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行き先は以前デバイスについて教えてくれたNPC、占い婆の館だった。
なんでもデバイスを次の形態へ変化させるのは占い屋を含める様々なNPCで、北門から一番近い場所はここらしい。
こういう面はユカリと一緒にいてよかったと断言できる。
「確かマナは短剣二刀流だったよな?」
「はい。一刀にも慣れてきたのでそっちでも良いですが、適正だと上昇補正が入るんですよね?」
「ああ、しかもランクチェンジすれば今までよりも遥かに強くなる」
「なるほど」
「他のゲームでいう転職に匹敵するイベントだからな」
他のゲーム云々についてまったく知らないのだけれど、とりあえずどこまで差が出るかは不明だが今までよりは強くなれる様だ。
それはありがたい。
先程の話の通りこの世界で弱者は奪われるだけの社会なのだから。
「個人的に二刀流で本当に大丈夫なのか、という不安はありますが」
DPOが始まってからずっと短剣一本でやってきた分、どうしても戦闘スタイルを変えるのには抵抗がある。
慣れない戦い方でピンチになってしまったら何の意味も無い。
「そりゃあるかもしれねーな。だけどな、少なくともスペックの面では確実に今よりは強くなるぜ」
「具体的にどれ位強くなるんですか?」
「そうだな、二倍……は無いにしてもダメージだけなら1、5倍はいくな」
「随分あがるんですね」
「まあ武器を二本持つから重量も増えるけどな」
「つまり動きが遅くなる代わりに攻撃力が増すと」
「それだけじゃねーよ。短剣に設定されている使用者強化を二本分受けられる。まあ一刀流の方も補正は付くけどな」
確か短剣の重量は全武器の中でも最低クラスの重量だったはず。
これに勝るのは格闘に属する武器、つまり拳系。
それも重量の低い武器に限定された話で短剣の重さと拳の重さは殆ど同じだ。
つまり二刀流は短剣と相性が比較的に良い。
迷う理由は無い……か。
「決めました、短剣二刀流にランクチェンジします」
そう伝えると占い婆は以前と同じ様に水晶に強く念じ始める。
水晶の割れる音が響き、案の定水晶玉が割れていた。
「そなたの力は形を変えた。以降も精進する事じゃ」
言葉の通りデバイスの外見に若干の変化がある。
質素な作りのフレームが円形から三角形に変わった。
「これがランクチェンジですが」
「どうだ。大分変わった感じするか?」
ユカリの言葉通り体感としても若干強くなった気がする。
視力と聴力が増して、目が良くなり遠くの音も前より鮮明に感じられる様になった。
そして特筆する点は身体が軽くなった事か。
PKとの戦闘で発揮した状態には遠く及ばないが、それでも+や装備が徐々に強化されていく時よりも明確に強くなった気がする。
ステータス画面を確認しても変化はある。
短剣デバイスと表示されていたデバイスが短剣二刀流と表記されている。
説明文が添えてあり、文字を追う。
短剣デバイスの上位デバイス。
両手に短剣を持つ事で武器、デバイスの効力を大きく受ける。
スキルは短剣二刀専用が多い。
――短剣二刀流デバイス+0。
それが私の現在装備している武器デバイスの名称となった。
「さて、イチカの元へ帰りますか」
「服作るとか張り切ってたからな。デバイス強化位見に来ても良いと思うんだがな」
イチカはランクチェンジに同行すると思ったが防具製造をすると笑顔で送ってくれた。
戦闘禁止エリアである街なのでアイテム持ち逃げかとも思うが、材料一個分程度で逃げられても別段困りはしない。
そして防具の製造時間。
ゲームとはいえ、製造には多少の時間を浪費する必要がある。
製造デバイスを使う定めなのだろうが武具を作っている間は街に引きこもるしかない。
やはり私には向いていなさそうだ。
「イチカの製造はどれ位掛かるでしょうかね」
「まだ序盤の防具だからな。そんなに掛からねーと思うぞ」
「具体的には?」
「マナが武器を磨耗して帰ってくる位にはガキの分も出来てるだろうな」
「では、もう一度狩りに行って来ます」
イチカを放置しておくのは忍びないが武器に慣れる為にも二刀流とやらの練習をしなくてはならない。
ランダムダンジョンとやらも慣れない武器では難しいだろうし。
「了解、そういや防具を作れる奴を確保するのはもっと後だと思ってたから教えてなかったが確保する素材を教えとくぜ」
「それは助かります」
そうして私は三度目の狩りへと繰り出した。
私は黒のアンテニー・ダガーと黒のリングダガーを持ってモンスターと対峙していた。
狩場は黒系統ではあるがイチカと共に戦ったエジプシャンタテハよりももう一段階低い場所で戦っている。
理由は二刀流に慣れる為。
デバイスが強化されたからといって使いこなせる自信が無かったのが大きい。
なにより短剣スキルが使用出来なくなっていた。
つまりアクティブスライサーなどのスキルは一刀流専用のスキルなのだろう。
要するに現在私はスキルを使用する事が出来ない。
これは以前と同じ様には戦えない明確な意味でもあり、以前戦えたからといって同じ相手と戦えるとは限らない。
何よりも以前より武器が倍になった分だけ身体が重い。
もちろんデバイスが緩和しているので騒ぐ程ではないが、以前と同じ方法では避けられない事すらある。
不満ばかり述べたがランクチェンジによって受けた恩威も大きい。
まず攻撃力が以前とは比べ物にならない位上がった。
単純に攻撃手段が増えたのが理由の一つだが武器に掛かる補正が増している。
つまり短剣デバイス+9の時よりも武器一つ一つの性能に差が生まれた。
「とっ……」
戦闘中に雑念をしていた所為か3匹に囲まれている。
モンスターネームはボトルトカゲ。
濃い緑色、名前の通りボトルグリーンの鱗がギラリと光った。
練習相手にはもってこいの雑魚敵だ。
とは言っても三匹は少々きつい。
ここで戦っていた頃は1匹が限界と戦闘方法には気を使って戦っていた程だ。
その理由として足が速い事があげられる。
全力で逃げれば逃げられなくはないが、多くの敵と乱戦になるとどうしても攻撃を避けられない程度には早い厄介な相手だ。
「さて良い所を見せてもらいますか」
両手に持った短剣を構え、前方にいるボトルトカゲへと地面を蹴って飛ぶ。
左手は突き、命中。
ボトルトカゲの動きが鈍るが、私はそのまま身体を捻り、盾にする様にしてボトルトカゲの背後へ回る。
瞬間、私がいた場所へ二匹のボトルトカゲが突っ込んできた。
残念ながらその攻撃はハズレ、むしろ仲間を攻撃する結果となった。
そのまま私は追い討ちを掛ける。
右手を振り降ろすと一匹目のボトルトカゲが力なく倒れた。
――これならいける。
なによりも与えているダメージが以前よりも高い。
これはデバイスによる恩威か。
適正デバイスは上昇補正が掛かるとユカリが言っていたが、その影響だろう。
残り二匹は仲間の死に動揺する事も無く突撃してくる。
ここはゲームだからなのか、それとも野生の生物はこんなものなのかはわからない。
私は右膝を曲げ片足だけ地面に付ける。
今までならば後方へ逃げるなりすれば避けられたが、ウェイトが二倍になった分出来る事に限界が生まれた。
ならば、出来る範囲内で避ければ良い。
右膝を曲げる動作一つで身体の比重が左に偏り、転倒さえしなければ回避行動へと変える事も現実的範疇になってくる。
一匹目の攻撃をかわし、もう一匹に短剣を両方とも突き刺す――刺したまま外側へと身体を開く様に内側から切り裂いた。
ダメージは相当だった様で、二匹目も倒れる。
単純に装備の関係もあるがダメージはやはり以前とは比べ物にならない。
そして最後。
こうなってくると三匹目はもはや雑魚も同然、力技で薙いでみる。
突、切、薙。
この三つを実践できるか試したのだが短剣というカテゴリーである以上、完全に違う訳ではなく、どれも実用の範囲だった。
こうして短剣二刀流デバイスが+1になる頃にはアンテニー・ダガーもリングダガーも磨耗率が半分を超えたので帰還する事にした。




