」

 昇降口付近で女子達の喚き声が聞こえる。

 絢香も内心心配しながらも靴を履き替え、外に出る。

『ザァァァァァァ…』

 土砂降りの雨だ。

 バケツをひっくり返したように。と言う言葉が丁度いいぐらいに。

「絢香!どうする!?」

「うぇっ?」

 後から走ってきた伽耶に背中を叩かれ変な声が出てしまう。

「私、傘ないか探してくる」

 きたばかりの伽耶はくるりと半回転して再び校舎へ走って行く。

「気をつけてね!」

 角を曲がり姿が消えた事を確認すると、絢香は花壇に腰をかける。丁度、雨が当たらなく座りやすい花壇。


 しばらく座って待っているが、なかなか伽耶は帰ってこない。

「あの。傘」

「え?」

 チラッと横を見ると、傘を差し出す手。

「あっ…」

 その手の主は涼太だった。

 涼太の良さとも言える優しさに触れて顔が赤くなっていく絢香。

 それを見て恥ずかしくなったのか、涼太も困ったような顔をする。

「必要、なかった?」

「あ、いや!」

 顔がどんどん熱くなって行くのに気づき恥ずかしくなる絢香を見て遠慮気味に涼太は手を引っ込める。

「必要だけどさ。涼太…くんは大丈夫なの?」

 恥ずかしそうに下を俯きながら話す絢香を見て涼太はクスクスと笑った。

「俺は大丈夫。ほかの男子達に入れてもらうからさ。柿野さんが迷惑じゃなかったら、借りて欲しいんだ」

 落ち着いた低音が響く…。

 絢香は少し考えると、伽耶のことも考え決断した。

「ありがと。借りるよ」

 そう言うと、絢香は涼太の手から傘を受け取る。

「それじゃ、じゃあな」

「う、うん」

 軽く絢香に手を振ると、足早に正門近くに見える男子達の所に涼太は走って行った。


「ダメだった……って、えっ?」

 戻ってきた伽耶が驚き絢香に近寄る。

 そりゃ、探していた伽耶よりも先に傘を手に入れているのだから。

「か、借りれたんだ。帰ろ」

 何も聞かれないように、さっさと帰る流れに絢香は運んだ。

 伽耶もあまり気にせず、絢香が開いた傘の中に入り歩き出す。

「今日、無駄に天気雨だね」

 絢香が呟く。

 それに答えるように、雲に隠れぎみの太陽がキラッと光った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ