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第3話

次回更新前後に、タイトルを『コレには裏がある〜冒険者学園の仲間達〜』に変えます。

「魔王、と呼ばれる物は知っているかな?」

「知っているかなって……」


 知らない人間がいるとしたらそれってどうなんですか。それとも俺が知らない魔王がいるのか。

 とりあえず俺が知ってる魔王と言うとあれだ。今から521年前(当時の暦で1043年前)に現れ、その15年後に倒された前時代の帝王とでも言うべき存在だ。現在の世界は魔王が一度征服したものを勇者が人間の手に明け渡しただけで、言ってしまえば現在のこの社会もほぼ魔王が作った物であると言える。そして冒険者達が目指す『外世界への進出』というのは、言ってしまえばまさにその魔王の手から人間の世界が脱却しようとしていると言うことに他ならない。

 ところでその魔王が最近復活した。

 最近と言ってもと100年程前と50年程前だが。もちろんその都度キッチリ勇者と呼ばれる者に倒されているし。


 ……。


 まさかね。


 ……。


 いや、そりゃ探索者の心得で最初に習うよ? 『二つ罠を見つけたなら油断せず三つ目を探せ』って。でも魔王は罠じゃないわけで。


 ……。


 校長先生、怖いだけなんでにっこり笑わないでください。ほんと勘弁してください。たしかにどっかで人生踏み外したとは思ったけど、それでも、ねえ? そう言うのは俺みたいな半端やろうじゃなくて、オットーとかモディエフみたいなやる気と才能があるやつに振る話しだと思うんです。


「いやぁ、君が察しが良くて嬉しいよ。さすがに彼が見込むだけのことがある」

「彼って」

「もちろん【銀の千嶺】のことだが」


 あのとき俺がディスケロスを殺す役をまかされたのは、単に動けたのが俺だけだったからで。別に見込まれた訳でも何でも無いはずで……

 Snapp!!パチン 校長先生が指を鳴らす音で沈みかけた思考を引き戻された。またそれと同時に黒く輝く黒檀製の文机と革張りの上等そうな長椅子が、俺を挟むように現れる。座れ、と言うことだろうか。ここで座ったら絶対に逃げられなくなるような気がして、その、もちろん逃げることが出来ないのはわかっているのだが、それでも何かちょっとでも抵抗出来る準備をしたくはなるのだが。

 ああ、ほんっと無駄な抵抗。目の前に血のように赤い液体で満たされた杯が現れる。


「さて、それじゃあじっくりと話しをしようか。もし良かったら座ってほしいんだが」


 Snapp!!パチン もう一度校長先生が指を鳴らすと執務机が消え、彼自身座っている椅子ごと滑るように黒檀の文机の前に移動してくる。そしてその椅子も極めて自然な動きで事務用椅子から肘掛け椅子のような形に変化していた。今までの用に距離があればともかく、こうなってしまえば立ったままだと明らかに見下ろすような形になってしまう。俺は渋々と椅子に腰を下ろした。


「飲酒経験はあるかね?」

「……冒険者用の薬のたぐいなら」

「訂正しよう。美味い酒を飲んだことがあるかね?」

「いいえ」


 そんな経験が出来る平民のガキが、わざわざ冒険者になりにくるかよ……とは口が裂けても言わないが。


「ならば飲みたまえ。報酬……いや、前祝いだ」


 つまりこれを飲んだら逃げられない訳だ。いや、今更。今更だ。

 何があったって、どうなったって。この学校に来るまでだって色々あったし、来てからだってそうだ。上級者にいびられることもあったし、ユーティエよこせってオットーに理不尽に殴られたこともある。それでもここで良いと思って今までやってきたんだ。そう思えば自然と手が杯に伸びて、


「君を勇者科に招待しよう」


 ピタリと止まる。

 いつの間にか彼はその手に持っていた杯を掲げ、満足そうに微笑んでいる。

 でも表情がいくら変わっても、この部屋に来て目を合わせた瞬間からその瞳の奥は全く変わっていない。昔聞いた学校へのあこがれを全部ぶちこわしにする目だ。学校と言うのはもともと孤児院を参考に発展した機関で、生徒を子供とし教師を親とする、そんな暖かみのある場所だと聞いていた。

 この人の目にはそんな暖かみかけらも無い。

 いや、別にこの人に限った話しじゃない。担当の教官は無関心だし、寮長はまさに管理人と言った風情だ。

 それでも尊敬出来る先輩がいた。

 入学当初からずっと一緒にユーティエがいた。

 この目に納得していいのか? それは、俺が暖かみを感じた、大事だと思える者に背く行為じゃないか。


「君?」

「あ、そ、その……勇者科って初耳なんですけど」

「おやおやっ、勇者に憧れたことが無いのかね?」


 おどけたようなその顔に何を見たか。

 駒を見る目だ。

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