第4話ディアナ・リリカとセイロン・ラウルの過去と動向と(前)
永らくお休みしていた執筆活動再開です。どうぞよろしく。
元リーザー王国跡地。そこは4年前の魔族の襲来以来魔族と魔物の住む地になっていた・・・。
「ジェイル様。魔界から使者が来ております。」
薄暗い部屋にその声が響くと、かつてリーザー王国国王が座っていた玉座(ずいぶん形は変わっているが)に座っていた男が返事をする。
「・・・通してくれ。」
使用人か部下と思われる男が
「はっ」
と切れの良い声が聞こえてしばらく、初老の魔族の男が入ってくる。
「ジェイル様。お久しゅうございます。グルンでございます。」
「グルン、久しぶりだな。4年振りか。お前が使者ということは相当重要なことだろう?」
「はっ。恐れながら凶報でございます。例の魔女が脱獄しました。おそらく新術を使ったのでしょう。あの魔女にとっては獄中で術を開発ことすら可能だったようです。」
「そうか・・・。まぁいい。ただし、次見つけたら確実に殺せ。」
「はっ。承知しました。」
一連の会話を終えるとグルンは一つ咳払いをして言った。
「私はしばらくこちらに居りますので、なにかあればなんなりとご命令を。」
そういって部屋を後にした。
「くぁ〜!こっちは暑いわねぇ。ま、牢獄よりましね。ねぇ?リリカ!」
ひどく暑い日、大きな街道に突然二人の人間が現れた。
「ほんと!暑いですね。でもあたしは牢獄には入れられてないですから・・・。ディアナさんは何年ぶりのシャバなんですか?」
ブロンドの女の子と銀髪の女性は、周囲の目も気にせず話をしている。
「なんだ・・・?今突然・・・。」
「あの人見て!肌真っ黒。」
「あの子カワイイ〜!」
周りの人々が注目の視線を浴びせ、さらにはヒソヒソと声をたてる。が、まだ二人はマイペースに話を続ける。
「え〜と、7、8年ぐらい?ていうかシャバって・・・。あんた幾つ?」
いつのまにか人が集まっていて、ポカンとした顔で見ている。
「そろそろ行きましょ!ディアナさん目立つんだから。とりあえずあたしんちに。」
二人は近くのリリカの家を目指して歩き始めた。
「リリカって一人暮らしなの?」
普通の家より幾分大きな家を前にしてディアナが訊ねる。
「えぇ。部屋余ってますから、一部屋あげます。魔界の話してくださいね?」
リリカはドアの鍵を開け、ディアナを導いた。
「いいよ?私の知ってること、色々話してあげる。」
二人は食卓のテーブルで話をはじめた。
「そうねぇ。私が捕まってる間のことは何にも言えないんだけど、」
言葉を遮りリリカが聞く。
「そもそも何で捕まってたんですか?」
「う〜ん。じゃあそこから話そうか。魔界には人間を極端に嫌う魔族とわりかし友好的な魔族がいるのね。私も後者なんだけど、ちょい昔、ヴィーノっていう魔族の男が居てね。そいつが人間界の侵略を企ててたわけ。」
「今の第6皇子みたいにですか?」
「今はどうか知らないけど、それまでの魔界の王は人間との関わりはタブーとしてきたの。さっき言った二者が争わないようにね。それで、魔界の王は魔族間の争いを避けるため、数人の人間を魔界に召喚して、ヴィーノを止めようとした。苦肉の策ね。」
「なるほど、人間に解決させることにしたんだ!」
「私の親友は特別にその一行の案内役をしててね。それでヴィーノ一族は滅ぼされてめでたしめでたし。のはずだったんだけど、ヴィーノは死ぬ寸前私の親友に呪いをかけたの。私はそれを解くために禁術に手を出したの。呪いっていうのはかけた相手が死ぬと解けなくなるから、一旦その魂を呼び出して強制的に呪いを解かせるものなの。でもそれもタブー。そもそも呪い自体禁術なんだから。」
「それで親友さんは助かったんですか?」
ディアナは悲しそうに首を振る。
「あたしにはできなかった。その前に見つかっちゃって捕まったからね。でも、その時には親友は人間界で最高の頭脳をもつ男と結婚してたから、呪いは解いてもらったかもね。」
「でも、非道いです。たったそれだけで8年以上も牢獄なんて。」
ディアナはうつむきながら言った。
「私が捕まっていた理由は他にもあってね。私は魔界でも最高クラスの魔女なんだ。」「?それが何か?」
リリカはいまいち理解できない。
「私の魔力は魔族の王にだって通用するのよ。そんなあたしが禁術を使ったなんていい口実。生きては出られないと思ったわ。」
リリカはじっとディアナを見つめていた。
「リリカはどうして私を助けてくれたの?」
リリカはにっこり笑って答える。
「あなたが必要だからです。・・・あたしの家は昔から占いを糧に生きてきたんです。独自の魔法も伝わっていまして。」
「ふーん。それで?」「だから、今世界は第6皇子に脅かされてます!この世界を救える人を探していて、一番最初にあなたの名が挙がったんです。今、二人目も占ってみます。」
リリカは紙と筆を取り出し、目を閉じる。手が高速で動きだし絵が描かれる。
「高速自動書記か・・・。」
ディアナの感心と疑心が驚愕に変わる。
「終わりました!え〜と?名前は〜。セイロンさん。こんな感じでディアナさんも見つけたんです!信じてもらえました?」
ディアナの表情は驚きの表情から変わる事無く呟いた
「全面的に信じるよ・・・。確かに世界を救うにふさわしい最高の頭脳の持ち主だ。」
リリカもそれを聞いてその意味を悟った。二人はすぐにセイロンを訪ねることにした。
「ジェイル様・・・。ただ今頼まれていた物が届きました。」
ジェイルは無言で頷きそれを手にする。
「ニーチェ・ディンバルト。ハーレン・カスケード。リリカ・フィナード。か・・・。この3人が余に危機をもたらすと・・・?ふっ・・・。まぁ片手間に捜索しろ。あと、魔女ディアナにも気を付けておけ。まぁ、4人程度に余が追い詰められることはないだろうがな・・・。引き続き余の驚異になる者を探してくれ。以上だ、退け。」
薄暗い地下室に驚きの声が響く。
「君がラウルくん・・・?サミーユさんの息子!?」
ラウルはあまりの大声に身を仰け反った。
「はい・・・。ラウル・ハーゲンです。けど・・・?」
「そうかぁ〜。今いくつだっけ?18?19?」
「今18です。僕の父さん知ってるんですか?」
セイロンは小さくはぁ?と言った。
「僕のこと、聞いてないの〜?クレイスさんに・・・。」
「いえ・・・。全然。」
セイロンは大きく溜息を吐いた。
「そう・・・。クレイスさんそういう事言わないしね〜。」
セイロンは俯き、また溜息を吐いた。
「あの〜父さんの事教えてもらえますか?僕は何も知らないんです。」
暗そうな顔をしてラウルも俯いた。
「いいよ〜。代わりに話そう。私が生まれた村はね。セト村っていうんだ。」
「え!?それっ・・・。」
「まぁ最後まで聞きなよ〜。そこは、別名魔界の入り口っていってね〜。だけど今はクレイスさんが守番してるから。向こうからはこちらに来れない。」
いつのまにか声が真剣になっていて、少し話が途切れた。
「話がいきなり逸れたね。そこで僕は育ったんだ。12才迄ね。そして、魔族がセト村を支配しようとしたのもその年だった。私はその時サミーユさんとクレイスさんに命を救ってもらってね、そこで魔力が目醒めてサミーユさんたちについていく事を決めたんだ。」
「えっと…。僕はその頃は…?」
「たしか、奥さんと暮らしてたはずだよ。奥さんはすでに病気だったから、魔界の薬ならと思ってサミーユさんはずっと探してた。でも、見つからず魔族の男に殺されてしまったんだ。私は最後まで恩を返すことができなかったよ。だからその代わりに、と言ってはなんだけどサミーユさんの遺書を魔界の入り口で守番していたクレイスさんに渡しに行った。その四年後、やっとの思いで仇を取ったんだ。まぁ、細かいことは追々語ろう。今日はこの出会いに乾杯だよ。」
ラウルはあまりに大量な情報に戸惑いながらもセイロンと杯を交わした。