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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
忘八の事情
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神の世の影へ

全てを済ませると、領黄は家も家財も処分し、残った金とその金で旅に出た。もう、祖母の居ないあの家からは、一刻も早く出たかったのだ。

祖母に聞いたのは、神の世とは、人の行けない場所、人の見えない場所にあるが、確かにこの世に存在しているらしい。

生きて行きづらくなったら、神の世へ戻る方がいいと祖母は言っていたが、それがどの場所に存在しているのかは知らないようだった。

それで、せめてそこへ住めなくても、自分は力を持っているのか、持っているならその力をどう使ったらいいのか、教えてほしいと思っていた。それで、領黄は、片っ端から神社を巡った。そして、そこの神に話し掛けてみた。誰かが答えてくれさえすれば、ヒントぐらいはくれるかもしれない。

領黄は必死にいろいろな場所を回り、時には秘境と言われる場所にまで出掛けて行って問いかけてみたが、誰も答えてはくれなかった。そのうちに、皆本当は居ないのではないか、または自分は誰にも相手をされないのではないか、そんな気になって来ていた。

そんなことをしている時に、領黄は、北の山の中で道に迷った。自分が何も食べなくても平気なのは、この頃にはわかっていて、まあ死ぬことはないだろうと、野宿の場所を探していたら、断崖の上に、小さな房を見つけた。

あんな所に、誰がどんな目的で建てたのかはわからなかったが、興味が湧いて、今夜はそこへ泊ろうと、領黄はさくさくと断崖を登って行った。

自分でもこんな能力はないと思っていたのだが、実はとても身体能力が高かった。なので、断崖だって登り切れる自信があった。

案の定、そこへ軽々到着した領黄は、明かりがついているのにびっくりした。こんな所に住んでいるというのか…いったいどこから出入りしているのだろう?領黄は呼びかけた。

「夜分、恐れ入ります。あの、道に迷いまして、一夜の宿をお願いしたいのですが。」

中から、小さな老人が出て来た。領黄を見て、片眉を上げている。

「…宿なら貸すが、まさかこんな所に道に迷ったと言って来るヤツがいるとは。」と領黄をじっと見た。「珍しい。鳥の半神ではないか。」

領黄は、驚いて後ずさった。まさか、神か?

「あなたは、神ですか?」

相手は笑って手を振った。

「わしは仙人だ。元は人よ。そうか、お前はそんなことも知らぬか。」

領黄は、急に恥ずかしくなって下を向いた。

「…ずっと人に育てられ、人として育ちましたので…。それを、教えてくれる神を探しに、いろいろな神社を回っておりますが、誰一人として、答える神は居なくて。」

相手は頷いた。

「さもあろう。神というのは、面倒ごとは嫌うゆえな。聞こえておっても、知らぬふりをするのよ。」

と中を示した。「神ではないが、わしで良ければ教えてやるぞ。ちょうど退屈しておった。わしはゆえあって今はおとなしくしておらねばならなくてのう。退屈しのぎに良いわ。」

領黄は思わぬ所に渡りに船だと胸が高鳴った。

「ありがとうございます。私は、領黄と申します。」

相手は、奥へと歩きながら言った。

「わしは、(わん)という。」


彎は、実に様々なことを教えてくれた。

自分は半神といっても、神とほぼ変わらぬ力を持っていることも知った。

神の世の力関係も、位置関係も、すべてを彎から学んだ。自分の生い立ちも、その気から読むに、鳥の王族であるのは間違いないだろうと教えられた。確かに、父はいつ見ても偉そうだった。あれは、持って生まれた者なのだ。多分、悪気はないのかもと、いつしか彎は思うようになっていた。

彎は、自分は仙術しか教えられぬと、仙術を教えてくれた…もちろんのこと、領黄は神なので、仙術も軽々と操ることが出来た。

地下の書庫にある書物も、暇があれば通って読んだ。そして夜になると、そこで読んだことについて、彎と話すのが日課になって行った。

そこで20年が過ぎた頃、彎が言った。

「さて、領黄。そろそろここを出た方がいい。なぜなら、わしも自分のやるべきことをせねばならんのでな…神の世の父の元へ行くのもよし、人の世へ戻ってもよし。もちろん、両方を股に掛けてもよいぞ。お前には、なんだって出来る。神の世に生まれるより、そこで得しておるではないか。」

領黄は、本当はもっとここで、穏やかに学ぶ生活をしたかったが、いきなり押しかけてから今まで、面倒を見てくれただけでも奇跡に近いのだ。なので、頷いた。

「ありがとうございました、師よ。私はこれから、人の世の様子を見て参って、自分にしか出来ないようなことを考えてみたいと思います。」

彎は頷いて、背を向けた。

「まあこれは気まぐれのようなものよ。師と呼ばんでも良いわ。ではの。」

領黄は頭を下げ、ここへ来る時に持って来たバックパックを背負い、その断崖から飛び立って行った。


町は、すっかり様変わりしていた。

領黄は昔の紙幣が使えるのか心配したが、全く問題なかった。

まずは墓参りにと、母と祖母の墓へと、花を手に向かった領黄は、その有様を見て驚いた。20年も放って置いたにも関わらず、それはとても美しく手入れされてあったのだ。

雑草1つ生えてはおらず、しかも、真新しい花が手向けられていた。領黄は回りを見回した。何の気配もない。

他に縁者はいないはずなのに、回りの墓の家族が不憫に思って手入れしてくれているのだろうか。

領黄は、もう充分にきれいな墓石を洗い、持って来た花を、もう挿してある花の横へ強引に押し込んだ。持って帰る訳にもいかない。

そして、母と祖母に言った。

「ばあちゃん、オレ、神のことがわかったよ。母さん、オレの父親は案外悪くないヤツかもしれない…母さんはもしかして、知ってたのか?」

当然の事ながら、返事はない。それでも、しばらくそこでじっと座っていると、ふと、何か赤いものが目に入った。領黄はなんだろうとそれを拾い上げると、金と紅玉で作られた、玉飾りだった。まだ風雨にさらされた跡がないことから、それがそこへ落ちてから、あまり時間が経ってはいないのだろうと思った。領黄はそれに見覚えがあった…まさかと思って裏を返すと、そこには鳥の紋章が、金で細工してあった。これは、鳥の王族の紋だ。

領黄は、誰が墓を訪ねていたのか知った。そしてそれを握り締め、泣いた。オレは、一人ではなかった…。


それからというもの、領黄は父のことを徹底的に調べた。

神の世界は確かに力社会だが、そんなこととは無縁の、王の管轄ではあるが、宮から離れて住んでいる、宮仕えではない下々の神達も居る。領黄は、神達に取り入る方法は、彎から聞いて知っていた。その能力を使って、領黄は鳥の宮に居る王族の情報を集めて回った。

鳥の王族は、皆一様に女好きなのだという。それは、前王の血筋であるとかで、現在の王は齢400歳にして6人の妃が居るらしい。前王には、1700歳でなんと21人も居たのだというから驚きだ。

しかし、そんな王族の中でただ一人、妃が一人も居ない皇子がいるのだという。その皇子は、他の兄弟に似ず寡黙で、雰囲気は冷たく、滅多に笑うこともない一族の間では変わり者だった。しかし、生まれながらにそうだった訳ではない。50年ほど前までは、他の兄弟達を同じく社交家で、弁舌も巧みで、堂々とした、やはり女好きの皇子だった。それがある日長く出掛けて帰って来なかったかと思うと、急に今のような近寄り難い雰囲気になってしまっていた。そして、決して軽々しい神ではなかったのに、いつもふらふらと出掛けて行っては長く留守にして帰って来ず、またふらりと帰って来る、といった塩梅で、王位継承権第2位にも関わらず、そんなものには興味もないようだった。そして、世捨て人のようだったという…。

そして、この王族は、確かに人の世にも頻繁に出掛けていると聞いた。父は、この皇子ではないか。

領黄はその皇子に絞って情報を集めて行った。

いわく、神にも人にも心を開かず、数ある婚姻の話も全て蹴ってしまう変わり者である。

いわく、たまにどこかへ篭って出て来ず、それは特に夏頃決まった日に起こる。

いわく、傍には召使いすら召すのを面倒がり、独りで過ごすことをよしとする…。

領黄には、それがなんだか母を想ってのようなことがしてならなかった。なぜなら、自分が生まれたのは夏。きっと、母が死んだオレの誕生日に、どこかへ篭っているのではないか。女好きの家系でありながら、ある日を境にピタリと社交性を無くしたのも、婚姻を断ってしまうのも、そうなのではないか…。もしもそうなら、父は生き地獄を歩いている。そこから、なんとかして出してやりたい。母だって許してくれるはずだ。領黄はそう思い込んで、なんとかして父に癒しの時を、と思うようになった。

そして、その交友関係を当たった。ほとんどない中、北にある小さな領地を統べる王と、頻繁ではないものの、他の神よりは交流があった。こんなに小さな宮の王ならば、オレのような半神にも会ってくれるかもしれない。

領黄は、今度はその宮の王、信黎について調べて行った。

信黎の領地は、領黄の住んでいた町と重なっていた。父は、どうやらその関係から、あの町へ子供を生ませる女を探しに降りたのではないかと推察出来た。

信黎は喧嘩っ早い神で、そして、太平の世になる前は、隣の領地を狙って侵略を密かに企てたりしていた。しかし、最近は龍族の王の禁止により、何も出来なくなって、毎日宮で魂が抜けたかのように過ごしているという。

しかし、過去の行動を見ていても、あまり考えの深い神ではなさそうだ。近寄るなら、これほど良い神はいない。領黄は、信黎に狙いを定めて、父をどうやって癒そうかと考えた。

そんな時に出逢ったのが、人である広孝だった。

広孝は、完全に人でありながら神が見え、それを珍しがられてよく神の世にも精通していた。その広孝と酒を飲みながら話すうち、名前こそは言わなかったが、父のことをぽつりぽつりと領黄は話した。広孝は乗って来た。

「じゃあ、オレが手伝いましょう。あなたは力を持ってるんでしょう。しかも王族の力だ。半神だってかなりのものになるはずです。オレはね、人の世で夜の店を経営しとるんですが、これがまた競争が激しくて…ここには法律ってものがあります。でも、神の世では、そんな法律ないそうじゃないですか。そこへ持って来て、神の世では金塊やら宝玉は、身を飾りこそすれ、何かを買ったりするのにも使えない、特に価値のないものであるらしいのです。神の世に、吉原を作ろうじゃありませんか。本来女好きな父上のこと、きっとお喜びになるでしょう。それに、そこで気に入った女が居れば、連れ帰って妃にされるかもしれませんよ。そうなれば、あなたもなんの心配もなくなるでしょう。オレには、金塊があればいい。細かいことは任せてくれたら、全ていいように作らせてもらいますよ。」

領黄は、考えた。

「…そうか、吉原か。」と顔をしかめた。「だが、人の女は駄目だ。子を生めば死ぬから、妃には出来ない。父も二度とあんな思いはしたくないだろうし。」

広孝は手を振って笑った。

「神でいいじゃないですか。」

領黄は尚も眉を寄せた。

「奥ゆかしい上に引っ込み思案な神の女が、そんな仕事をすると言うはずはないじゃないか。それに、報酬なんて何を欲しがるって言うんだ。」

広孝はニッと笑った。

「うまく行けば、王妃になれるんですぞ?」と領黄の肩を叩いた。「それに、さらってくればいいんですよ。花か何かにおびき寄せて。神の世には娯楽が少ないから、女は特に、見たこともないような花には驚くほど寄って来るのだとか。私が大量の黒バラを神に寄進した時は、妃がとても喜んだと感謝されたぐらいですからな。そういうものでおびき寄せて、さらってしまうなんて、お手の物でしょう。」

領黄は思った。確かにな…。

そして、頭の中には、だいたいの構図が浮かんで来た。

「よし!明日からオレの知ってる術を駆使して吉原の楼を作ろう!」

そう決めてしまうと、なぜかすっきりとして、領黄は広孝と握手を交わした。


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