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第3話セイロンとそれぞれの道

リーザー王国が在った場所から遠く、ある村のはずれの地下室にセイロンという一人の青年が住んでいた。彼は膨大な蔵書とその知識、そして不思議な術を持っていた。人々からは『魔法使い』と呼ばれ、尊敬されていた。


「セイロン様!魔物が村に入ってきました!お助けください!」

地下室へ続く扉を村人が叩く。

「あぁ〜、折角眠れそうだったのにぃ。また結界を張り直さないと。」

独り言を言いながら、はいはい今出ますよ〜。と気の抜ける返事をしてセイロンは表に出た。村人は震えながら魔物が、魔物が、と言うばかりだった。

「はいはい〜。もう心配ないですよ。新しく結界を張りましょう。その前に魔物を追い払わなくちゃね。」

セイロンは地面に魔法陣を描くと呪文を唱え始めた。

「火霊カグツチに乞う。聖火を持って邪悪なるものを祓い給え〜。」

呪文を唱える声も気の抜ける声だ。「次は結界だね。村まで行かなくっちゃ。案内してもらえます〜?」

助けを求めに来た村人にそう尋ねる。

「はぁ。」

村人はキョトンとしている。

「私は方向音痴でね〜。毎回案内してもらってるんですよね。」

村人はセイロンを連れて村に帰っていった。


村に着くと何やら騒がしく誰かが喧嘩をしているようだった。

「だから!僕じゃないって言ってるだろう!僕は剣は使えるけど炎なんか出ないって!」

「じゃあ誰がやったんだよ!?お前が剣を振ったら炎が出たんじゃないか!なんか仕掛けがあるんだろ!?」

見慣れない二人が喧嘩している。しかも原因は明らかにセイロンの魔法だ。

「あ〜。君たち。僕の魔法の所為で喧嘩させてしまってごめんなさい〜。」

セイロンがペコリと頭を下げ、そう言うと二人はセイロンをジロリと睨んだ。

「魔法?お前がセイロンか?魔界に詳しい?」

茶髪のクルクルの髪の男が言った。後ろ髪が少し焦げている。「ほら、僕じゃなかった。僕は炎なんか出せないんだから。」

ややあって緑髪の男が茶髪に言う。茶髪はすでにセイロンの胸ぐらを引っ張っている。

「てめぇ、この野郎!俺が何日待ったと思ってんだよ!手紙届いただろうが!しかも俺の髪チリチリにしやがって!」

セイロンはガクガクと前後に揺られながら手紙について考えた。

「はて・・・。手紙・・・。あぁ〜。たしか・・・・・・。どちら様?」

「ニーチェだよ!ニーチェ・ディンバルト!」

ニーチェは顔を真っ赤にしながらさらにセイロンを揺り動かした。その時、後ろから金髪の背の高い男が、木剣でニーチェの頭を殴った。

「ニーチェ。何してんだよ!セイロン探しに行くぞ、今日こそこの村にくるはずだ!な!・・・どうもすみませんねぇ。腕白で。」

ニーチェは泡を吹いている。もう緑髪の男の姿は無かった。

「あの〜。私に何か用ですか?」セイロンは金髪の男に尋ねた。

「てめぇがセイロンかこの野郎!約束の日付けからもう一週間経つだろうが!」


「いや〜すいませんねぇ。忘れっぽくて。ニーチェさん、ハーレンさん。何の御用でしょう〜?」

地下室に案内され、話を聞くチャンスなのだが、セイロンの脱力するような声はなんとも言えず調子が狂わされる。

「あ、いや。先程は取り乱してすいませんでした。早速ですが、セイロン殿は魔界についてどの程度ご存じでしょうか?」

ハーレンは礼儀正しく聞いた。

「そうですねぇ・・・。魔界っていうのは簡単には行けませんから、書物によると、ですが。まず魔界って言いましても、ちゃんと人間がいるんですねぇ。それを魔族と言うんですが、肌は漆黒で、言語は違いますがこちらの言葉も喋れます。魔族の言語は難しいので基本的に脳は発達してますねぇ。それに魔族は魔法を使います。魔法についてはまた後程。う〜ん。あとそれから魔物というのは魔族のペットと思ってください。ご質問は?」

ハーレンとニーチェはスースーと寝息をたてている。良く見ると体は傷だらけで、さっきの戦闘で付いた傷では無い傷も開いているようだった。


「うぁぁはぁ。よく寝たぁふ。」

ニーチェが目を覚ますとハーレンと誰かが話をしているのが聞こえた。

「おや、ニーチェ君が目を覚ましましたよ〜。どうです?気分は?」見たことの無い中国人みたいな服の男はニヤニヤとへらへらの間の顔でニーチェを覗き込んだ。

「あんたは・・・。誰?」

「おやおや、記憶がトんでますねぇ〜。私です。セイロンです〜。」

ハーレンが口を挟む

「傷、うまく治ったな。ニーチェこっちにきてくれ。」

ハーレンに呼ばれ狭いテーブルを三人で囲む。

「ゴホッ。じゃあ話をはじめよう。セイロン殿。ニーチェ。」

「セイロンでいいですよ〜。照れるなぁ。」ニーチェは最近の傷がすっかり治っているのに素直に驚いている。

「じ、じゃあセイロン。俺たちと一緒に・・・。」

「お断わりします〜。」

ニーチェが我に返る。

「おいおい。ハーレン話を最初から頼むよ。」

ハーレンはニーチェに向き直り言う。

「いいか、セイロンには魔界について聞きにここへ来ただろ?だが実はセイロンは高度な魔術をなんなく使いこなす魔法使いだ。」

「いや〜。初歩ですよ。」セイロンがまた照れる。

「俺たちにとってはすげぇの!それで、セイロンがいれば旅も楽になるだろ?」

大体は呑み込めた。至極もっともな意見だ。

「でも、断られたわけだ。」

ニーチェが推測できる限りのことを口にするとハーレンには補う言葉はもう無かったみたいだ。

「そういうことだな。」

ふぅと溜息を吐く。

「なんで?」

突然ニーチェはセイロンに問う。

「なんでか・・・?そうですねぇ〜。少し昔の話をしましょう。」

セイロンの眼に悲しみのようなものが一瞬顔を出した。

「私はこう見えても8年前世界を救ったことがあるんです。公には伝わらないですが、魔界での話ですから仕方ありませんよねぇ。」

いきなりの伝説じみた話を聞かされ声も出ない二人。セイロンは勝手に話を進める。

「魔界に住むある魔族と戦いました。もちろん仲間もいましたよ。リーダーのカーム、剣の達人クレイスとサミーユ、魔界人ミスティン、そして私。

私はミスティンに、その〜。惚れてたんです。でも、彼女は死んでしまいました。魔族を裏切り、人間に味方し、さらに、私達はあの、愛し合ってましたから〜。そしてここは私達二人が短い間でも住んでいた場所なんです。ここは彼女の墓なんです。だから私はここを離れないと決めたんです。解っていただけましたか〜?」

4・5秒部屋に沈黙が訪れる。

「そうか。無理は言わないよ。」

先に口を開いたのはニーチェだった。ハーレンも目を閉じ溜息をつく。『仕方ない。』のジェスチャーだろう。

「じゃあ魔界の事は大体聞けたし、いこうかニーチェ。」

ハーレンが出発を促す。

「あぁ。色々ありがとうセイロン。また寄るよ。」

席を立つ二人をみて、にっこり笑った

「また、逢いましょう。お気を付けて。」


「はぁ・・・。上手くはいかないもんだな。」

ハーレンが呟く。ニーチェは下を向きながら

「あぁ。」

とだけ言う。そこに前日(ハーレンとニーチェは16時間以上眠っていた。)ニーチェと喧嘩していた緑髪の少年が歩いてきた。

「あっ!昨日の・・・?ん?傷がない・・・?」

緑髪の少年が不思議そうにニーチェを見つめる。

「この先の家のセイロンっていうヤツが治してくれたんだ。・・・昨日は悪かったな。」

人間切ない話を聞くと少しやさしくなるようだ。

「いや、いいよ。こちらこそ見苦しい様を見せた、」「傷だらけだな。君も傷を癒してもらいにいけば?セイロンに。」

「ああ、そうするよ。ありがとうニーチェ君?僕はラウルっていうんだ、君とはまた逢いそうな気がするよ。またね。」

不思議な言葉を残して、ラウルという名の少年は去った。ニーチェとハーレンの二人旅は今しばらく続くようだ。

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