おにごっこの夢あと
教室に入ると、斎藤の様子がいつもと違っていた。
キョロキョロと辺りを見渡して誰かを探しているようだ。
僕は自分の席に荷物を置いて斎藤の席へと向かった。
斎藤は僕を見つけるなり席を立ち、駆け寄ってきた。
「二宮さんと河野さんが喧嘩してるみたいなの」
なるほど。それで斎藤が不安になって、おどおどしてた訳だ。
斎藤の話によると、ついさっき河野が泣きながら教室から出ていったきり、帰って来ないようだ。二宮はと言うと、席に座ったまま、うつ伏せになっていた。
僕は斎藤を席に座らせ、ため息をつきながら二宮の席に近づいた。
「河野、泣いてたらしいぞ」
二宮はうつ伏せたまま、沈黙が流れた。
「お前には関係ないじゃん」
聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、僕はしっかりとその声を聞いた。
僕は二宮の肩をグイと持ち上げて顔を見た。
二宮の目は真っ赤だった。
「追いかけろよ」
静かに、だがしっかりと二宮と目を合わせて言った。
二宮は一時僕の顔を見つめ、コクりと頷いて席を立った。
始業のチャイムが鳴ったが、そんな物は関係なかったようだ。
僕は斎藤の方をみて、Vサインを送った。
斎藤はニコリと笑いながら、小さな小さな拍手を僕に送った。