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デスペインオンライン  作者: アネコユサギ
第一部『理由』
5/15

 あれから私はユカリと別れ、ユカリ推奨の狩場へ向かった。


 頭には髪飾りの形をした『感情』デバイスが装備されている。

 なんか初めて占ったプレイヤーに無料で店売りデバイスを一つ配布していた。なんと太っ腹な婆さんだ。きっと本来の占い費用はぼったくりに違いない。

 ……思考を戻そう。

 『感情』デバイスの水晶色は透明、つまり無色だ。

 これはデバイス効果を発揮した状態でモンスターを一匹も倒していないからで倒せば倒す程色は濁っていく。


 そして右手には『黒のダガー』というナイフよりも一段階上位の武器を握っている。

 名の通り刀身が真っ黒なのが特徴だ。

 これはユカリの作った物で私の三日分の報酬殆どが使われている。自給換算したら現実では750円でも54000位すると考えると少しもったいない気もするがゲームに現実を持ち込むのは無粋か。

 話は逸れたが五段階まではあまり関係の薄そうに思われた製造系デバイスは武器一つ一つに色を入れる事が出来る。装備が重要なDPOでは個々人に設定された色から装備を選ぶのが通例なのだとか。


 尚『短剣』デバイスは見事『短剣』デバイス+1になった。

 水晶を囲む外装が少し黒付いたのは黒色で+された為だ。

 あんまり変わらない様に思うけれどこの+値が次の段階へランクアップさせる為に必要で+値が足りないと上位武器も装備出来ないし、+値が増える程武器との親和性が増して能力に上昇効果が付く。

 つまり敢えて上位デバイスにランクアップさせずに+値を貯め続けるという手もある。

 ちなみに+1になった事で水晶の色は最初と同じ無色に戻った。


 防具の方はユカリが作れないのでNPC売りの初期装備より多少マシとユカリが溢す程度の物を装備している。

 色々あって気が付かなかったが初期装備の外見は酷い物で草鞋みたいなサンダルに灰色の布塊と呼ぶに相応しいみすぼらしさだった。

 しかし、今は無地のワンピースに安そうな茶色い革の靴だ。


 あんまり変わってないけど布塊よりはマシなの、ほんとだよ?


 さて、服装に対する言い訳は程々にユカリが薦める黒色向け狩場に到着した。

 黒色狩場とは減法混合系狩場という意味だ。


 前途の通り『色』はDPOにおいてデバイスを育成する為に最も重要な位置にある。

 DPOではプレイヤー個々人の相性色に合わせてデバイスを強化するのが基本なので自然と色に合わせたモンスターを倒す必要がある。更に特定の色で鍛えなければ手に入らないデバイスの為にもモンスターの生息地選びが重要という事だ。


 そして属性色は10色存在する。

 正確には赤、青、緑、黄の四色と白、黒の二色なのだが、モンスターは加法混合の明度の明るい色と減法混合と呼ばれる明度の暗い色が存在し、事実上四つの色が倍の八つという計算となっている。


 その為、六個の狩場の中から自分に適した場所を選ぶのがDPOの狩場選びであり、パーティーを組んでがっつり金稼ぎという名目が無い限り基本的には同一色の仲間と行動する人が多いとユカリは詳しく教えてくれた。


 私の場合、相性色が黒なので当然減法混合系狩場でモンスターの種類が多く、色も豊富な狩場が理想であり、結果現在いる場所が黒色狩場という訳だ。


 黒色狩場と言っても大きな沼が見える以外は草原との違いはあまり無い。

 草原よりも雑草がちょっと長い位でこれなら劇的に戦い辛いという程でも無いのでオススメ狩場というのは嘘ではなさそうだ。


 ――ゲコゲコッ。


 女の子的にこの声に好印象を持つ人は少ないと思う。

 前方斜め下に視線を向けると鳥肌の立つ赤色の蛙がそこにいた。

 名前はマゼンタフロッグ。

 減法色に属する赤系統モンスターだ。

 能力自体は序盤の黒狩場なのでそれ程高くは無いが気持ち悪いという難点がある。

 攻撃の方はユカリから詳しく聞いているので正式サービスで追加アクションが実装してなければ苦労する相手では無いそうだ。


 数は二匹。

 私は今まで北門から出て直の草原で戦っていた訳だが基本一対一で戦っていた。

 なので、内心焦っている。

 一対一なら行動パターンの分かっている敵など怖くないが二体となると波状攻撃などの危険がある。本来なら一緒に戦ってくれる仲間を集めるべきなのだろうがユカリは外に出るつもりは無いし、利用対象と見ても外に出られては困る。

 つまり、人を信じない私はこれから一人で戦い続けなければならない。


「二匹なんて雑魚……場所によっては十匹が一気に来る事だってある……」


 そんな風に念じて自分を落ち着かせる。

 これから長い戦いになるというのにこんな所で両生類風情に怯えている様じゃ生き残る事なんて不可能だ。もしも私がそんな腰抜けなら街に逃げ帰って一生怯えていろと軽蔑してやる。だから私はここで逃げない、むしろこの蛙を逃がさず殺す。


 もちろん隙だらけの私にマゼンタフロッグは口を開き赤黒い舌を伸ばして攻撃して来た。


 ――下級の両生類系、特に蛙系は舌を伸ばしたら避けさえすれば数秒舌を出しっぱなしにする。そのまま懐に突っ込んで根元から舌を叩き切っちまえば後は本体に攻撃すれば今の装備でも楽に倒せるはずだ。


 ユカリの説明が頭に響く。

 真っ直ぐ私に向けて飛んできた舌を横にそれて避ける。

 舌は私がいた場所よりも遠くへ伸ばしてしまい戻すのに時間が掛かっている。


「懐に、入り込むっ……!」


 言葉のままマゼンタフロッグの懐に入り込み、伸びっぱなしのだらしない舌を根元からズバッとダガーを両手で力を込めて切り裂き。

 舌は想像よりも随分と伸縮性があって、糸を鋏で切るのとは全然違った悪く言えば生々しい感触が手に響く。


 そのまま流れる様に攻撃!


 舌を切り落としたダガーを右脇に持って行き、力いっぱい突き刺した。


「ゲゴゲボッ……」


 舌を失ってうまく声を出せないのか最初より鈍い音がするマゼンタフロッグは身体を支える四足の足を崩し倒れる。

 それと同時に赤い粒子が噴出され『短剣』デバイスに吸い込まれていった。

 『短剣』デバイスがほんのりと大量の水に落とした絵具みたいに薄く赤に染まる。

 これがデバイスに色を吸わせて育てる、という事だろう。


「ゲコッ!」


 そんな感動も余所に二匹目のマゼンタフロッグが横から舌を伸ばしてくる。

 前方にスライディングするかの様に避けて、足の状態を整えてから舌を戻そうと隙だらけになっているマゼンタフロッグに助走を付きの一突きを掛ける。

 そのまま引き抜き舌を下から切り裂くと二匹目も同じ様に大きく身体を崩して粒子となった。


「ふう……この緊張感にはまだ慣れないかな……」


 片方が落としたアイテム袋を拾いながら誰に言う訳でも無く呟いた。

 実際ユカリのオススメという話に間違いは無い。舌さえ避ければ脅威度は低く、一方的に攻撃出来るのも楽だ。まあマゼンタフロッグ……ユカリ曰く紅蛙は防御力が低い代わりに攻撃に当たるとダメージが大きいから必ず避けてから、周りのモンスターが攻撃動作に入っていないか確認してから突っ込めとは言っていたけど。

 血が沸騰する様な体温の上昇と緊張による微弱なストレスがマゼンタフロッグとの初戦での感想だった。


 それにしても本当に人がいない。

 1万も人がいるのだから何%かは私と同じ様に無謀な戦いへ繰り出しそうなんだけど。

 これが普通にデバイスペイントオンラインだったらきっと沢山の人で賑わっていたのかもしれない。ネットゲームは最初が一番混雑すると七星も話していた。

 だけど、デスペインオンラインは明確に死――大量殺人を犯人が行うと言っていた。


 痛めつけて、苦しめて、絶望の中で殺すと。


 唯一の希望は10人の生存。

 1万という被害者を考えるに街の外に何か出たくないよね、普通。

 それに今はまだ全員が死の受容を完了していないから嵐の前の静けさなだけだ。


 街の状況を見た感じでは第四段階『鬱状態』だった。

 この期間がどの程度続くか予想も出来ないが遅かれ早かれ一人二人と生存競争に乗り出すのは確実だ。

 一週間、出来れば一ヶ月は黙って街で死人同然でいて欲しい所だが難しいだろう。


 それに犯人がこのまま何もしてこないのは不自然だ。

 狂人の心何て理解は出来ないが必ず何か事件は起こる。

 その時、私は生きる為に最大の努力をする。でも、力が足りないんじゃ困る。

 もう自由を奪われるのは嫌だ。理由も無く殺されるのは嫌だ。


 私は、私の死を自分で決める。

 この死の監獄で自由に生きてみせる。

 その為なら何だって犠牲に出来る。

 生きる為に殺人をしろと言われれば殺してやる。


 どうせ私の身体は現実に無い。今ここにどうして自分がいるのかも分からない。

 収監された者が1万いようが私はこの世界の終焉まで生きる。

 その為ならどんな汚い手だって使ってやる。


 力無い真実は無力なのだから。

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