FileNo.0010 襲撃
ギルドの建物が見えてくると、その建物の上には黒い旗がはためいていた。ギルドの前では、あわただしくギルド職員が、何人かのハンター達に指示を出している。
ギルドに近づく俺の脇を装備を整えたハンターが数人、小走りにかけていく。
よほど大事になっているようだ。
俺は、ハンターに指示を終えて戻ろうとしていたガライを捕まえて、現状を聞こうとした。
「どうなっている?」
「ああ?」
どうやら、かなり緊迫していたみたいで、一瞬苛立ちを含んだ声でガライは振り返る。
「あぁ、広太さんでしたか」
「忙しいところすまない。いったいどうなっているんだ?」
「現在、北側からオークの群れが接近しています。街には警報が出されました。手漉きのハンターは、すべてオークの迎撃へ回ります」
なるほど、オークの群れが接近中で、こんなに慌てているのか。
「こんな襲撃はいつもあるのか?」
「頻繁ではないですが、それなりの頻度であります」
城壁が高い理由が分かった。そんなに頻繁にあるのであれば、それなりの防備は必要になるだろう。
「広太さんも迎撃に加わっていただけますか?正直、現在対応できるハンターが17名と少数ですので、出来れば参加していただきたいのですが……」
ガライは、申し訳なさそうにこちらに申し出てくる。
「街の守備隊はどうした?」
「現在、訓練のため王都へと赴いているところなのです。しばらく、モンスターの襲撃は無いと予測だったので。ですので、迎撃に出せる兵士がいないので、ハンターギルドのみでの迎撃となります」
専門職がいない状態での迎撃、本当に勝算はあるんだろうか?俺は、一瞬躊躇した。そんな気持ちを察したか、ガライは言葉を続ける。
「ゴーレムを操っているあなたなら、本来初級の相手ではないですが、問題ないと思います。」
正直に言うと、いまだ戦闘の恐怖がある。
ゴブリン討伐の依頼を引き受けたものの、前回の戦闘の恐怖に打ち勝つことが出来るのか、不安な部分もあった。
しかし、目の前に危機が迫っていることもあり、どのみちここでの生活を続けなければいけないと打算も働き、俺は参加することにした。
「わかった。どこへ行けばいい?」
ガライはほっとした表情を一瞬見せたが、すぐに表情を引き締めた。
「北門に、担当の者がいますので指示を仰いでください」
「わかった」
俺は、その場を離れると、いそいで「レバリー」の元へと急ぎつつ、腰に吊るしていたヘッドセットを装着し、「レバリー」とのリンクを始める。
「アイカ、現状を報告してくれ」
「敵性生物の群れが、北側5キロに展開。こちらへの移動を開始しています。」
「数は?」
「27です」
コクピットハッチを開け、体を滑り込ませると、手早く安全帯を装着し、戦闘モードへと移行させてゆく。
コクピットがしまったと同時に、「レバリー」をゆっくりを起立させ、北門へと前進させる。
途中街の様子を見てみたが、数人が中央へと駆けて避難をしているようだが、襲撃に慣れているのか全体的には慌てた様子は見受けられない。
北門へ着くと、担当者と思わしき人物が、4人組みであろうハンターに指示をだしているところだった。
俺は、その横に「レバリー」を進め、担当者へと声を駆ける。
「ギルドのガライから迎撃の参加を依頼されてきた。どうすればいい?」
ゴーレムから話しかけられ、一瞬戸惑ったようだが、担当者はすぐに手元の資料を確認し、俺に向かって叫ぶ。
「東に5、6体のオークが本体から分離したとの情報が入った」
その言葉を受け、レーダー画面を表示させる。確かに、6体ほど一団から離れていっている。
「そいつの足止めをしてほしい。すぐに応援を出すから、よろしくたのむ」
「了解した。」
俺はすぐさま門を出ると、一度「レバリー」を停止させ、バックパックからアサルトライフルとタワーシールドを取り出す。
この世界で弾薬の補給ができるかどうか分からないから、本当であれば弾薬を使用しないMPブレードあたりで方をつけたかった。 が、オークの強さがわからない以上、危険を冒して接近戦闘をして「レバリー」にダメージをもらうリスクは避けなければならない。
アサルトライフルに弾薬が装てんされていることを確認し、北東へと移動を開始する。
レーダー画面を注視し、相手に気付かれないように、岩や茂みを利用しつつしばらく進み、距離が500Mほどのところで停止させ、「レバリー」を片ひざを立てて膠着さる。
そして、体の前にタワーシールドを移動させ、地面に突き立てると、タワーシールドの上面で、依託射撃の体制をとらせた。
「アイカ。スコープオープン」
「イエス、マスター」
正面モニターに、10倍ほど拡大されたオークの一団の様子が映し出される。
外見は、頭が豚で体は力士のように肉のついた格好だ。ゲームでは、それなりに知能があり、組織立った行動で獲物を狩っていた。また、人間と同じように魔法を使うことが出来るため、そこそこ厄介な敵でもあった。
案の定、後方で杖を持った魔術師風の格好をしたオークいた。そのオークに指示され、5匹の剣士風のオークが警戒しながらこちらへと向かって来ている。
「アイカ。一番後ろのオークにターゲットロック」
「イエス、マスター」
機体がゆっくりと動き、魔術師風のオークの頭に照準が合わさる。
俺は自分の呼吸を整えると、セレクターをセミオートに設定し、静かにトリガーを引く。
ターーーーーーンッ。
甲高い射撃音がこだました直後、魔術師風のオークの頭は砕け散った。