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第2話

 校長先生、と言うのは読んで字のごとく『こう』の『おさ』となる教師である。

 つまり俺が今現在所属しているこの冒険者学校とでも言うべき機関で、最も偉い人間と言うことになる。入学の時の挨拶で見たきりだったわけだが、居るというだけでこちらに重圧がかかる人間だ。先生に近寄りたくない・・・・・・・と言うと大げさだけど、すくなくともディスケロスの前に立ってもそんな気分にはならなかった。とにかく立場だけでなくとんでもなくすごい人なわけだが……


「それで、君が【銀の千嶺】のもとでディスケロスを討伐した【探索者】で間違いないかね」

「はい、セイ・シヤクカダイユです」


 黒い金属に金の縁取りをした全身甲冑。髪も髭も雪のように白いが、肌は浅黒く張りがあって健康的だ。左目は額から頬にかけての三本の傷の中にあり白く濁っているが、右目1つで飛ぶ鳥も落としそうな迫力のある眼光を放っている。どっからどう見ても校長先生です。なんで俺はそんな人に直接話しかけられているんだろうか。目の前の現実を無視して頭があさっての方向へ走り出す。そうそうそうだよ、あの先輩【銀の千嶺】だったのか、教官なにも言ってくれなかったぞ。銀の千嶺って言ったら確か、この世界を囲う境界の一角を打ち崩して、そこから現れたディザスターブルードラゴンを一人で討伐したとかなんとか……そんな感じのちょっと想像もつかないくらい強い冒険者、というかもういっそ英雄と言っていい人の二つ名だったはずだ。校長先生と同じくらいすごいぜ! って、校長先生に戻ってきちゃった。

 ……ああそうか、校長先生と一対一で会話していること以前に、そんなすごい人が指導員についてくれていたことに疑問を持つべきだったんだな。多分、俺以外のメンバーは未だに知らないんだろうけど。


「ふむ……『シヤク居場所カダイユ』か。孤児院の出かね?」

「いえ、村の名前です」

「ふむふむ。平民の出と言うことか……こまったな……いや、それもまた面白いと見るべきか?」


 『こまったな』そんな響きだけで一瞬、消されるかな? とか思ってしまった。いや、さすがにそんなに理不尽な話しは無いと思いたいんだけど、堂々と目の前で独り言を呟かれると何となくこう、取るに足らない存在だと思われてるような気がする。

 実際……こうやってこの学校に来てる人間はその殆どが孤児とか、農家の次男三男とかそういう……うんまぁそう言う人間な訳で。俺も普通の農家の普通の次男。オットーとモディエフはとある村の狩人の家の双子だったけど、男の子が生まれたから家をでたらしい。ユーティエは運悪く家族を火事で失って、叔父夫婦に財産を全部持っていかれた。従兄弟と結婚すれば取り戻せたらしいけど、絶対に嫌だったそうだ。

 ちなみに全員家出である。俺は一応書き置きはしたけど1年経っても手紙もなにも無いのだし、そういうことだ。

 なお、入学にあたってはたとえ未成年であっても保護者の許可が必要ない……というか一切の資格などの条件が無く、この学校に来て教員に会って入学届けに自筆で署名をし、血印を捺すだけで良い。それだけでこの学校に保護・・される。具体的には一定基準の教育と最低限の衣食住、卒業後の労働環境の保証。ここでまだ1年しか学んでない俺から見ても非常に危うい仕組みじゃないだろうか? 時々政略結婚から逃げてきた貴族のお嬢様が居るとかって噂もあるくらいだ。


「あの、俺はなんでここに呼ばれたんでしょうか」

「ん? ふむ……君は学校が設立された理由を言えるかな」

「この学校……冒険者学校って意味ですか?」


 学校、と言う機関はこの国に7つある。1つ、最も古いのが皇都に存在している貴族達の為の魔法学校。一応最も伝統があり、そこで研究されている魔法も最も価値のある物だとされているが……実際は世間に取り残されている感じもしなくはない。ここ20年程は目新しい研究の発表はあまり行われていないそうだ。

 対して残り6つが冒険者学校。国の各地方に散らばっており、先も言った通り一切身分を問わず入学出来るのが特徴だ。教えるのも魔法だけではなく、武器の使い方や洞窟などの探索方法、役に立つ野草の区別の仕方や殺した動物のさばき方等々。専門的なこともあれば、本来自分の親から習うようなことまで何でも学ぶことが出来る。その目的は3つ。


「ええと、人が増えてきたから労働的な需要の開拓の為、生存域の拡大に伴って起こるであろう種族間の確執を緩和するために交流を求めて、そして外世界に進出する為……ですか?」


 ヒューマンと言う種族全体のレベルが上がった……と言われるのがだいたい250年程前だったと習ったと思う。正確な時期などは観測されていない。とにかくその頃からヒューマンの数が増え、仕事にあぶれる物がでたり、森を開拓しようとしてエルフと衝突したり、外世界に出ようとしてしくじりドラゴンを連れて逃げ帰ってくる者がいたり……

 それを憂いた時の権力者がこれは教育が足りないせいだと感じ、それを解消する為に動いた結果が今の学校である。ただ、この以上な入学基準を考えると何らかの裏が会ったような気はする。その人が好きだった人が政略結婚で気に入らないやつにとられた……とか。


「うむ、模範解答だな。よく勉強しとるようだの」

「ありがとうございます」

「だがのう、実はもう1つの目的があるんじゃ。表に出せない真実と言うやつじゃな」


 ……あれだな。俺はきっとどこかで運命を踏み外したんだな。うん。

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