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第2話ラウル出立

『君がこの手紙を読んでいるということは、僕はもう死んでいるんだろう。君は僕の親友であり、最も良き相棒だった、時には喧嘩もしたが、もうそれすらできない。妻ももうじき僕の後を追うだろう。彼女の病気には特効薬も治療法も見つからなかった。・・・・・・最後の頼みがある。唯一信用できる君に。僕の息子を育ててほしい。名前は・・・。』

僕の名前はラウル・ハーゲン。両親が死んでから12年がたった。リーザー暦2550年1月6日。今日で16才だ。僕を育ててくれた人は・・・僕は師匠って呼んでるのだけれど・・・本名はクレイス・マルティネスっていう。


ラウルは朝起きて、いつものように顔を洗い、二人分の朝食を作った。コンソメスープとサラダと、パンを二切れづつ。パンの焼けるいい匂いにクレイスが目を覚ます。

「おはようございます、師匠。」

いつものことだ、変わりはない。クレイスは長く紅い髪を後ろで縛りながら、

「ああ、おはよう。」

と低い声で言った。朝食を食べながら唐突にクレイスが言う。

「そろそろ、お前も一人前だな、家を出ろ。今日。」

「はぁ!?」

ラウルは耳を疑った。あまりに突然過ぎた。

「今日で16才だろう。もう一人で生きていけ。」

「え、あの・・・。」

ラウルはただただ戸惑う。

「お前を預かってからずいぶん色々教えてきたな。言葉、遊び、釣り、剣、言いだせば限りがないか・・・。」

ラウルはだんだんと理解してきた。

「俺の眼がくもっていなければお前はもうここでじっとしているべき器ではない。」

ラウルに残された言葉はもう、一つしかなかった。それが涙と共に溢れだした。

「いままでありがとうございました・・・。」

ただ、それだけだった。


「いつか旅に出よう。」

そう思い始めたのはいつだったか。師匠は色々な場所に訪れることは良いことだと常々言っていた。ついにその日が来たのだ。革で造ったバッグに色々な物を詰め込んだ。表に出るとクレイスが厳しい表情で立っていた。

「ラウル、いままで俺がお前を育ててきたのは、一つはお前の父、サミーユに頼まれたからだが、それなりに楽しかった。何でもすぐ覚えたし、剣もサミーユに近づくまでになった。・・・。お前ならどの王室に仕えさせても恥ずかしく思わん。この山奥から出たお前は見たこともないような世界が広がっている。好きに生きろ。」

「はい!行ってまいります。」別れというのに、ドキドキしている。悲しみに未知の世界への好奇心が勝った。ラウルは笑顔になって、師に手を振った。


山を下りると農村が広がっていた。12年間師以外の人を見たことはなかった。大人は畑を耕し、子供はさらに幼い子供の面倒を見ている。ラウルにとってすばらしい光景だった。こんなふうに人と人とのふれあいがあって、それを守るため大人は働いている。ラウルはたまらなくなって子供達に近づき話し掛けた。

「ここはなんていう村なの?」

子供達はびっくりした様子だったが、

「セト村。」

とだけ言ってにっこりと笑った。

「ありがとう。じゃあね。」

喋った。短かったが確かに人と会話した。相手は子供だったがにっこりと笑ってくれた。


その日ラウルはうれしくて、いろんな人に話し掛けた。大人も子供もいい人ばかりだった。そして夜は宿を借りて眠った。明日はどうしようか。ここは楽しいけど、もっと遠くまで行ってみたい、と思った。


早朝、ラウルは遠くから聞こえる馬の蹄の音で目を覚ました。

一匹ではない。

とにかくたくさんの馬がこの村に近づいている。

あわててわらのベッドから飛び降りる。

家の主人はまだ気付いていないのか、いびきをかいて眠っている。

まだ夜も明けないし、ラウルの耳の良さは半端ではないので気付かないのも仕方ない。

外に出ると音は一層激しくなり大気を震わせた。

(戦争か?)ラウルは身震いした。(もし戦争なら、通りすがりの農村を焼かないはずはないだろう・・・。)急いで主人を起こし事の次第を告げると、主人は真っ青になり、妻と息子を叩き起こし、村中に触れ回った。ラウルは村人全員が山中に逃げ込んだことを確認した。ちょうど夜が明け切った頃だった。


東の方から太陽を背にして15・6頭の馬が現れた、乗っているのはどうやら山賊らしい。

「村に入るな!」

ラウルの大声が響く、が、止まるつもりはないらしい。

「ガキが一匹、邪魔してるぜ?」

「踏み潰しちまおう!ヒャッハァ!」

その内一頭が前に出てきた。

「死んじまえよ!ガキィ!」

ぶつかる瞬間ラウルは宙に舞った、足刀が山賊の首に寸分の狂いもなく命中した。男は落馬し、泡を吹いて気を失った。

「んなっ!?」

山賊たちは馬を止め、ラウルを睨む。

「今こいつ軽く3メートルは跳んだぞ。」

「何だこのガキは!?」

ラウルは口を開いた

「この男のようになりたくなければ退け!」

ドスの効いた声が響く。

「死にたいようだな?ガキ。こっちは10人以上いるんだぜ?」

山賊たちは手に武器を握りラウルを睨んだ。

「仕方ない。僕の忠告が聞けないようですね。」

「ガキが忠告?そんなことより遺言でも考えるんだな!」

一斉に山賊が切りかかる。ラウルは一人目の剣を躱し、顔面にカウンターをいれ、膝で剣を飛ばし見事キャッチした。切っ先を二人目の眼前に振り下ろし左からの敵を左腕で投げ飛ばしてぶつけた。ほんの2・3分で全員が地面に這いつくばっていた。


20分ほど経ったか、心配した村人達が山を下りると、村の入り口にラウルが立っているのを見つけた。そしてその足元には山賊らしい輩が十数人転がっているのを見て、全てを悟った。

「ありがとう!旅の人!」

「一人でこんなにたくさん倒したの!?」

「怪我はありませんか!?」

村人達はたくさんの歓声をあげ、ラウルに走りよる。ラウルは腰から砕け、倒れた。

「大丈夫ですか!」

ラウルは心配そうな村人たちにポツリと言った。

「怖かったぁ・・・。」

ラウルはクレイス以外と拳も剣も交わしたことはなかった。誰かを守るために戦ったこともなかった。今ラウルは初めて一人前になった。


昼。「じゃあ僕、そろそろ行きます。いろいろありがとうございました。」

ラウルは皮のバッグを持って、また村の入り口に立っていた。

「いえいえ!もっとお礼をしたかったんですが・・・。またいつでも立ち寄ってください。」

村人達は皆深々と頭を下げた。最初に喋った子供が大人をかきわけるようにして前に出てきた。

「兄ちゃん。俺、ジンっていうんだ!また村に寄ってね!俺兄ちゃんみたいに強くなるよ!」

ジンはそう言って握手を求めた。

「ありがとう、またね!」

ジンとラウルは固い握手を交わし、お互いにっこりと笑った。


まだ旅は始まったばかりだった。

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