FileNo.0002 邂逅
薄いもやのかかったような状態から、徐々に意識が覚醒してくる。
うっすらと目を明けると、目の前のモニターには、警告の文字が何種類か点滅している。
はっきりと視界が戻ってくるのを待って、周りをゆっくりと見回し、自分がいつものコックピットの中にいるらしいことは分かった。
『たしか、ブレスを浴びたまでは覚えているが、その先は・・・』
俺は意識を明瞭にしようと頭を振ろうとしたが、頭にズキンと痛みが走った。
「いててっ・・・」
痛みを抑えようと、額に手を当てようとして・・・・・・・・・。
『痛い?』
自分の感覚に驚いた。なぜゲームの中なのに痛みを感じるんだ?
一気に状況が分からなくなる。
あたりを見渡すと、いつも見ていたコックピットのレイアウト。だが、妙に質感が異なる。
恐る恐る触ってみると、冷たくヒンヤリとした感触・・・・・・・・・。
なんでこんなにはっきりと感触があるんだ?
「アイカ、状況は?」
藁にも縋る思いで、アイカを呼び出す。
「現在、損傷率40%。自力歩行は可能ですが、フライトユニットは全損の為、飛行は不可能です」
「いや、そういうことじゃなく!!」
そこで、ふと気付く。ゲームなんだからログアウトすればいいじゃないか。たぶん、よく分からない状況で気を失ったため、あせっていたんだろう。若干、落ち着きを取り戻した俺は、現実に戻ろうといつも呼び出しているシステム画面を開こうとした。
「メニュー、オープン・・・・・・」
普段なら、モニターに四角い画面が現れ、メニューの表示などが現れるはずなのだが・・・
「でない・・・・・・だと・・・」
愕然とした。
その後やり方を何度も変えながら、画面を出そうと必死に足掻いたが一向に出る気配は無かった。
なぜっ・・・・・・どうしてっ・・・・・・なにがっ・・・・・・どうなって!!
頭の中が混乱する。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
圧迫感のあるコックピットの中に、俺の叫びが響き渡った。
どれくらいたっただろうか、ひとしきり喚いていた俺は気怠くぼんやりとモニターを見ていた。
『帰りたい・・・・・・』
心の中は、その思いだけが広がっていく。
モニター越しの外の景色は、森の中のようで、木々が広がっているほかは何も無い。
と、心が壊れかけたその時、
「マスター。12時方向。敵性反応確認」
「!?」
反射的に索敵レーダーを見る。
光っている光点は3つ。徐々に近づいてきている。距離は500メートル位か。
『ゲーム・・・・・・だよな・・・・・・?』
俺は、言い知れぬ恐怖を押しやるように、安楽的な方向へ思考する。
索敵レーダーに映る光点は、どんどんと機体に近づいてきた。
・・・300・・・100・・・50・・・。
そして、木々の陰からそれは現れる。
『・・・・・・ゴブリン』
ゲームの中では、ごく初期に現れていたモンスター。日本の鬼のような角を生やし、ど定番の緑色の肌に腰蓑を巻いたそれが、目の前にいる。
手には、鉈やこん棒のような得物を携え、こちらを伺っていた。
その瞳は、いつもゲームで見ているものと違い、明確な意思を容易に感じることができる。
俺は、無意識に操縦桿を握り直していた。
ゴブリン達は、リーダー格らしきゴブリンの合図とともに、広太の機体を包囲するかのように、2匹が左右にゆっくりと移動していく。
『・・・・・・ゲーム・・・・・・だよな・・・・・・?』
もう一度、自問したその時、左右のゴブリンが機体へ突っ込んでくると、こん棒を振り上げ、左右の腕部めがけ振り下ろしてくる。
「ガインッ」と鈍い音とともに、殴られた衝撃が機体を震わせた。
「ちくしょーー!!」
とっさに操縦桿を引き、両椀で掴みかかってきたゴブリンを振りほどく。
勢いで飛ばされてもがくゴブリンを後目に、俺はフットペダルを踏み込んで機体を起こすと、距離を取るように後方へと移動させる。
「アイカ!!使える武器は!!」
「頭部対人マシンガン 残弾300。腰部、MPブレード2。火炎グレ・・・」
とっさに、操縦桿の武器セレクターを頭部対人マシンガンに切り替え、正面から追いかけてこようとするゴブリンに照準を合わし、夢中でトリガーを引いた。
ガガガガガッガガガッガ。
曳光弾を含むそれは、ゴブリンに吸い込まれ、一瞬で体をズタズタにする。そして、青い液体をまき散らしながら、ゴブリンは倒れて行った。
それを見た左右のゴブリンは、一瞬あっけにとられたが、急いでその場から離れて行く。
そして、あたりに静寂が戻っていく。
『殺したのか・・・・・・』
目の前には、内臓が飛び出したゴブリンの姿が。
俺は、コックピットを開け、外に出てみる。冷たい風が、頬を撫でていく。そして、タラップを降りた瞬間に臭ってくる臓物の腐ったような匂い・・・・・・。
「おうぇぇーーーーーーー」
その場に跪き、胃液をぶちまける。胸の中からこみ上がり、喉を焼きながらぶちまけた胃液に、これが現実なんだと改めて突きつけられた。
ひとしきり、胃の中のものを吐き出すと、ふらふらと機体を背にへたり込む。
見上げれば、月が3つ。
「異世界ってやつか・・・・・・」
なんだかんだで、その手の小説も読んでいた俺だ。ここまで突きつけられれば、否でも応でもそれだと分かる。
どうしたらいいのか?そんなことを考えながら、疲れのせいかそのまま眠りに落ちてしまった。