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「わかりました」


 机の上の杯を手に取る。

 冒険者とは言えない……そう言われてしまうと、俺にはもう選択肢が無い。色々思うところはあっても、結局その線を踏み外してしまえば俺にはなにも残らないのだから。どんなに思うところがあっても、それだけは代えがきかない。


「それではまず乾杯といこうか」

「は」

「うん、未来の勇者……あるいはその可能性に。乾杯」

「……ありがとうございます」


 Chink !チン 俺が掲げた杯に、校長先生の持った杯があわされる。他ではきいたことも無い、すごく澄んだ音だ。そもそも飲酒どうのというより、俺は硝子製の杯に触れるのも初めてだと言うことに今更気付いた。普通は陶器か木器だもんな……ふー……一息ついて、杯を口元に持って行く。これって歯が当たったらいきなり壊れたりとかしないですよね? そう聞きたいけど情け無さすぎてちょっと気が引ける。割と真剣に怖いんだけど。

 ……あ、味がわからない。

 最初に手を伸ばしかけたときは、薬のたぐいと違って変な匂いとかしない物だと思って感心したけど、この状況だと味を感じる余裕が……でもわざわざ美味い酒だって言ってたしな……味がわからないとか言ったら不味……問題になる、というか嫌な顔されそうと言うか。ええい、もう一口!

 ……。


「おや、気に入ったかね?」

「あ、と。すいません、味の濃さにびっくりして」

「味の濃さ……?」

「あ、いえ、なんて言えば良いのか……」


 正確に言うと、雑味の無さと言うか……なんだろうな。冒険してるときに使う飲み薬なんかは、大概がもっとおおざっぱな味がする。青臭かったり、苦かったり、くどかったり。もちろん、薬として作られたそれらと飲み物として作られたこれが別物なのだと言うのはわかっていたつもりだけど、酒精の匂いがどうしても薬としての風合いを喚起する。だから本当にびっくりした。お酒ってこういう味なのか。

 そんな言いよどむ俺の姿になにか思うところがあったのか、校長先生の目に今日初めて穏やかな光が宿った。ほんの一瞬だけ。


「ふむ、なかなか見る目があるようだね……本来ならもう少し味わう時間をあげたいところだが、残念ながらそうも言ってられないんだ来てくれるかい?」

「あ、はい」


 慌てて残りを飲み干す。元々飲めない事態を想定していたのか杯は小さめだったからすぐに空にすることが出来た。杯を机に戻すと、再び校長先生は指を突き出し……Snapp!!パチン 次の瞬間部屋から全てが消えていた。

 いや、部屋が消えてしまった。さっきまであった机も長椅子も杯も、四方の石造りの壁も天井も……それどころか石畳に赤い絨毯を敷かれていた床すらも、全て消えてしまって俺は今真っ白な部屋に居る。まるで真っ白な大理石の中をくり抜いた中に放り込まれたみたいな……大理石の白い色には暖かみがあるけど、それでも病的にも感じる景色。これは、さっきまでの文机を出したり執務机を動かしてた魔法とは違う感じがする。もしかして先輩がモノケロスを喚ぶのに使ったのと同じ召還魔法? この部屋を俺達の周りに……あるいは俺達をこの部屋に召還した?


「後ろを」

「!」


 促されて振り向くと、そこには鎖で地面に張り付けにされた一頭のドラゴンが居る。太った馬くらいの大きさのトカゲに、片側だけで2ハード程の翼が生えてる、と言えば大きさがわかるだろうか……部屋が明らかに広くなってるから、多分この部屋に召還されたんだろうな。まさか、こいつと戦えと言うんだろうか。ディスケロスの殺印のせいでものすごくいきり立ってるんだけど。俺、武器持ってきてないんだけど。

 とっさに武器を求めれば、ドラゴンの顔の前に胸程度の高さの置き台があり、その上に剣身が短いが剣らしき物がのっている。後は……ドラゴンを縛り上げてる鎖か。

 そもそもドラゴンに勝てるイメージがわかない、というか戦いになるイメージができ無いんだけど、まさかここで戦えとか言われないよな。言われたら……とりあえず鎖が外れる前に剣を取りに行こう。少なくとも校長先生よりはドラゴンの方がマシだし、いくらなんでも素手で戦えとかは言われないだろう。


「安心したまえ。これは単に君の資質を確認するための試験だ」


 えーっと、これってどれですか。すごく戦わされる未来が見えるのですが。

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