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デスペインオンライン  作者: アネコユサギ
第一部『理由』
3/15

 三日経った。

 私はあれから自分という人間の一生を全て思い出して縛られた生活への鬱憤からか憂さ晴らしの如く昼夜問わず草原を徘徊した。

 その過程でモンスターとも多く遭遇し、幸運にも私は生きている。モンスターをナイフで斬り付けたり刺したりする事にも大分慣れた。

 こうして疲労を感じた訳では無いが私は一度最初にいた街へと足を運んだ。


 というのもデスペインオンラインにはレベルが無い。


 七星がやっていたゲームはレベルが上がるとキャラクターが勝手に強くなって魔法や技をどんどん取得していったのを覚えていた私はとにかくモンスターを倒して、道具を手に入れさえすれば強くなれると思っていたのだが……実際はこの様だ。


 更に言えば私はこの三日間で数を忘れる位モンスターを倒し続けたのだが、受けるダメージも与えるダメージにも変化が無い事に気が付くのに三日掛かった。

 こんな風になるのならもっとゲームをやっておくべきだったと反省している。


「うわ……」


 街へ続く門を潜ると暗い雰囲気が蔓延していた。

 ボーッと歩いている人、体育座りしている人、横になっている人、と色んな人がいるのだが、その全てに生気が無い。


 私も経験があるので理解出来るのだがいわゆる死の抑鬱状態という奴だ。

 おそらく例の死刑宣告が原因だろう。

 生き残れる人間が10人。

 1万人もいれば中には戦って生き残ってやるぜ! と息巻く者もいそうだが、大多数は三日で立ち直るのは不可能だ。私だって次の症状、死の受容状態になるには相当な時間を無気力に過ごした。


「そこのあなた」

「……?」


 振り返ると全身を覆う無地のマントを羽織った不気味な人物がいた。

 声からして女性なのは確実だ。だけど、何故マント。


「私ですか?」

「そう、あなたよ」

「何か御用でしょうか」

「あなた外へ出たでしょう?」


 さて、誤魔化すか、嘘を付くか、逃げ出すか。どれが適切な行動か考えて見る。

 真実を答えるという選択は私に無い。言う気も無い。

 取り敢えず適当な事を言ってはぐらかしながら逃げる事にしよう。


「隠しても分かるわ。あなたのデバイスを見れば」


 残念ながら思考の逃走経路を回り込まれてしまった。

 一つ溜め息を吐いてからマントに向き直る。


「そうですが、何か?」

「あなた新しい武器は欲しくない?」

「いりません、ではさようなら」


 回れー右! と、反転し私は歩き出したのだけど、マントが付いて来た。

 マントは私の進行方向に立ち塞がる。


「待って、待ってよ! どうしてこの流れで武器が欲しいって言わないのよ」

「……本気で言っていますか?」

「普通新しい武器って言ったら喉から手が出る程欲しがるものよ!」

「どうみても怪しいじゃないですか、騙されるのが目に見えています」

「なるほど! 考えなかった!」


 マントは意外にバカっぽい頭の様だ。

 うんうんと頷き、マントのフード部分を脱ぐとそこにいたのはやはり女性だった。

 年齢は……おそらく20代前半。大学生、あるいは社会人といった所だろうか。


「いや~北門で三日監視してたんだけど誰も街から出なくってさ」

「そうなんですか」

「それで、そろそろ自分でも浅はかだな~っと思った計画を取り止めて別の方法を考えてる時に君が来たってわけ」


 計画と来た。ますます怪しい。

 人生観的に私は人を信用しない人種なので、まず他人を疑って接する癖がある。

 これは刑務所で村八分にされたトラウマから来る物なのだが今は気にしない。


「聞いて驚け! デバイスペイントオンライン……今はデスペインオンラインだけ? どっちでもいいや。取り敢えずこの略称DPOはレベルが無いじゃない? その代わりデバイスと装備で階段式に強くなれるんだよ」

「そうなんですか、親切にありがとうございます」

「そこであたしは考えた! 直情型の頭を使って考えたんだ」


 自分で言うのか。

 こういうタイプを何と言うんだっけ、脊髄タイプだっただろうか。

 言いたい事を言いたい時に口にする。そういうタイプ。

 少なくとも私の短い人生で出会った事の無いタイプだ。

 それにしてもデバイスペイントオンラインにデスペインオンラインでどちらから読んでもDPOという読み方はうまいと思った。これから私もDPOと略させてもらおう。


「外で戦うのは死んじゃうかもしれないから怖い! できれば戦闘禁止エリアの街にいたい! だけど、無事現実に脱出する為には最終的に街から出なくちゃいけない。幸いあたしはクローズドベータ経験者、DPOに関しては1万超の中では詳しい方だ。だから外に出てアイテム稼ぎ&デバイス育成が危険な事も知っている」

「なるほど」


 それにしても良く喋るな。

 周りが幽霊の様にボーっとしているのでちょっとオカシイ感じがする。


「外の敵から攻撃受けたら100受けるでしょ?」

「いえ、200ですよ」

「まじで?」

「はい」

「うわ、殺しに来てるとは思ってたけど能力値倍とかえげつないな~」


 まあ大量殺人をする人間の考える事なので常人が理解出来るはずも無い。

 当然私もこのゲームDPOを作った人間の気持ちなんて分かる訳も無い。

 だけど良い事を聞いた。デバイスと装備とやらを良くすれば確実に強くなれるらしい。


「では、お元気で」


 気分も上々にマント嬢から距離を置くと。


「待った待った待った待った。今の流れでそれはおかしい」

「おかしくないです。私は急ぎますんでここでさよならです」

「待ってって! 損はさせないから! あたしの話を聞いて!」

「…………わかりました」


 とても必死に懇願され断り辛い雰囲気だった為話だけ聞く事にしよう。

 もしも碌な事言わないなら今度こそ逃走する予定だ。


「あなたは外に出た。しかもモンスターと戦った。それも結構な量だ。違う?」

「否定はしません」

「でしょう? デバイスが黒いから分かるんだ」

「黒い?」

「あ、やっぱり知らないんだ。クローズドベータユーザーは少ないからな~」

「先程から気になっているんですがクローズドベータとは何ですか?」

「知らないの? ネトゲも始めて?」

「出来れば略語を使わないでください」


 こうして彼女から色々な事を聞きだした。

 クローズドベータとはネットゲームのテストプレイの事で何百人かを抽選で選び出しプレイさせてゲームの問題点などを洗い出す内容らしい。

 そういう面がある反面ゲームを誰よりも早く出来た運の良い人、という感じだそうだ。

 この女性もその当たりを引いた人間の一人でDPOには詳しいとの証言。

 彼女曰く、DPOはレベルが無い代わりに元はタイトルにまで使われているデバイスという装備が一番重要な位置を占めているんだとか。

 そして門の外から来た極々少数の人間でデバイスが普通とは違う私に声を掛けた。


「――と言う訳ですか」

「そうそう」

「それで私のデバイスが変だと何かあなたに困る事でもあるんですか?」

「逆だよ逆。あなたのデバイスは水晶部分が黒いでしょ? これって倒したモンスターの性質と数で変わるんだよ。赤系なら赤、青系なら青、みたいな感じで。黒は乱雑にモンスターを狩った人に出る色なんだけど、これがベータ中でも結構な数狩らないとその色にならなかったんだよね。つまり君は相当数モンスターを倒している、それもこの三日間で」


 実際、その通りだ。

 三日間寝る間も惜しんで昼夜問わず戦い続けた。

 ゲームという体裁がある以上、彼女の言葉は間違いでは無いだろう。事実私の右手首に取り付けられたデバイスと呼ばれる部位の水晶色は純粋な黒だ。

 誤魔化しようの無い事実、というのもある意味では気軽でいいかもしれない。


「それで、ものは相談なんだけど、武器を作る代わりに経費と制作費をくれないかな?」


 そして彼女はまた説明を始めた。話をするのが好きなのだろうか。

 というよりも私がゲームについて無知過ぎるのかもしれない。

 しかし……死が絡んだこの世界、こんなに出来た子が、しかもクローズドベータ経験者が態々初心者捕まえて詳しく教えるというのもおかしな話だ。


「それであなたに何の得があるんですか?」

「お金がもらえるよ」

「それこそ、ベータ経験者であるあなたなら初心者から貰わなくてもいいのでは?」


 一見彼女の申し出は正しく聞こえる。

 危ない外に出たくないから武器を作ってお金を儲けたい。

 おそらくは武器を作れるという仕様があるのだから、そういったゲームの遊び方も十分ありえるのだろう。

 だが、事このDPOに置いてその行動は些か不自然だ。


 何度も述べる通りこのゲーム、デスペインオンラインは最大で10人しか生存出来ない。

 もちろん信じる信じないの境はあれど、この街の状況から確実にその信憑性が高まる事件がこの三日以内に発生した可能性が高い。


 仮に私が外へ出てモンスターを倒してきた数少ない勇気ある人間の一人だとする。

 こんな状態でも生きていこうと前向きに10人に入ろうと努力する人間だという事が分かる。

 彼女の死にたくないけどお金は手に入れたいという商売根性を発揮する気持ちも分かるが街の中で生活するにはいいが最終的に彼女はその勇気ある私に協力した所で10人の中には入れない。

 ラスボスを倒した時、彼女は街と共に死ぬしか無いのだから。


 そんな状態で誰かに、例えお金を貰っても手を貸すという事をするだろうか?

 少なくとも私ならしない。

 それこそ強い装備を自分の為だけに作って自分だけで使う。

 つまり彼女は自己犠牲という名の慈善活動をしているのだ。


 そして今までの会話から彼女はかなり頭が働くタイプの人間だという事が分かる。

 バカっぽい言動に思えるが言葉巧みに感情誘導をして相手の見方を変化させ、好意的に捉えさせている。実際私は、この子になら武器を作ってももらってもいいかな、程度には好感を持っているし、明確な私を利用する理由があるなら利用されても良い。

 だが、彼女は少なくとも現状自分の内面を一つも見せていない。

 要するに見せ掛けだけの直情バカっ子だ。


「尋ねますが、あなたはどうやって生存者10名に入るつもりですか?」

「え…………」

「今のままではあなた、死にますよ? 三日で行動に移せるんですから意思は強いんですよね? なら、あなたの中で生き残る方法が思い浮かんでいるはずです」

「…………」


 あれだけペラペラと喋っていた彼女はとたんに口を噤んだ。

 最初は表情をコロコロと変えていたが直に表情が冷たく変化する。


「あんた、名前は?」

「六道マナ、あなたは?」

「色鉦ユカリ」


 ユカリは私をマジマジと見詰めるとフッと笑う。

 そこには直情バカっ子ユカリの姿は微塵も残らず消えていた。


「どっち道武器を作るのは変わらないんだ、けどマナ、あんたならいいか」

「と、言いますと?」

「このゲームはな。五段階より上の装備が店で手に入らないんだ。だから10人PTだとして最終的に武器と防具を製造出来る奴を確保しなくちゃいけない。だけど製造系デバイスを使うって事は当然戦闘能力が一回りも二回りも遅れを取る、後はマナの言う通りだ」

「あなたは先程の方法でどうやって生存者10名に入ろうと思ったんですか?」

「それこそ便利な10人PTに入れれば万々歳だし、相手がこっちを利用しようって考えてるんならバカなフリをして最後の最後に裏切ってやれば良いって思ってたさ」


 なるほど、実に効率的な手段だ。

 装備を製造する代わりに戦闘から遠ざかるという安全権を確保しつつ生存メンバーに属して必須な武具製造の道へ進む。仮にチームメンバーを失う、あるいは殺して仲間を失っても、周りは高性能な武器や防具を作れる人材は確保したいと生存を目指す者なら考えるだろう。

 時間が経てば経つ程重要性の増すポジションなのは確実だ。

 しかも生き残り10名に入り辛い製造職はなり手が少ない。

 だが、10人に入れない危険という面さえ除けば生存確率は非常に高いのも確かだ。


「つまり私を利用しようとしたと」

「ああ」

「悪びれもしませんね」

「外部から助けがこなかった場合の手は打っておくにこした事はねーだろ? もしもこなかったら1万中10人ぽっちしか生きられないんだ。悪ドイ事もしなきゃ生きて出られる訳ないだろ」

「その通りですね」


 一理所か、真理だと思われる。

 誰だって死にたい訳が無い。こんな境遇だからこそ生きようと必死になる。

 もちろん、外に出てから生き残った人間は色々と大変な目に合うだろうけれども死ぬよりは遥かにマシだろう。


「では、私を利用してください」

「はあ? 今の話を聞いてどうしてそうなるんだよ」

「どっち道、私も武具が必要なのは事実です。そしてユカリも誰かを利用しなくてはならない。違いますか?」

「マナは……それでいいのかよ」

「むしろ、利害の一致しない善意だけの関係の方が私は気持ち悪いです」


 ――本当に信じられる人間なんて一部にしかいないのだから。


 ちらりと私を殺した人間達の顔が無数に浮かぶが、今は目の前の差し迫ったDPOという問題を片付けなければならない。


「わかった。あたしもマナみたいな利己的な奴の方が話てて楽だ」

「そこは効率的と言ってくださいよ」

「はっ」


 鼻で笑われた。

 吝かでは無いけれどユカリの内面がある程度は信頼出来る人物である事が判明した。

 幸いにしてユカリはクローズドベータテスターだ。

 一時的、と考えても悪い手駒ではないはず……まあお互い様だけど。


 こうして私は黒い事を考えながら武器を作ってくれる仲間という名の利用出来る存在を手に入れた。


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