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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
忘八の事情
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そして、領黄は仙術を使ってその楼の存在を、そして中に居るものの気の存在を、完全に消し去ってしまうことに成功した。

師である彎は仙人で、せいぜい人や神を一人閉じ込めるのがやっとであるようだったが、領黄にはその地を全て包んでしまう膜を作り出すことが出来た。これが、神の力なのだ。

そして、見るからに美しく、この世に存在しない花を餌に、次々に神女達を捕え、そして広孝の言うようなやり方で抑え、着々と準備を進めて行った。

信黎に近付いたのは、その準備が整った時であった。

信黎が友を連れて来ることは、容易に想像出来た。一人で来るのが不安であるとかではない。そんな遊びを見つけた自分を皆に誇示するためだ。

その中に、父も入っていることに、領黄は賭けた。

そしてその日、領黄は賭けに勝ったのだ。


父は最初、びっくりしたような顔をしたが、すぐに無表情に戻った。

皆が喜んで女達に酌をさせる中、しかし父だけは、一人で酒を飲んでいた。腰に挿した刀の柄には、新しい玉飾りが付けられてあったが、それは明らかに以前最初に会った時に付いていたものとは、違っていた。領黄は、コソッと父に話し掛けた。

「なぜに、お一人でいるのですか?」

父、炎覚は、ちらりとこちらを見ると、答えた。

「…何も知らされずにここへ連れて来られたのだ。酒は飲んでおろう。」

領黄は、我慢できずに言った。

「なぜ、お一人なのですか?」領黄は繰り返した。「もう、誰かをお傍に置いてもいいのではありませんか。」

炎覚は、驚いたようにこちらを見た。領黄は黙ってその目を見返した。しかし、炎覚は目をそらした。

「なんのことかわからぬな。しかし、一つ忠告しておこう」と声を落として言った。「ここは、龍の王に見つかればただでは済まぬ。早々に閉めた方が良いぞ。もう、充分に金塊も手に入ったであろうが。」

領黄は、小声で言った。

「…あんなもののためではありません。」険しい顔つきだ。「あれは全て、ここを手配した広孝に渡す為のもの。私は、あなたに、妃を見つけてほしかった。あなたが交流のある信黎なら、きっとあなたをここへ連れて来ると思ったのです。」

炎覚はこちらを向かなかった。

「なんのことか、わからぬ。」

領黄は、頑固な父に腹が立った。そして、懐に入れていた、墓で拾った玉飾りを差し出した。

「母の墓で見つけました。私が留守をしている間も、墓はとてもきれいだった。」

炎覚は、その玉飾りを見て、ためらったような顔をした。が、すぐに横を向いた。

「…何を考えているのかはわからぬが、我には知らぬことよ。」

領黄は、それ以上そこに居ると叫び出しそうで、いきなり席を立ってその場を後にした。

そして、その玉飾りを捨ててやろうかと思ったが、思い直して懐へ仕舞った…。


そして次の日、維心と十六夜に制圧された。


居間で、維心が手を上げた。

壁に映し出されていた映像は消え、居間の明かりがついた。

皆が黙り込む中、蒼が急いで口を開いた。

「維心様、炎翔様を止めないと!炎覚様は…悪くなかったのに。」

十六夜がためらいがちに首を振った。

「…もう遅い。さっき炎翔は炎覚を斬った。おそらく、何も知らなかったのだろう。炎覚も言わなかったと思う。」

維心はため息をついた。

「…だから、王とは嫌なのよ。後で後悔をするようなことは、したくないと常思っておるのに…此度も、またこのようなことに。これを知れば、炎翔がどれほどに後悔をするのか…。」

維月が横で気遣わしげに維心の手を握った。維心は弱弱しく微笑んで維月を見た。

「維心様…維心様は炎翔様に処分を言い渡されただけですわ。殺せとは命じておりません。炎覚様も反論もされなかったのでしょう。それに、領黄はまだ生きております。」

「生ける屍となってな」と、記憶の玉を持って立ち上がった。「これは返してやろうぞ。しかし、あやつは責を負わねばならぬ。どんな理由があったにせよ、あれはやってはならぬこと。知っておって通ったあの王達にも非があり、それは命をもって償わせた。領黄は、何をもって償わせればよいことか。」

蒼も立ち上がった。

「許しがたいのはオレも同じです。しかし、境遇に同情の余地があることを今知りました。」

維心は頷いた。そして、一人で出て行こうとする。維月は十六夜を見た。

「今度は、付いて行かないの?」

十六夜はふと黙って、横を向いた。

「お前、これを見る前のことを忘れたか?今は、そんな気になれねぇな。」

維月が蒼の方を見ると、その視線を感じた蒼が瑤姫を見た。

「ごめん、母さん、オレも瑤姫を一人置いては…今は無理だ。」

維月は頷いた。

「私が共に参りますわ、維心様。」

維心は立ち止まって、両眉を上げた。

「あれほどに怖がっておったのに。しかも領黄の牢はもっと深い所にある。入り口の比ではないぞ。」

維月は頷いた。

「大丈夫です。あの時は一人でしたから。それに何の心構えもなくて。でも、今回は本当に大丈夫ですから。」

維心はためらったが、一度言い出したらきかないことは知っているので、維月の手を取ると、居間を出て行った。

蒼はそれを見送って言った。

「…いったい、何を怒ってるんだよ、十六夜。」

十六夜は、フンとそっぽを向いて立ち上がった。

「別にお前にゃ関係ねぇよ。月に帰って来る。用があれば呼べ。」

十六夜は窓枠に手を掛けると、光りになって戻って行った。

それを見送って、蒼と瑤姫は顔を見合わせた。


維心と維月は、地下牢への入口へたどり着いた。

そこから立ち登る冷気に、維月は身震いした。これは、気温ではない。長い年月、負の念が蓄積されて、こうなっているのだ。維心は見かねて言った。

「維月、我のことなら心配は要らぬ。居間へ帰って待っておれ。」

維月は首を振った。

「駄目です。こんな所に維心様お一人なんて。私も参ります。」

維心は維月の頬を撫でた。

「…では、こうしておれ。」と自分の袿の中に抱き寄せた。「我の気が主を守るゆえ、回りの気を感じぬだろう。」

維月は維心を見上げた。

「かえってお邪魔ですか…?」

その心配げな顔に、維心は微笑んだ。

「いや、主がおってくれたほうが心強いぞ。」

気を使わせているような気がしたが、やっと心が回復したばかりで一人でこんな所へ行かせるのは絶対に嫌なので、維月は維心の袿の中で腰の辺りに手を回して横から抱きつき、離れないように構えた。

そんな維月を苦笑しながら見てから、維心は階下へと岩の回廊を降りて行った。

そこは、維月の想像を絶する場所であった。真っ暗だが、維月も月なので足元は見えた。維心の気が自分を守っているので、外の陰の気は感じないが、見ているだけでもそれが濃いことはわかった。中には怨念のようなものもあり、維月は思わず身を震わせて目をつぶった。維心はそれを感じて維月を抱く手に力を入れた。無理をせずとも良いのに…。そう思いながらも、こんなに怯えている維月であっても、共に居てくれるのは心強かった。ここに一人で来るのは、心地の良いものではない。自分に危害を加えることなど、世にあるものの中で出来るはずはないので命の危険は感じないが、それでも精神的負担は大きかったのだ。先刻十六夜が付いて来ていたのも楽になったものだが、維月を胸に抱いているだけで、今は精神的負担は全くなかった。たまにビクビクしている維月の気が感じられてかわいそうに思うが、維心はこの場所で初めて穏やかな気持ちで居ることが出来ていた。

最下層にある、領黄の牢にたどり着いた。

中では、領黄がまるで呆けたように、四肢を投げ出して座っていた。天井をぼんやりと見ている目は、何もわかっていないようだ。維心は、記憶の玉を浮かべようと維月から手を離した。それでも、維月は維心から離れずに、くっついていた。維心はそれでも構わず、その玉に向かって念じていた。

玉は、大きな光になって、領黄の方へ流れて行った。頭の辺りに光は漂っているが、なかなかその光は消えない。

維月がどうしたのかと維心を見ると、維心は目を閉じて念じながら、眉を寄せていた。もしかして、戻せないのかもしれない。維月は維心に回した手で、背を撫でた。

「維心様、大丈夫ですわ。落ち着いてゆっくり戻してくださいませ。領黄は、きっと思い出したいはずなのですから。」

維心の表情は変わらなかったが、緊張して固くなった体から力が抜けた。

しばらくすると、維心の眉が見る見る元へ戻って行く。途端に、光が吸い込まれるように領黄の頭に入って行った。

領黄は、目の色が変わり出して驚愕の表情を作ったかと思うと、ばったりとそこへ倒れた。記憶を戻したショックで、気を失ったらしい。維心はそれを見下げ、気で玉を作ると、それで領黄を包んで持ち上げ、宙へ浮かせた。

「さあ維月、戻ろうぞ。ほんに主が共でなければ、我はこれに記憶を戻せなんだかもしれぬ。主の手柄であるの。」

維心はこんな場所なのに穏やかに微笑んでいる。維月もつられて微笑んだ。

「維心様…」とその胸に頬を摺り寄せた。「早くお部屋へ帰りとうございまする。」

維心は嬉しそうに微笑んで、領黄の入った玉を前に浮かせて運びながら歩き出した。

「よしよし、褒美をやろうぞ。十六夜は怒っておったが…我は、主がそうやって身を摺り寄せて来るのは心地良いのだ。我が妃なのだから、維月が我に甘えても良いではないか。」

維月は苦笑した。確かに、前まではこんなに維心様に自分から触れたりしなかったのだけど…こうすると、維心様がとてもうれしそうだから、意識してするようにしていたら、いつの間にか意識しなくてもこうするようになってしまった。

そんなことを考えていたら、段々と明るくなって、視界がはっきりとして来た。もうすぐ出口に到着するだろう。維心がかなり上がって来たところで、立ち止まって、手を翳した。そこは、入り口にほど近く、明るくてきちんと部屋になっていて、寝台も椅子も机もある…しかし格子もある牢であった。牢の格子が開く。

維心はそこの寝台へ領黄を降ろすと、また格子を閉め、呪を唱えた。格子は一瞬光り輝き、また元へ戻った。維心は維月を見た。

「さて、気が付くまでこのままここへ置いておく。我の戒めを解けるやつは居らぬゆえ、大丈夫だ。」

維月は頷いた。

「はい、維心様。」

維心は維月を腕に抱いたまま、言った。

「さて、部屋へ戻ろうぞ。」

維月が居間へといざなわれながら見た外は、もう暗くなって月が出ていた。


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