悪役令嬢? はいはい。悪役令嬢ですよー。
『悪役令嬢? はいはい。悪役令嬢ですよー。』
役を振られたわ。
それは「悪役令嬢」。
わたし、伯爵令嬢ヴィクトリア・エンフィールドは夢の中に現れた女神とやらに言われたの。
わたしの使命は悪役令嬢を全うすることだって。
はあ? って思うでしょ。わたしも同じよ。はあ?
もちろん、そんなことを言われても困るわ。
わたしが断ると女神は困ったわ困ったわと焦り出したわ。
困ったのはこっちよ。なんでわたしがそんなこと受け入れないといけないのよ。
第一、悪役令嬢ってなに? 役なの? それともそういう職業があるの? その辺の説明もはっきりしてほしいわ。
すると、女神が条件を出してきたわ。
わたしが悪役令嬢を立派にこなしたら、どんな願いでも一つ叶えてくれるとのこと。
自分の人生を決められるのになんで一つなのよ。女神ならケチケチしないでいくらでもとは言えないの。
そう言うと女神は逆切れした。「本当なら無条件強制なのに譲歩してるんだ。文句を言わず受け入れろ」と。
もうただの脅しよね。か弱い人間を脅迫してくる神なんて幻滅よ。いい加減こんなしょうもない夢から覚めたくて、わたしは願いごとを一つ叶えてくれることを条件に、悪役令嬢とやらを渋々承諾したわ。
夢から覚めてからのわたしの生活は一変したわ。
いつでも頭の中で「今がその時だ!」と言わんばかりにいじわるな指令が頭の中で流れるの。
主にこの力が発揮されるのは上流階級の子息・息女が通う学園よ。わたしもここの生徒なの。
指令がくだればその通りに自然と体が動く。
こっちで問題を起こせ。
はいはい。今行きますよー。
あっちで問題起こせ。
はいはい。今行きますよー。
こっそり人の悪口や、物を隠したり……。程度の低いミッションをこなしつつ、同じくこの学園に通い婚約者でもある、この国の第一王子のお相手もしなくてはいけない。
はっきり言って疲れるったらないわ。王子の相手だけでも疲れるのに、指令があるたびに駆り出されるなんて。
わたし、どっちかって言うと頭脳派なの。やるんだったら計画は時間をかけてじっくり練りたい派なのよ。こんな条件反射で動くなんて美しくないわ。
日々を増すことに、私の(とても不本意な)悪行は学園をあっという間に巻き込んでしまった。
そしてついに決定的なことが起こる。
王子はいつの間にか他の令嬢にぞっこんになっていて、わたしがその令嬢を陥れたと断罪してきたわ。わたしはその令嬢に手を出した覚えはないが、度重なる悪行に聞き入れてはもらえなかった。
わたしには、悪役令嬢に、濡れ衣令嬢が追加された。
このことは国としても問題になり、婚約は破棄され、国を騒がせた罪に、王子の愛しい令嬢を陥れた罪と、元婚約者として王子に恥をかかせた罪は重罪で、死罪を言い渡された。
こんなに簡単に死刑なんて言い渡されるの?
あれよあれよと話は進み、捕らえられたわたしは、放りこまれた牢屋で一人ぼうっとしていた。
もう指令の声は聞こえない。どうやらわたしの悪役令嬢(+濡れ衣令嬢)の役目は終わったのだろう。
その時、女神が姿を現した。あの時、夢でみた女神。
ずいぶんと久しぶりに会った女神はとても満足そうな顔だった。
わたしの役目は終わり? そう尋ねると女神は首を縦に振った。
なぜこんなことをしたの? と尋ねると「これはわたしが作ったゲームの世界。でも登場人物は皆本物の人間です。他の神とどれだけおもしろくゲームが展開できるか競っていたのです。あなたは予想以上によく働いてくれました。来世はきっと幸せになりますよ」と。
ああ。ばかばかしい。薄々気づいていたけど、やはりバカな神の遊びごとだったのか。本当に人間のことを使い捨ての駒としか思っていないのね。
女神がにこにこ笑いながら「ではお約束の願い事を一つ、叶えましょう」と言ってきた。「話が大きく変わってしまうこと、例えば死罪を免れることは無理です」とも。悪役令嬢が死んで全てがハッピーエンドってことね。本当に悪趣味。
それ以外ならいいのね? わたしは念押しをする。「はい。神に二言はありません。必ず」。神が聞いて呆れるわ。
なら、とわたしは一呼吸置いて、言った。
「あなたをわたしの身代わりに任命するわ」
どうぞお望みのゲームクリアをしてちょうだい。




