FileNo.0004 見通
俺は、コーヒーを入れなおし、予備のカップに注ぐとフィナへと渡す。心を落ち着かせるため、コーヒーでもと入れなおしていたら、フィナが興味を持ったからだ。
フィナはカップを受け取ると、ゆっくりと匂いを嗅ぐ。
「ふむ、いい匂いだ」
そういって、一口二口と飲み込んでゆく。気に入ったのか、頭の耳がピコピコと揺れている。
俺も、カップに注いだコーヒーをゆっくりと飲んだ。
「さて、まずはお主の事を聞いておこうか。まだ、名前も聞いておらぬからな」
その一言で、名乗らせておいて、自分が名乗っていないことに気付いた。
「ごめん、名乗らせておいて。俺の名は、城山 広太」
「ふむ、城山と言う名前か」
「いや、広太のほうが名前。年は17歳で、学生をやってた」
「それは珍しいな。それで、その学生と言うのはどんな職業なのだ?」
「えっと・・・・・・職業ではなくて、学校と言うところに言って勉強をしている人のこと」
「ほほう、どんな勉強を?」
「たとえば文字の読み書きを・・・・・・」
と言ったところで気付く。何で会話が成立しているんだ?
「フィアさん。話の腰を折って申し訳ないけど、今、俺はどんな言葉を喋っている?」
フィアは小首をかしげ、不思議そうに言った。
「何を言っておる?普通に、ナリディアの共通語を喋っておるが?」
「そうなのか・・・・・・」
感覚的には普通に日本語を喋っているのだが、不思議なものである。しかし、共通語と言うことであれば、この先コミュニケーションに困ることはないだろう。
感心しきりの俺に対し、怪訝そうな表情を浮かべつつ、フィアは話を続ける。
「・・・・・・?それよりも広太、あのゴーレムはお主のものか?」
フィアは、背後の「レバリー」を視線で指し、問いかけてきた。そういえば、あいつを見てもおびえた形跡がない。
「一応、そうだけど・・・・・・」
「ふむ、ゴーレム使いか。なるほどの。どうりでこの森で無事だったわけだ」
「よくいるんですか、ゴーレム使い」
「ふむ、稀ではあるが、いないことはない」
「そうか・・・・・・」
「でだ、お主はあの召喚陣については何か知っているか?」
「いや、気づいた時には森の中で気を失ってたから。フィアさん、俺の話を少し聞いてもらえないか?」
俺は、今までの経緯をフィアに話すことにした。ほかに頼る人もなく、少しでもいいから情報がほしかった。
生きていた世界が違うこと、ゲームをやっていて突然ここに放り出されたこと、あまり話せることはないが、できる限り詳しく喋る。
「ふむ、どうやらあの召喚陣で召喚されたことは間違いなさそうだ」
ひとしきり聞いたフィアは、そう結論付けた。
「俺は帰ることはできるのか」
「現状では何とも答えようがないの」
「そうか・・・・・・」
俺は、その言葉に落胆する。
これからどうしようか思案をしていると、見かねたのかフィアが提案をしてきた。
「とりあえず、私の住処に来い。ここよりも過ごしやすかろう」
「いいのか?」
「かまわん。それに異世界の話も聞きたいしの」
俺は、ただ頷くしかなかった。
その後、テントを片づけ、フィアの後に続いて森の中を歩いた。10分ほど歩いたところで、開けた場所に大きな納屋のある白い家が現れた。
納屋のほうには、大きな動物でも飼育しているのか、4メートルほどの観音開きの戸扉があり、奥行きが結構あるらしい。家のほうは納屋ほど大きくはなく、2階建ての田舎にある洋風のペンションのような作りになっていた。
フィアは俺を招き入れ、2階へと案内する。一番奥の部屋へと招き入れる。
「広太。この部屋を使ってくれ」
「いいのか?」
「かまわんよ。どうせ一人で暮らしている。部屋は余っているからな」
「そうか、ありがとう」
「とりあえず、リビングで今後の話をしようか」
俺は、ベッド横のテーブルにヘッドセットとフィンガーグローブを脱いで置き、フィアと共にリビングへと移動した。
フィアは、俺をソファーに座らせると、キッチンへと入って行き、ティーセットを持って帰ってくる。
白い陶磁器からお茶を入れ、俺の前におく。そして、自分の分を入れた後、向かいの席に座った。
「さて、まずはこれからのことだが、召喚に関しては私もそんなには詳しくはない。だが、召喚に関して詳しい知人がいる」
「それは、誰だ!?」
俺は、身を乗り出しフィアへと問いかける。
「まあ、急くでない。ただその人物は隣の大陸に住んでいて、ここからだと3か月ほどかかるのだ」
「そうか」
「でだ、そのためには船代とかある程度まとまった旅費が必要になるが、あいにく私には研究している物に金を注ぎ込んでしまっていて、手持ちがない」
フィアは肩をすくめながら言った。
「でだ、己自身で路銀を稼いでもらわなくてはならないわけだ」
「俺に、そんなことできるのか?」
「あぁ、それについては大丈夫だろう。この国にはハンターギルドと言う組織があってな、魔物に対し賞金を懸けているのだよ」
ハンターギルド。そういえば、ゲームの中でも存在していたな。あれと同じようなものなのか?
「外のゴーレムがあれば、魔物退治も簡単だろうし、ある程度は稼げるだろう。街のハンターギルドに連れて行ってやるから、そこで稼げばいい」
フィアの言葉に 昨日のゴブリンのことが頭をよぎり、恐怖がよみがえってくる。
逡巡するが、帰る方法が今のところそれしかないと、覚悟を決め返事をする。
「そうか、わかった」
「でだ、お主に少し聞きたいことがあるのだ」
「なんだ?」
「私の研究の事なんだが」
「そういえば、そんなこと言ってたな?何の研究をしているんだ?」
「ふむ、見てもらったほうがはやいか」
フィアは一つ頷くと、ソファーから立ち上がり、玄関のほうへと歩き出す。
何かわからないが、俺も後ろをついて行った。
フィアは玄関を出ると、そのまま納屋のほうへと向かった。そして、大きな扉の間へで立ち止まると、ゆっくりと閂をはずし扉を開けていく。
そして、俺の目の前には、予想外の光景が目に入ってきた。