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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
運命の恋を
44/48

合い寄る魂

暗闇で、何時間歩いただろう。

もしかすると、何日かもしれない。だが、なんの気配もなかった。別のさまよえる魂には出逢ったが、あれらはかなり危険な暗い気を持っていた。もしも維月がこんな所に居て、あんなものと遭遇していたらと思うといたたまれない。しかし、一向に維月の気配は見つからなかった。

十六夜の気が揺らいだ。

「…十六夜?どうしたのだ、気が不安定であるの。」

十六夜は首を振った。

「なんでもねぇ。」

だが、顔色も悪い。維心はハッとした。ここは、月の力は届かない。維心はどこからか命の気の補充が成されているが、十六夜はそれがない。

「十六夜、もしかして気が尽き掛けているのでないのか?一度戻った方が良いのでないか。」

十六夜はフッと笑った。

「フン、地のヤツがオレを死なせてくれねぇよ。だから、大丈夫だ。死ねたらラッキーだと思ってるよ。」

維心は、十六夜を支えた。

「我は大丈夫なゆえ。我の本体はこれであるからな。主の本体は月であろう。気が尽きたら、ここから自動的に本体へ戻るのだと思うぞ。あくまでこの体は主の気で形作ったものに過ぎぬからの。」

十六夜は苦笑した。確かにそうだ。このままでは、維心を一人ここへ残したまま月へ戻ることになっちまう…。

「そうなったら、お前一人に探すのを任せちまうことになるじゃねぇか。早いとこ探し出さねぇと…。」

十六夜は眩暈がするのを感じた。本当にこのままでは、ここから消えてしまう。

足が言うことを聞かず、十六夜はそこへ膝を付いた。維心は慌てて言った。

「もう限界であるな。主の姿が揺らいで来ておる。我に任せよ。主は休んでおればよいわ。」

十六夜は悔しげに維心を見た。

「…すまない。確かにもう限界だ。自分でもわかる…月に戻って行く。引っ張られるようだ。」と十六夜の体が、下から光りながら光に戻って行く。「維心、お前も戻るんだぞ、維月を連れて。オレに維月を会わせてくれ。」

維心は頷いた。

「待っておれ。必ず、戻る。」

十六夜は光の玉になって、はるか上空へと上がって行き、消えた。

維心は、たった一人、空間を歩み出した。


維月は、ふと、目を覚ました。

何か覚えのある気がした気がする…しかし、そこは闇の中であった。

体が冷え切って、痺れるように痛む。確かに肉体はないはずなのに、その感覚が維月にはうらめしかった。

もう何体ものさまよえる魂に出逢って来た。維月はその度に気を抑え、身をゆっくりと動かして気取られぬように方向を変え、逃げて来た。

しかし、今はもうそんな時以外は動くこともままならないほど、体が固まってしまっていた。

覚えのある気を感じたそのあと、遙か向こうに、まるで夜空に打ち上げられるような、光の玉が上がって行くのが見えた。あんな光を見たのは、ここに来て初めてだった。

維月は麻痺する体を起こし、足を引きずるようにその光の方へ歩いた。あの光りは、いったいなんなのだろう…とても懐かしい。そして暖かい…。

そして歩き始めてしばらく、維月はまたそこへ倒れた。思うように体が動かない。これでは、二人が来た時そちらへ歩いて行くことも出来ない…。

維月はまた、気を失いそうになるのを必死で抑えた。そして、光の軌跡がまだ残る先を、じっと見つめた。

あなたは、誰…?


維心は、気を感じた。

またさまよえる魂かと思ったが、それはとても落ち着いた気だった。そして何より、懐かしかった。

ここでは、気の種類を読み取ることも難しい。自分の勘に掛けて、もしかしてそれが父でもいい、何かヒントをくれるかもしれない。

維心はそちらへ向かって足を速めた。

しばらく歩くと、また、何かが倒れている。着物を着ている…髪が長い。

その影は少し動いた。

寒いようで、身を縮めるようにもぞもぞと動いている。しかし、気は読めない。安定しているようで、今まで出会ったどの魂より柔らかい感じがした。どちらにしても助けてやらねばと思い、維心は問い掛けた。

「道を見失ったのであるか…?」

相手はピクリと動いた。しかし、体が思うように動かないようだ。身を起こそうともがいている。維心はそれを助け上げようと手を伸ばして、相手の小さな声を聞いた。

「維心様…?」

維心は雷に打たれたように感じた。そして慌てて相手を抱き起す。

…それは、冷え切った維月だった。こんな所に…こんなに冷え切って、弱り切って一人、居たのか。地は、門の前に送ったと確かに言ったのに。

「維、」と維心は無我夢中で抱きしめた。「維月…!維月!なぜにこんな所に…こんな姿で…!」

維心は維月が不憫で、自分の腕に抱え込んで必死で温めた。

「ああ」相手は囁くように言った。「私は夢を見ているのですの…?維心様…?」

維心は抱きしめたまま言った。

「夢ではない。夢ではないぞ!我は十六夜と共にここへ主を探しに来たのだ。もしかして、まだここに主が居るのではないかと思うて…しかし、十六夜は気を使い果たして、先ほど月へ戻されてしまった。」

維月は弱弱しく微笑んだ。

「では、あの光りは十六夜でしたのね。私、それに向かって歩こうとしたのですけど…体が思うように動かなくて…。」

維心は維月を抱き上げて歩き出した。

「連れ帰ろうぞ。維月、地は主を門の前へ送ったと申しておったに。もう、ここには居ないものだと思っておった…しかし、諦めきれなくて、我らは主を探しに参ったのだ。」

維月は維心に抱き上げられながら、答えた。

「私…門に入らなかったのですわ。転生してしまったら、記憶を無くして二度と二人に会えなくなってしまう。だから、ここで二人が来るのを待とうと…でも、想像以上に、寒くて、果てしなくて。くじけてしまいそうでした…。」

維心は、もっと早くにここに来なかったことを悔やんだ。維月は、自分達のためにここに残って居てくれたのに。自分は悲しむばかりで、そんなことは考えもしなかった…もう門をくぐってしまったものと決めつけて…。

「すまぬ、維月。待たせてしもうた。もっと早く来たらよかったのだ…我は…ただ悲しむことしか出来なくて…すまぬ…。」

維月は微笑んだ。

「でも、来てくださいました。会えてうれしい…お会いしたかった…。」

維心は涙ぐんで維月に頬を摺り寄せた。

「我もよ。我も…ずっとずっと主を呼んでおった。会いたかった…もう我を置いて逝ってはならぬ。愛している。」

「私も…。」

維月は気を失った。維心は帰る道を急いだ。このままでは、魂が疲れ切ってもっと消耗してしまう。

維心は維月を腕にしっかりと抱き、生者の世へと飛び込んだ。


次の瞬間、維心は居間へ立ち返っていた。

そこに居た将維が突然のことに驚いて立ち上がる。

「…父上!」

維心は手にしっかりと光を握りしめていた。その姿から気が巻き上がり、まるで風を受けているかのように維心の着物と髪が舞い上がる。維心は維月の亡骸に向かうと、その光を手の平に乗せて片手を上げて何かを念じた。光は舞い上がり、維月の亡骸に飛び込んで、それは激しく光った。

維心は尚も何かを唱え、それと共に巻き上がる維心の気は維月に激しく流れ込んだ。その気の放流は途切れることなく維月に流れ込み続ける。

維心は維月に駆け寄って、急いでベールを剥いだ。そして維月を抱き寄せると、言った。

「維月…!」

維心の気は尚も維月に流れ込み続ける。維月は、息をつくようにハッと口を開いた。将維は驚いた…母が呼吸を始めた!

「維月…!」維心は呼びかけ続けた。「我がわかるか?目を開けよ!」

維月は大儀そうに息を荒くしながら、目を開けようと戦っている。まだ、命が定着していないのだ。維心の青い気に包まれながら、呼吸を繰り返すうちに、頬に赤みがさして来た。

「維月!我を見よ!」

維心は尚も叫んで、維月を見つめた。維月は薄っすらと瞼を開けた。何とかして目を開こうと何かに抗っている。そして、囁くような声で、言った。

「…維心様…。」

維心はホッとして、維月を抱き締めて叫んだ。

「おお維月!維月!成功した!」と月を見上げた。「十六夜!連れ戻したぞ!」

維心からの気の放流は収まっていたが、まだ少しずつ流れ込んでいる。維月は口元を緩めた。十六夜の念が降りて来る。

《維心、お前ならやってくれると思ってた。維月、オレもそこへ行きたいよ。》

維月は念で答えた。

《無理しないで…。ありがとう。十六夜が月に帰って行く光が、あの空間で見えたの。それで、それに向かって歩いたの…すぐに倒れてしまったけど、維心様がそれで見つけてくれたのよ。十六夜の光が見えたの。》

十六夜の声は、泣いているようだった。

《オレも役に立ったのか。気が回復したら、すぐに会いに行く。今は実体化する気が戻らないんだ…オレの本体はやっぱり、月らしい。待っててくれ。》

維月は微かに頷いた。

《待ってるわ。》

維心が将維を見た。

「将維、母を連れ帰ったぞ。主のおかげよ。母はまだ、我らを待ってあの空間におった。主が夢に見なければ、我らは探しに行かず、門をくぐったと思い込んでおっただろう。礼を申す。」

将維は頭を下げた。

「我はお話ししただけでありまする。しかし、ご無事でよかった…あれからこちらでは3カ月経っておりました。あちらと時間の流れが違いますので。」

維心は驚いた。ということは、あちらで1か月近く探し回っていたということだ。十六夜の気が尽きるのも道理だ。

「維月…」維心は維月を抱き寄せ、頬に触れた。「なんと長い間待たせてしまった。あのような所で、どれほどに恐ろしかったか。許せ…。」

維月は微笑した。

「私は…何百年も待つつもりでございましたから。とても早く来てくださいました…。」

それだけ話すのも苦しそうだ。維心は気の圧力をまた上げた。

「おお、無理をさせてしもうた。もう休め。我の気を補充し続けるゆえの。必ず命を安定させる。あのような所に長く置かれたので、固まってしまっておるのよ…我が必ず主を元に戻す。安心せよ。」と将維を見た。「皆に知らせよ。正妃が戻った。我はこれより、これに付いて命の調整をするゆえ、奥へ篭る。将維、主には王の代行ばかりさせるが、頼んだぞ。」

将維は頷いた。

「我は良い予行が出来てよろしゅうございます。どうか母上を、元のお体に戻して差し上げてください。」

維心は笑って頷くと、維月を抱き上げて立ち上がった。維月はその手を見て、目を見開いた。

「維心様…お手が血まみれに…」

維心は苦笑しながら、奥の部屋へと歩いた。

「…忘れておった。気にするでない。主の後を追おうとしたが、何度刺しても果たせなかった。すぐに傷が癒えてしもうて…共にと約束しておったのに。」

維月はそれを聞いて涙を流した。

「維心様…お辛い思いをおさせしてしまいました…」

維心は維月を寝台に降ろし、その横に添い寝しながら笑って答えた。

「主のせいではないではないか。こうして取り戻せた。もう、我の力と十六夜の力を全力で合わせて、地にこのようなことはさせぬ。安心しておるがよい。さあ、我が主の命の調整をするゆえ…」と唇を寄せた。「主が以前、人として命を失った時と同じであるの…あの時は我の片思いであったわ。懐かしいの。」

維心は心をつなぎ、維月の命を整える方向へ、誘導して行った。

十六夜は月から維月の気を読んで感じ安堵して、自分も回復させようと意識を集中した。

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