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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
運命の恋を
39/48

「よお、維月。」

龍の宮の、維心の居間で、維心と並んで座って話していると、十六夜が突然庭の方に浮いて、窓から覗いて言った。維月は立ち上がる。

「十六夜!どうしたの、急に。」

維月がそちらへ歩いて行こうとすると、同じように立ち上がった維心が警戒気味に維月を引き寄せた。

それを見た十六夜が、呆れたように顎を逸らした。

「おい維心、心配しねぇでも突然連れてったりしねぇよ。この前がこの前だったから、警戒するのもわかるがな。」

維心は恨めしげに唸った。

「主は、あの時我がどれほどにつらかったか分からぬであろうが。また予告もなく連れ去られて会わせてももらえぬようなことになったらと思うと、我は居たたまれぬわ。」

十六夜は苦笑した。

「わかったわかった、もうしねぇよ。」十六夜は維月を見た。「お前に話があるんだ。ちょっと出て来い。」

維月は頷いて、維心を見た。維心は仕方なく抱いていた肩から手を放した。

「しかし、夜までには戻って参れ。」

真剣な表情で、維月に言う。十六夜はそれを聞いて言った。

「そんなに時間は取らねぇよ。だがお前、結界の中だったら話してること聞けるだろう。だから結界からは出るぞ。」

維心は十六夜を睨んで言った。

「我に聞かれたくないようなことか。」

ふふんと十六夜は鼻で笑った。

「ちょっとは気を揉んだらいいんだよ。お前、維月のストーカーみたいだぞ。わかってんのか。」

維心は眉を寄せた。

「また人の世の言葉を使う。ストーカーとはなんだ。」

十六夜は維月を抱き上げると、浮き上がりながら言った。

「自分で調べな。じゃあな、夕方には返す。」

十六夜は維月を抱いて飛び立って行った。


十六夜は、瞬く間に維心の結界を出て、遠く海岸線まで出た。

そこの海を臨む岩場に維月を降ろすと、自分も降りて横に並んだ。

「座りな、維月。」

維月は頷いて、岩場の中で腰掛けるのにちょうど良さそうな岩を見つけてそこへ座った。十六夜もその横へ座る。遠く海が見渡せて、とても景色が良く、維月は久しぶりにのびのびとした。

「海、久しぶりよ。いいわね、たまにはこういうのも。」

維月が微笑む。十六夜も微笑んで維月の肩を抱いた。

「今頃維心は、洪にでもストーカーの意味を調べさせてるぞ。あいつ自分でわかってないんだよ、お前もよく我慢してるな。」

維月は笑った。

「いいのよ、維心様の記憶を見て知っているけど、過去にこんなに追い掛け回した人や神は居ないのよね。お母様にも乳母にすら抱かれた記憶はないし、回りの神々は怖がって頭を下げるばかりだしね。弱味を見せる訳には行かなかったし、とても孤独でいらっしゃったのよ。だから、私を追い回すぐらい、いいんじゃないかと思うの。」

十六夜は渋々頷いた。

「まあなあ、オレもお前の記憶の中にある維心の記憶を見たから知ってるけどな。まあ、いい。今日はこんな話をしに来たんじゃねぇ。」と維月を見た。「お前、身分違いの恋ってどう思う?」

維月は目を丸くした。

「身分?元々私はそんなものには無縁じゃないの。人だわ平民だわ、十六夜だってそうでしょう?月に身分なんてないでしょう。」

十六夜は苦笑して頷いた。

「そりゃそうだ。オレだって身分なんてもの、良くわからねぇ。神の王は王だと思うぞ、昔に一族を統治した手腕とかすごいもんだと思うし、その血族はやっぱり力も強いし意識の高さは半端ねぇからな。だが、それも王だけだ。他は王族ったってやっぱりそれぞれだ。いろんなものが生まれるからな。」

「そうね。」維月は同意した。「でも、それがどうしたの?十六夜、誰か身分違いのひと好きになったの?」

十六夜は顔をしかめた。

「あのなあ維月、お前、もしそうだとしてそれでいいのかよ。何あっさり訊いてんだよ。」

維月は口を尖らせた。

「だって、十六夜だってこんな感じじゃないの。私が沈んでたりしたら、維心がどうかしたのか?とかあっさり訊くでしょ。」

「そりゃオレは仕方ねぇだろうが。お前があいつの嫁でもあるのは承諾済なんだからよ。もっと妬いて欲しけりゃ遠慮なく妬かせてもらうよ。」と十六夜は維月の肩を抱く手に力を入れた。「そんなはずねぇだろうが。オレはお前以外には興味はねぇ。紫月のことだ。」

維月は息を飲んだ。

「…領黄?」

十六夜はびっくりしたように維月を見た。

「なんだお前、気付いてたのか。」

維月は首を振ってため息を付いた。

「違うわ。あの子興味を持って話しに行ってるみたいだったから、またストーカーになるんじゃないかって心配してたのよ…十六夜も維心様も将維も根を上げたでしょう?」

十六夜は海を見ながら頷いた。

「…あいつ、今にして思えば、維心に似てんじゃねぇか。人を追い掛け回すっての。」

維月は軽く十六夜を小突いた。

「何を言ってるのよ、真剣よ?でもね、領黄には十六夜達にしたような執着全くなくて、ほんとにあっさり話してるだけだったのよね。だから、二年の間私も何も言わなかったし、放って置いたの。なのに、何かあったの?」

十六夜は、維月を見て頷いた。

「オレは月だからな…見ちまったし聞いちまったんだよなー…。」と気まずげに言った。「今回ばかりはストーカーでもなんでもねぇな。本当に恋愛してやがる。領黄は最初、身分も違うし罪を背負ってるからと断ってたが、紫月があまりに真剣だからよ…あいつも紫月を想ってる。どうする?維心に言うか?」

維月はため息をついた。どんな反応をするのか、想像がつかない。もしかしたら理解があるのかもしれないし、すごく怒るかもしれない。どうしたものだろう…。

「…紫月は今、どうしてるの?幸せ過ぎて舞い上がってる感じ?」

十六夜は頭を振った。

「いや、逆だ。深刻に悩んで落ち込んで、部屋から出るのは領黄と話しに行く時だけだ。それも長い時間ではバレると思っているのか、一時間ぐらいだがな。前までは一日中でも話し込んでいたのによ。最近はオレに会っても薄っすら笑う程度で、やつれて来てるよ。蒼が心配してたから、紫月の様子が維心の耳に入るのは時間の問題だな。まあ、あいつにゃそれが恋の病なんてわかるはずはないけどよ。」

維月は考え込みながら十六夜の胸に頭をもたせ掛けた。

「…困ったわね…私はいいけど、維心様がね…。それに、領黄は人なんだもの、あの子が神として成人する200歳まで生きられないわよ。別に今すぐ結婚してもいいけど、すぐ寿命が来てしまうじゃない。あーあ、維心様、なんて言うかしら…。」

維月は空を眺めた。人が人と出会ったり、神が神と出会ったり、神が人と出会ったり、そういうのって、誰にも変えられないのではないかしら。もう決まっていることなのではないのかしら…。

維月は、ふと、十六夜に言った。

「ねぇ、十六夜…運命ってあると思う?」

十六夜は驚いたような顔をしたが、笑って維月を抱きしめた。

「まだ76年しか生きていないお前にはわからないかもしれないが、1500年生きてるオレにはわかる。運命はあると思うぜ。」と維月に口付けた。「オレは1500年生きて、お前だけだった。だから分かるのさ。」

維月は十六夜を見た。

「じゃあ、出逢った二人を引き離すって運命に逆らうって事よね?きっと無理だわ。そう思わない?」

十六夜は頷いた。

「そうだな。だからオレはお前と維心を引き離すことも考えなくなったからな。これはこれでいいんだと思うからよ。」

維月は十六夜の腕の中で身を返すと十六夜に向き合った。

「誰でも、十六夜みたいな感覚を持てるならいいのだけど。みんなまず、自分の感情が来てしまうのよ。だから、まだどうなるかわからないけど、一度維心様に話してみるわ。その方がいいわよね?」

十六夜は維月に向き合って言った。

「ああ、オレもそう思う。」

維月はホッとして十六夜の胸に顔をうずめた。思えば、いつも何かを決める時、十六夜がこうやって話を聞いてくれた。そして一緒に考えて、答えを出した。十六夜と一緒に居ると、帰って来たような気持ちになる…懐かしい、安心する感じ…。

十六夜はいつものように、やさしく維月を抱きしめた。

「なんだ維月…ホッとしたのか?寝るんじゃねぇぞ、維心に勘ぐられちまう。あいつの機嫌が悪くなったら、お前も話しにくいだろう?」

維月はフフッと笑った。十六夜はいつも私のことばっかり考えてくれる。

「いいの。大丈夫よ?十六夜は、私をこのまま帰してもいいの?」

十六夜はびっくりしたような顔をしたが、嬉しそうに笑った。

「そうか、だったら遠慮しねぇ。」と海の方を見た。「日が沈むまであと2時間か。だったら急がなきゃな…。」

十六夜は維月を抱き上げると、月の宮へ飛び立って行った。


維月は月の宮へ行ったのだから、紫月の様子も影から見た。十六夜が言った通り、物思いに沈んだ様子で、表情は憂いを帯びている。とても声を掛けられる雰囲気ではなく、維月はそのまま十六夜に送られて龍の宮へ戻って来た。

龍の宮では、維心がイライラしたように待ち構えていた。

「夕方と言ったであろうが。もう日が暮れているではないか。」

維心は十六夜を睨みつけて言った。維月が慌てて言った。

「違うのですわ、維心様。十六夜から紫月の様子を聞いて、見に参りましたの。」

維心は憮然としていたが、頷いた。

「主らが出て行った後、蒼から連絡が参ったわ。どうであった?」

維月は首を振った。

「元気のない様子でしたわ。詳しくはお話致しますが…。」

十六夜が窓から帰って行こうとしながら言った。

「維心、ほんの三時間ほどじゃねぇか。別にオレは、このまま連れて帰ってもいいんだぞ。」

維心は表情を険しくしたが、仕方なく頷いた。

「そうであるな。わかっておるわ。我は別に、主にストーカーと言われてもかまわぬがな。」

十六夜と維月は顔を見合わせた。やっぱり調べたのだ。十六夜は笑いながら窓枠に手を掛けた。

「お前らしいな。」と飛び上がった。「じゃあ、またな。」

十六夜は特に不機嫌になることもなく、帰って行った。

それを見送った後、維心が維月に向き直った。

「維月…我は主に執拗に付き纏っておるか?」

十六夜が居た時は確かに厳しい顔をしていたのに、今維月に向き直っている維心は、気遣わしげに維月を見ている。それが余裕のないような表情で、維月は維心がかわいそうになった。きっと、ストーカーの意味を知って、維月にそれを訊きたくて、帰って来るのを待っていたのだろう。維月は維心の手を握った。

「そんなことはありませんわ。維心様、十六夜は冗談で言ったのです。ストーカーって、要は相手が嫌がっているのに執拗に、って意味があるのですわ。私は維心様と一緒に居たいと思っております。ですから、違いますわ。ご安心なさって。」

維心はホッとしたように頷いた。

「そうであるならよかった。我は、主が迷惑をしておるのではないかと気が気でなくて…帰ったら訊こうと思うて待っておったのよ。であるのに、主はなかなか帰って来ぬから…。」

維月は頭を下げた。

「申し訳ございませぬ。月の宮は近いので、すぐに戻って来れると思ったのですわ。」

維心は維月を引き寄せた。

「よい。主は我に頭を下げる必要などない。さあ、こちらへ。」と、いつもの椅子へ二人で座った。「それで、紫月はどうしたのだ。なぜに部屋へ篭って塞いでおるのだ。」

維月は維心に真剣な表情で向き合った。そして、言った。

「維心様、身分違いの恋とは、どうお思いになりますか?」

維心は両眉を上げた。そんな話になるとは思わなかったらしい。

「身分違い?…我はそのようなもの、気にはせぬ。」

維心も真剣な目で維月を見ている。よく考えれば、自分達も身分違いか。維心様に訊いたのが間違いだったのかも。

「あの、私達のことではありませんわ。」

維心は眉を寄せた。

「では、誰のことであるのか?」とハッとしたように維月を見た。「…紫月か!」

維月は頷いた。維心は視線を泳がせた。そう言えばこの二年、あの紫月がおとなしかった。誰に付き纏う訳でもなく、真面目に人の世の勉強にいそしんでいると蒼が言って来ていた…。

「領黄…」と維心は呟いた。「領黄なのか。」

「はい。でも、領黄が何か紫月にしたのではありませんわ。」維月は言った。「十六夜が月に戻って居た時だったので、見て聞いてしまったのだと言っておりました。紫月が、領黄を愛してしまったのです。領黄は自分は罪を背負う身なのでと最初断ったのだそうですが、紫月があまりに真剣なので、折れたのだそうです。領黄も紫月を愛しているのだと、十六夜は言っておりました。」

維心は眉を寄せて、伏し目がちに考えている。維月は続けた。

「今は、紫月は身分の違いで悩んでいるようです。大手を振って共に居られる訳ではありませんから。それに、領黄は人ですわ。神から見たら、あっという間に年老いて寿命が来てしまう。そのせいではないかと思っております。いつも一日中でも話していた二人なのに、想いを伝え合ってからは、日に一時間ほどしか話さないのだそうです。それで…十六夜は私に言いに参ったのです。」

維心は維月を見た。

「我の娘でもあるのに。なぜに我にも言わぬのよ。」

「維心様がどう思われるのかわからないからですわ。」維月は困ったように言った。「ですので、維心様に話すかどうか、私に訊いたのです。私は…お話しした方が良いと思いました。」

維心はためらいがちに頷いたが、じっと考え込んだ。維月は維心があまりに長く考えているので、場を外そうかと立ち上がった。

「私は次の間に参っております。御用の時はお呼びくださいませ。」

維心は慌てて維月の手を掴んだ。

「よい、ここにおれ。我は…驚いておるだけだ。」

維月は手を強く引っ張られてまたそこへ座った。じっと悩んでいる維心を見て、維月は手を取って言った。

「維心様…十六夜にも訊いたのですけど、運命ってあると思われますか?」

維心は視線を上げて、頷いた。

「ある。我は1700年生きて来たからわかる。これほど長き時の中で、これほど求めたのは、主だけよ。ゆえに、あると分かるのだ。」

維月は驚いて目を丸くした。十六夜と同じことを言った。本当に運命はあるのだろうか。

「維心様…十六夜も同じことを言いました。運命はあると。であるなら、それに逆らうことは出来るのでしょうか。私には出来ませんでした…。」

維心は、しばらく黙って、頷いた。

「…我にも出来なんだ。未だにそれに翻弄されておる…。」と維月の頬に触った。「わかった。維月よ、我は何も言うまい。運命がどの方向へあれらを向かわせるのかはわからぬが、しばし見守ろうぞ。だが、我から話すことは出来ぬ。主が紫月に話してやるがよい。」

維月はホッとして維心に抱きついた。

「ああ維心様!ありがとうございます。」

維心は苦笑してそれを抱きしめた。

「…我らのことを引き合いに出されては、反対も出来ぬわ。我がどれほど主を愛おしいと思っておるか、試しおってからに。」

維月は心底安堵していた。維心は落ち着いた性格だが、怒り出すと手が付けられなくなる。もしも怒ったらどうしようと、そればかり思っていたのだ。しかし、それでも紫月の恋は前途多難だ。相手は人なのだ…寿命の差は埋めることが出来ない。もちろん、地や維心なら、もしかしたら手立てを知っているかもしれないが…それはまた、次の話なのだ。

維月は維心から身を離した。

「さあ、維心様、湯殿に参りませんか。私も本日は疲れましたわ。早くゆっくり休みたいです。」

維心はぎゅっと手を握った。

「疲れるようなことを、どこでして来たのだ。まさか…」

維月は立ち上がった。

「もう、維心様!気疲れでございまする。」と歩き出した。「湯を使って参ります。」

維心も急いで立ち上がった。

「我も行く。」とまた手を握った。「我が背を流してやろうぞ。」

維月は慌てて手を振った。

「まあそのような!いつも申しますけど、王がそんなことをなさってはなりませんわ。」

維心はフフンと笑った。

「王妃なのだから、良いのだ。」と維月が手をスッと放して駆け出して行くのを見て、慌てて追いかけた。「あ、こら維月!王から逃げ出すとは何事ぞ!」

維月はきゃあきゃあ言いながら走って行く。笑っている維月を見て、捕えようと思えばいつでも捕えられる維心であったが、苦笑してその背を追い掛けた。

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