FileNo.0003 防人
気がつくと朝だった。
そして、ゴブリンの死体と見知らぬ風景。夢ならば覚めてほしいと願いつつ起きてみたが、状況は変わっていなかった。
『とりあえず、生きる術を考えなくちゃ・・・・・・』
一晩眠ったからだろうか、ある程度心は落ち着いてきている。というか、あきらめに近いが。
クーーッ
お腹が鳴ったことで、半日以上ご飯を食べていない事に気付いた。
『もし、ゲームと同じ構成なら』
俺は、コクピットに戻ると、アイカを呼び出す。
「アイカ、バックパックのリストをモニターに表示してくれ」
「イエス、マスター」
モニターに、バックパックに格納してあるものの一覧が表示される。
ゲーム内のバックパックについては、4次元格納装置となっており、本体よりも数百倍ほど格納容量がある。その効果は、この世界でも同じようだ。最後に出撃したときと同じ内容のものが格納されていた。
ICE用の予備のアサルトライフル、予備弾装などのほかに、携帯食料、テント等の生活用品も格納されている。
なぜ、携帯食料などが入っているかといえば、ゲーム内のスタミナに関するステータスについては、食事をすることにより回復するためで、遠出をするときには必須のアイテムだったからだ。ほかに、テントなども夜営のときに使用したりしていた。
『メタル・バイオ・スラッシャーズと同じような世界という事か・・・』
とりあえず、当面の食事に関しては問題なさそうである。携帯食料をバックパックから取り出そうと、コクピットから出ようとしたが、ゴブリンの死体を失念していたことに気付づいた。
「飯を食う場所じゃないな・・・・・・」
ひとり呟き、移動しようとしたところで、ふと思い出した。
『メタル・バイオ・スラッシャーズと同じなら・・・・・・』
気持ち悪かったが、「レバリー」を起動し、ゴブリンの死体に近づく。そして、予想通りのものがそこにはあった。
透明の水晶の様な六角柱の物体、魔石と呼ばれるものだ。
基本的には、ICEの燃料となるほか、魔道系武器や防具のエネルギー源となるものだ。
『使えるものは回収しないと・・・』
この先どうなるか分からないので、マニュピュレータを操作し、バックパックに格納する。
その作業が終わった後、偵察用プローブを打ち上げた。
上空100メートルまで上昇させ、あたりの状況をカメラで確認する。
広がった光景は、どう考えても日本とは思えない光景だった。人工物が存在せず、アスファルト敷きの道路すらなく、ただただ森が広がっている。東から西に向け、北半分は馬蹄状に4000メートル級の山々が広がっており、南には大きな湖が広がっていた。
飲み水を確保を考え、俺は南へと移動を開始する。
湖までは10キロほど、昨日のこともあり、警戒しながらゆっくりと移動していく。
途中、桃に似た果物と、葡萄に似た果物があったので迷わず回収する。食べれるかどうかは、後で判断すればいい。
そんなことをしながら20分ほど移動すると、視界が急に開き目の前に水辺の風景が広がる。水は澄んでいるようで、水中を除けば小魚が泳いでいるのが分かる。
大きな湖のため、波が多少大きいが、湖畔に夜営をしても大丈夫だろう。ちょうど、いい具合に開けた場所があったので、「レバリー」を移動させる。
「レバリー」から降り、背後のバックパックからテントと簡易ベットを取り出す。ゲームと同じように、亜空間に手を突っ込み、取りたいものを想像するだけで、取りたいものが取り出せた。
テントの設営が終わった後、携帯食料と簡易の調理セットを取り出した。
携帯食料は、某軍隊のMREのようなものだ。封を切り、中身を確認する。ゲームの設定上では、特に中を開いて調理するような設定は無かったはずだが、ちゃんとMREのようなセットになっており、主食のレトルトポウチのほかにチョコレートや粉末コーヒーなどがが入っている。
また、簡易の調理セットには、ガスストーブ、ステンレス製と思われるマグカップや食器などがケースの中にまとまっていた。
調理器具があるのはありがたかった。簡易ストーブに火を点け、湖から汲んできた水を火にかける。一応、綺麗に見えるが、念のため煮沸するためだ。
ある程度沸騰したら、マグカップに移し、それに携帯食料の粉末コーヒーを入れ飲んでみる。
うまかった。
この世界で始めて飲んだものが、コーヒーというのもあれだが、当たり前の味にほっとする。
そして、レトルトパックを湯に突っ込み、温まるのを待つことにした。
5分くらい立ったところで、レトルトパックを湯から引き出し、中身を皿の上にあける。ふんわりとグレービーソースの香りがあたりを漂い、ローストしたビーフの肉の塊が出てきた。
携帯食料のクラッカーを袋から開けて、いざ食べようとしたとき、
「うまそうな料理だな」
と、背後から声がかかった。
俺は、とっさに近くのナイフを握り、後ろを振り向いた。
「いや、まて!!別に襲おうとしているわけではない」
あわてて、手を振る相手を見て、俺は呆然とする。
年のころなら15、6歳といったところだろうか、プラチナブロンドに金色の目をした美少女がそこに立っていた。手には、特に武器らしいものは持っておらず、シンプルな貫頭衣をまとっている。手首に何重か巻いた金色の腕輪をはめており、腕輪にはエメラルドのような大きな石がついていた。
美少女というだけでも驚いたが、さらに驚愕する事実がある。
頭に、狐の耳があるのだ。しかも、ピコピコと動いている。
一瞬頭が空白になるが、慌てて警戒態勢を取る。
「誰だ?」
「すまん、嚇してしまったようだな。私は、フィア=フォーリアと言う。この森の防人だ」
一定の距離をとったまま、こちらに喋りかけてくる。
「昨日の夜に、このあたりで大規模な召喚陣が空中に現れてな、確認のためこのあたりを見回っておったのだ」
「召喚陣だと?」
俺は、そのキーワードに反応する。
「そうだ、あちこち回っているとうまそうな匂いが・・・」
言いかけたフィアへ、俺はぶつかる勢いで飛びつき、両肩を掴むと喚き散らした。
「召喚とはどういうことだ!!なぜ、俺なんだ!!どうすれば帰れる!!」
フィアは突然の行動に驚いていたが、すぐに俺を引き剥がそうとする。
「待て!!待てと言うに!!」
フィアの右の腕輪が輝きだすと、俺の体はふんわりと浮き、フィアから一定の距離まで移動させられる。
俺は、余りの出来事に言葉を失った。体が宙を浮くと言うのはこんなにも恐怖感があるとは・・・。というか、なぜそれが出来る?
「ふむ、少しは落ち着いたか?」
フィアのほうは、やれやれと言った風に息を吐き出し、こちらを伺っている。驚愕のため、体がすくんでしまったのを落ち着いたと勘違いしたのだろうか?
俺は、あわてて問いただす。
「お前が召喚したのではないのか!?」
「いや、むしろ誰がやったのか知りたいのは私のほうだが、ふむ。少し話をせぬか?暴れないのなら拘束を解いてやるが・・・」
しばらく思考し、俺はうなずいた。なんにしても、今唯一の手がかりを持ったものが目の前にいる。少なくとも敵意をもって話をしているわけではなさそだ。このチャンスを逃すまいと、話をすることにしたのだ。
俺の首肯を確認すると、フィアの腕輪の輝きが小さくなる。と同時に、俺の体はそっと地面に下ろされた。