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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
王妃の事情
24/48

独立

洪が、維心の前に膝を付き話している。

「…ほんに、我も臣下皆と共に胸がスカッとしたのでございまする。将維様はほんにご立派にお育ちで、まるで王を見るようでございました。お姿もさることながら、最近ではおっしゃることも一々王を彷彿とさせるものがございまして。気もどこまで王に迫られるのか、今から楽しみにしておりまする。」

維心は、頷いた。

「あれはほんに、小さな頃から我にそっくりであるからな。まあ、主らがそれで心安くなるのなら良い。」

しかし、あまり興味はないようだ。退屈そうに脇息にもたれている。洪は眉をひそめた。

「王は、将維様にご興味はおありでないのですか?」

維心はちらりと洪を見た。

「我が息子のことは、我がよく知っておるわ。今主が申したことも、本人から聞いて既に知っておっただけのこと。それより、またあやつも我のように妃がなんだと追い回されるのかと思うと不憫でならぬ。我が主らの言う通り、早くにどうでも良い妃を迎えておったら、今頃どれほど後悔しておったかと思うしの。あれには、思う女を妃に迎えさせてやりたいのよ。」と維月の部屋の方を見た。「維月は我に他の妃が居ったら、ここに来てくれたと思うか?」

洪は身震いした。

「いえ…おそらく断固としてお越しにならなかったと思いまする。」

洪は正直に答えた。維心は頷いた。

「であろうが。そうなれば我は狂うておったやもしれぬわ。将維は我によく似ておる。気を付けるが良い。」

洪は頭を下げた。維月が、今日は深い青色の打ち掛けを着て現れた。

「まあ、維心様…とても父親らしく、優しいお気遣いでありますこと。」

維月は嬉しそうに笑って維心に手を差し出した。維心は維月に見とれながらその手を取った。

「当然だ。我は父であるゆえの。」と維月を引き寄せた。「おお維月、今日も美しいの。式も今日で終わりであるゆえな。さすれば共に、約束の北の宮へ参ろうぞ。」

維月は微笑んだ。

「人の世の店にお買い物に参ってからにしませんか?欲しいものがありますの。」

維心は頷いた。

「おお、どこなり主の良い所へ連れて参る。もっとよく顔を見せよ。」

洪はため息を付いた。何でも言う通りになされる。維月様はご無理をおっしゃるかたではなくて良かった…。宮が傾くところであったわ。

洪は促した。

「では、刻限でございまするゆえ、お出まし願いまする。」

維月が頷くと、維心も渋々頷いた。

「では、参る。」

二人は洪に伴われて、最後の宴席へ向かって居間を出た。


親い縁戚の客は、三日滞在しているので、蒼達はまだ龍の宮にいた。結局最後まで炎翔達も、残っていた。維心は皆が立ち上がって待つ中、席へと歩くと、言った。

「この度は長い間、我らのために祝おうてもらって感謝しておる。本日は最後の席だ。存分に楽しんで帰ってもらいたい。」と維月を見た。「我は我が正妃と共に、この地を良き方向へ導くべく力を尽くして参る所存だ。我の後継ぎ、将維には、可能な限り早く譲位したいと思うておるが、おそらく全て伝えるにはまだ時が要る。我の皇子達は全て軍神に育ち、間もなく皆を守るにたる龍となろう。後しばらくは、我の世で、皆心安くしてもらいたい。」

皆は頭を下げた。維月は、なぜ改めてその話をしたのか疑問だったが、維心のことだから、何か考えがあるのだろうと思って見ていた。蒼も考え深げに維心を見ている。多分、すっかり王らしくなった蒼のことだから、何か知ったのだろうな、と維月は思った。

維心が席に座ると、皆も席について思い思いに話し始めた。蒼が、瑤姫の手を取ってこちらへやって来た。

「維心様、決断されましたか。」

維心は蒼を見て、頷いた。

「これで良いのだ。何かが突出して力を持つのは避けねばならぬ。我らの生きた時代を、我亡き後復活させる訳には行かぬ。」と、将維を見た。「龍族が、地を支えて導くためにはな。」

将維は頷いた。維月は維心に訊ねた。

「維心様、それはどういう…、」

維心が微笑して答えようとした時、炎翔が維心に話し掛けた。

「維心殿。お話してもよろしいか?」

維心はそれを見て、維月に言った。

「後で申す。」と炎翔を見た。「良い。そこへ掛けられよ。」

炎翔は座るなり、言った。

「あの、将維殿と華鈴の婚約を解消するとは如何なることか?あれは父と維心殿との約束ではなかったのか?反古にして良い事ではあるまい。」

維心は動じる事なく、答えた。

「炎嘉は死んでおらぬが、我は今もあれと話す。それは知っておろう。炎嘉も承知しておること。今の世を考えれば、我らが縁戚になる必要はもはやないであろう。いや、むしろ後々の事を考えると、地の乱れる元となろうぞ。」

炎翔は唸った。

「はて、訳の分からぬ事を。」

維心は微笑した。

「主も分かっておるはずよ。だからこそ、将維との婚姻を確かなものとしようとしたのであろう。主の気持ちも分からぬではないが、今の世を保つには、勢力を二分させる訳には行かぬ。我や主の父の生きた時代を繰り返す訳には行かぬのだ。我には太平の世を安定化させる義務がある。そうせねば、死ぬことも許されぬ身であるのでな。」

炎翔は、自分の考えが見透かされていることに腹を立てた。だが、それを維心にぶつける勇気もなければ、力もなかった…維心でなくとも、今の将維にすら、自分は力及ばない。炎翔は歯ぎしりしながら、立ち上がった。

「では、我らは失礼いたす。」

ズカズカと音を立てて立ち去る炎翔を、維心は黙って見送った。その背には、炎嘉の面影はもはやなかった。

蒼が、ため息を付いた。

「神の世とは、残酷なものだ。ひとりひとりの力の差がこれほどまでに影響するなんて…生まれながらのことで、努力ではどうにもならないのに。」

維心は片眉を上げた。

「主がそれを申すか。」

確かに、蒼は今や月の力を十六夜の次に使う者として、神の世で維心並の扱いを受けている。蒼は肩をすくめた。

「オレは人でした。だから、感想を述べただけです。力を持てば、それに付随して責任もついて来るのは分かっております。」と炎翔が去った方向を見た。「うまく出来ているのですよ。責任を果たせる器でなければ、力も与えられない。オレは十六夜がついているから、これでも大丈夫ですが、維心様は…生まれながらにお一人でこなして行ける器だった訳ですから。」

維心は苦笑した。

「我も王座に就くまでは、そんなものなかったわ。就いてしまえば、こなすよりない。我に頼る龍のためにと必死であっただけよ。」と将維を見た。「主も、我の代行をそろそろこなしてみよ。いきなり王になる大変さは我が知っておるゆえな。簡単なものから主にさせよう。明日より命じるので、やってみると良い。」と維月を見た。「我も早く維月と気ままに暮らしたいわ。」

将維は生真面目に固まりながら答えた。

「はい、父上。」

維月は維心に問うた。

「ようは、炎翔様は将維を政策の道具と考えていたと?」

維心は頷いた。

「あれはの、鳥族を支配する側へ持っていくため、龍族との縁組みを望んでおったのよ。将維は次の王。その王妃に向こうの王族が居るとなれば、将維の世になれば炎翔の発言力は増す。我には抗えぬが、将維には対抗出来る。そう考えたのであろう。我の子は将維一人ではない。皆我の力を受け継いでおって、我には及ばないものの、力が強いことには変わりない。ゆえにの、我は龍族を独立させることにしたのよ。支配する立場の神として。縁戚だのなんだのとつまらぬしがらみは作らぬ。他の種族が力を持つのを許すと、今の世が崩れてしまうゆえな。絶対的な力で押さえ付けぬと、神は言うことを聞かぬ。これからは、我がおらぬとも、将維の子、明維の子、晃維の子、亮維の子と我の血が受け継がれ、さらに龍族は力を持とう。もう、他の種族の力は必要ないと判断したのだ。」

蒼は顔をしかめた。

「また難しいことですね。では、将維達は、今度は龍以外とは結婚できないのでは?血も薄まるかもしれないし。」

維心は首を振った。

「そんなことはない。龍は唯一、誰に生ませても生粋の龍を生ませられる種族だ。要はの、鳥のように中途半端な力を持っておる種族は駄目だと言うだけだ。虎も良くないかも知れぬな…世を取ろうと考えられるほどの力を持っておったら、世を掴んでおる種族と繋がったら何を考えると思うか?そこを言っておるのよ。それぐらいの制限は、王族であるのだから仕方がないだろうて。」

将維は頷いて言った。

「胆に銘じておきまする。」

維心は苦笑した。

「まあ、主は先に人を恋うるということを知らねばなあ。我は1700年なかったが、それは宮に篭って政務ばかりしておったからよ。いきなり臣下が女を連れて来て、それが如何に美しゅうても特別な感情など浮かばぬし。ゆえに、主も少し外へ出てみると良いぞ。我の父も我も、結局外で勝手に見つけて来た女を愛したのだ。我の父だって7人の妃が居って、我の母以外は皆臣下が連れて来た女だったというからの。ある日突然、部屋に居たのだそうだ。結局、そのうち我の母と瑤姫の母が一人ずつ子を生んだだけよ…どれだけ執着がなかったかわかろうが。」

将維は頷いた。

「父上は母上お一人で6年ほどで5人でございますからね。子は妃の多さは関係ないのは分かっております。」

あまりに将維が生真面目に答えるので、蒼は笑ってしまった。

「確かに維心様がこれほど子だくさんになるなんて、誰が想像出来たかと思うよ。オレ達でも、二人なのに。」

維心はフフンと笑った。

「父に止められなければ、まだ生んでおったぞ。だが、それぞれの侍女やらで宮に召す龍が増えるのでな。これ以上は王族を増やすのはどうかと思うて。」

維月は横で膨れた。

「まあ、維心様。生むのは私でございます。最後の亮維が難産でありましたから、これ以上は私も無理ですわ。」

維心は維月の肩を抱いた。

「わかっておる。主が気を付けておれば出来ぬとわかったではないか。月とはほんに便利であるの。」

蒼はびっくりして母を見た。

「え、母さんが調節できるの?!」

維月はもう、という顔をした。

「維心様はお酒を召しているから…どうしてこんな話になったことやら」と維心をめっ!と見た。「そうなの。人の時と違って、排卵させずにおくことが出来ることがわかったのよ。だから、あれから子が出来ていないでしょう?」

蒼は感心した。

「すごいなあ…月は万能だよ。」

維心が得意げに言った。

「そうであろう。でなければ今頃毎年計算で30人目が腹に居ったな。ほんに維月は万能よ。」

維月は維心から杯を奪った。

「もう、飲み過ぎでございまする、維心様。」

維心は笑って維月の手を取ると、優しく杯を取り返した。

「すまぬ。そう怒るでないぞ。今日は無礼講であろう?」

杯を差し出す維心に、維月は仕方なく酒を注いだ。珍しく維心が酔っている。蒼は笑った。

「それでこそ婚儀の夜ですよ!今日は飲みましょう、維心様。」

維心は上機嫌で答えた。

「さすがは蒼よ。主ももっと飲め。」と侍女を見た。「酒を持て!」

将維も苦笑して杯を空けた。維月がそっと将維に酒を注ぐ。将維は母を見た。

「…母上?」

母は片目をパチッとつぶった。維心がそれを見て維月を引っ張る。

「だから将維は駄目だと申すに!」

維月はわざと将維を抱きしめた。

「何をおっしゃいます。将維は私の生んだ大事な子ですわ。小さな頃からこうして育てましたの。ね、将維。」

「……。」

将維は固まってしまって声が出ない。確かにそうだが、ここ最近はこんな機会はなかった。何しろ、父が母に寄せてくれないからだ。維心は唸った。

「…そうか、主も飲んでおるの?いくら酒が入っておろうとも、それは許さぬ。」

維月は膨れた。

「では維心様も、いくらお酒が入っていても、私の前であのようなお話はしないでくださいませ。蒼も私の息子なのですわ。恥ずかしいではありませぬか。」

維心は渋々頷いた。

「…わかった。もうせぬから、将維を抱くのはやめよ。早くこちらへ来い。」

懇願するような表情なので、維月は将維の頭をなでると、離れて維心の方へ寄り添った。維心はホッとしたように維月を腕に抱いた。

「…維月を怒らせると、怖くてたまらぬわ。」と、蒼を見た。「主はどうであるか?」

蒼は瑤姫を見た。そして頷いた。

「…滅多に怒らないだけに、怒ったらとても怖いですね。まだ出て行ったことはありませんが、出て行ったら帰って来なさそうで、ビクビクします。」

維心はしみじみと頷いた。

「このような苦労をせねばならぬとは」と維月を見、「しかし、離れては生きて行けそうにないし。」

あまりに維心が真面目に言うので、蒼は笑ってしまった。維心様は本当に母さん命なんだ。特別扱いが難しい女を選んでしまうなんて、維心様も女運が良い訳ではないらしい。

「それが良いのでしょう、維心様」蒼は笑いながら言った。「なんでもするすると言うことを聞くなんて、きっと退屈なのですよ。わざわざ母さんのような、難しいタイプの女を選んだのですから。」

維月は蒼を睨んだ。

「ちょっと蒼!」

維心は諦めたように頷いた。

「…そうであるのよ。気が付けば維月ばかりを想うようになっておった。維月は駄目だと思うておったのに…あの頃、我がどれほどに苦しかったか。それを思えば、今の苦労などなんでもないわ。」

将維は、珍しく父が酔って饒舌であるので、これは何か聞けるかもと期待した。

「父上は、母上のどこがお気に入ったのですか?」

維心は遠くを見るような目をした。

「そうよな…何よりもこの「気」には我を引き付ける力があったの。それからはっきりと物を言う清々しさかの。心を初めてつないだ時に、その生きて来た道を見た。あまりに潔いので、なんとはっきりした女よと思ったの。自分の信じたものに対して、迷いがない。子を守るためにあっさり命を懸ける。そして」とためらいがちに言った。「たった一人を幼いうちから変わらず愛しておった芯の強さだ。その男のために、他の男の子を生む強さもの。」

維心は黙った。その時のことを思い出しているようだ。蒼はそれは、十六夜のことを言っているのだとわかった。それで、維心様は心を殺して、最初母さんを見ているだけだったんだ…。

「でも、今は…。」

将維がそう言うと、維心は頷いた。

「そうよ。ここまで来た。あの時は到底無理だと思っておったのに」と黙って聞いている維月を見た。「ついに我の正妃になった。我を愛して、共に来てくれると申してくれる。ゆえに、今は寿命が尽きる怖さもない。我は幸せ者であるな、維月よ。」

維月は微笑んだ。

「私もですわ、維心様。」

維心は満足そうに微笑んだ。将維は、父が簡単に母を手に入れたと思っているだろうと言われて、王だからそうなのだろうと思っていた…が、そうではなかったのだ。王であるから、言えなかったこともあっただろう。王であるのに、手に入れられない苦しさもあったのだろう。そしてやっと、いろいろな柵を掻い潜って、今日があるのだ。将維は微笑んだ。

「…父上、このたびは本当におめでとうございまする。」

維心は将維を見て、微笑した。

「…うむ。主も早く、恋うる相手が見つかれば良いの。」

将維は、心底頷いた。

「はい。我も外をもっと見るように致しまする。」

父は頷いて、母に酒を注いでもらって嬉しそうに杯を干している。それからまた、蒼と楽しく語らい、その日は深夜までそうやって過ごしたのであった。



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