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「それにしても良くこんな装備で生きてたな」
あれから私はユカリに連れられて、利用するにしても便利な奴になれ! と注意されて占い屋という場所へ案内されていた。
このゲームは個々人の性格や周波数によってデバイス相性という物があるんだとか。
これは、反射神経とか、得意分野、発達した身体の部位と脳の電波送受信に関係していると難しい事を話しているユカリだった。
なんでも工学系の専門卒らしい。それっぽい事をほのめかしていた。
「そなたの才能を占ってしんぜよう。10000ゼニー貰う所じゃがそなたは初来店じゃな、今回だけタダで占ってしんぜよう」
占い婆とでも言いたげなお婆さんが紫色のマントを羽織って水晶玉で占ってくれる。
それにしてもマント流行っているのかな?
ちなみにこのどうみても人間にしか見えない歴戦の産婆っぽい占い師のお婆さんはNPCだそうだ。
NPCというのはノンプレイヤーキャラクターの略でゲームを進行する為に配置された便利なキャラクターらしい。
正直人間にしか見えないし、視線を合わせるとこっち見てくるし、外すと聞いているのか尋ねてくる高性能、本当にプログラムなんだろうか。
「うぬぬぬぬぬん! ハッ!」
過剰演出という位水晶から紫色のオーラが発生し、水晶が砕けた。
高そうな水晶なのにもったいない。
「そなたの混沌は正しき意志の中にある。乱れし心が力を生み、短き刃が武器となる」
という結果が出た。正直意味不明。
振り返るとユカリが口を開いた。
なんだかんだで喋るのが好きなのだけは嘘では無かったのかもしれない。
「ステータス画面に能力が出るぞ。見てみると良い」
言われるがままステータス画面と念じると視界に半透明の履歴書が表示された。
名前 六道マナ。性別 女性。年齢 16。属性 混沌・善。
適正デバイス 感情 二刀流短剣。
相性色 黒。
見事なまでに真っ黒だ。
大体属性について今一意味が分からない。
混沌とか書いてあるけど、これは善悪という意味だろうか?
混沌という事は悪の方で、その中の善。
考えるのをやめよう。ゲーム内の占い師に私の何が分かると言うんだ。
「一ついいでしょうか、ユカリ先生」
「先生言うな。まあ言って見ろ」
「年齢16と表示されていますが、私21なんですけど」
「ゲーム機の誤作動か、精神年齢だろ」
「地味に酷い事をおっしゃいますね!」
しかし……精神年齢と言われると当たらずとも遠からずと言った所だろうか。
如何せん16で刑務所に入ったんで21になっても精神は耐えていただけだから成長するはずも無い。刑務所は慣れると待つだけの空間というか、私は嫌いだったので地獄だった。なので冤罪という恨み上成長のしようがないというか。
「それでこの適正デバイスにある『感情』とはなんでしょうか」
「また個性的なのが出たな、マナは心の浮き沈みが大きい方なのか?」
「いえ、自分ではそれ程感情的になった事はあまりないと思いますけど」
「ベータでも使ってた奴がいたけど『感情』デバイスは人間の強い脳の信号、つまり感情に反応して能力値に補正を掛けてくれるデバイスだ」
つまり心が本当に移り変わる直情的な人しか使えない。
ユカリ曰く、感情的に見せたとしても本当に脳が信号を出していなければ効果が無い使用用途の曖昧なデバイスの筆頭で、もっと便利なデバイスが沢山あるとの事。
「そういえば一人だけベータ中に感情デバイスを使いこなせてた奴がいたな」
「どんな方だったんですか?」
「普通の男だ。確か槍使いだったと思う。別段怒ったり笑ったりしてた訳じゃないが感情デバイスからの上昇値の高い奴だった。ぶっちゃけ周りからは煙たがられてたけどな」
理由は、まあ、言うまでも無く想像が付く。
表面上普通に接している人物が内面では感情を強めている。それだけで妙な打診をしてしまう。その人の事を知らない私ですらあまり良い感情は抱かないので周りから相当悪い扱いを受けたのではないだろうか。
その結果、更に内心穏やかでは無い分『感情』デバイスは効果を遺憾なく発揮したと。
「そいつがまた強くてな。人気は無かったが上位プレイヤーだった」
「具体的にどれ位強かったんですか?」
「凄い時は3,4人相手に一人で勝ってた。逆に瞬殺される事も多かったけどな」
「つまり後者では本気が出せなかったと」
「そうなるんじゃないか? というか、むしろ後者の方が本気かもな」
さて、ユカリの話を信じるのなら感情デバイスは効果が高いけれどその場その場で出せる力に差が出る。うまく使いこなせれば相当な有利に進められるという。
なんでも占い婆はかなり信憑性の高い結果表示をするNPCでこの際に適正と呼ばれたデバイスには少なからず上昇効果があるそうだ。
短剣の方はもう三日間の使用で完全にしっくり来てしまった為変更の予定は無い。しかし占いでは二刀流と出たけれど一刀流、双剣流、盾装備といった具合に同じ短剣でも種類がある。
占い通りに選択するのなら短剣二本だけど現状で満足するなら一刀流を目指すのも良い。
されど占いの結果は相当信用出来る。
「もちろん占いを信じずにデバイス選択するのも正解だろうな。あたしは偶然武器製造適正があったからその方向に賭けたけどな」
実に悩む所だ。仮にここで二つのデバイスではない物を選んだとして同系列の適正者には一歩引けを取るらしい。
占いの結果もデバイスの強化や戦闘を繰り返す事で変化するとの事。けれどそれはある程度先の話で、その際は先程の10000ゼニーを取られる。
ちなみに私の三日間の労働報酬は700ゼニー相当だ。
ユカリの話ではベータの時より五倍近く売却値段が減少しているらしい。
とまあユカリとの利害の一致は素材アイテムを武器製造に貢献する代わりに金銭を何割か増しにしてくれるという内容だ。ユカリとしては武器を沢山製造してデバイスを強化さしたいという本音の要求となっている。
補足だが契約内容にはこちらからも何個か口を出した。
金銭の取り分は6=4と私の方が有利。
私より性能の高い武器を他者に販売しない事。
効率的な稼ぎ場所を教えてくれる事。
私が帰ってこなかった際は当然全てのアイテムをユカリへ譲歩。
以上の四点だ。
最初ユカリは取り分を7=3という条件で提示して来たが後々の均衡も考え金銭取引としている。その際に「頭良さそうに見えてバカだな、マナは」とか言われたが問題無い。
私としてもユカリの様な頭の回る街側の人材が欲しいという実情がある。現実的に考えて一人で行動、ネットゲーム用語でソロと呼ぶらしいのだがソロで全てを賄うには必ず無理が生じる。
代表で装備が五段階より上の物が手に入らないなどが筆頭だろうか。
そういう意味で他者を信じない事と他者を利用しないという問題は「=」では無い。
もちろんユカリが裏切って持ち逃げ、という可能性も十分考えたが少なくとも今このタイミングで裏切るという選択を取るのならユカリという人間自体それ程脅威では無い。
むしろ――おっと、思考が脱線している。今は今後の人生設計だった。
「決めた。適正通りに行こう」
「いいのか? 別のにするなら一番効率の良い奴教えるぞ」
「無理に適正の無い物へ手を出すより長所を伸ばした方が良いかと思いまして」
「まあ、決めるのはマナ個人だからな。だが、ネトゲじゃ効率以外受け入れない傾向があるんだぜ」
「でも現状のDPOは効率だけで図れるでしょうか」
「あたしは外にでねーから関係無いが余程信頼出来る奴以外とは組まない方がいいのは確かだな。臨時なんて大金積まれたって絶対にいかねーよ」
「でしょうね」
まだ三日、されど三日。既に生き残り競争は様々な方法で確実に進行している。
最終的にどれだけの人間が生存競争に参加するかは謎だが可能な限り、大多数が死の恐怖に怯えている今の内に行動したい。
正直、ユカリや私も早い方だが全体の何%かは既に行動を開始している頃だろう。