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0.01 王と4人の子供


 主人公は一人だけじゃない


 それ故主人公は存在しない



 ライバルは一人だけじゃない


 この世に生きる全ての人の


 ライバルは一人だけじゃない



 国の中心である都――都に住まう国民は、裕福な暮らしをしているので都のことを宮と呼ぶが――ここにも国王の死後の時期王を狙う王族や貴族が数名いた。

 国王の第一子のガルードに、ガルードの腹違いの妹のセビアン。そして、妃が養子として育てている娘のヴィヴィアン。妃の弟の息子メルモーデ。

 彼ら4人の王族貴族は、とても仲がいい従兄弟たちであった。それ故国王の余命宣告を聞かされた時、彼らの誰もが友情が壊れてしまうと肩を落とした。何故ならば彼らは王の座をかけて戦い合わなければならないのだから。


 ガルードはセビアンとヴィヴィアンの二人の妹を、父親か母親のいずれかまたは両方が一緒ではないのにとても可愛がっていた。また、亡くなった母の弟――つまり叔父の、息子メルモーデにも優しく実の兄のように接していた。彼は騎士道や勉学に励み、よく本を読み、大事な物事は慎重に進め、感情に左右されずに意見を発言するような子であった。

 セビアンはその美貌とは裏腹に、傲慢な娘であった。しかし、妃や教育係の従者のおかげで、外見上は大人しくおっとりとした性格に見え、また多くのボーイフレンドがいた。

 ヴィヴィアンはガルードやセビアンに恐縮しながら慎ましく暮らしてきた。彼女だけは、次期王になる権利を持ちながら、王にはなりたくないと思っていた。彼女自身、本当の父母が分からない。彼女は、妃と王が結婚する前――まだ前代の王が生きていた頃、妃が道に捨てられていたヴィヴィアンを家に連れて帰ったと聞かされている。そんな自分が王になるべきなのだろうか、いつもそう自分に問うている。

 メルモーデには野心があった。亡き父の、生前の野望を叶えたいとも思っている。それ故ひた向きに、自分が正しいと思ったことには真面目に取り組んだ。身分を隠し、無償で身体の自由が利かない老夫婦の介護に当たったり、困っている人の声を聞いて回ったりもした。


 不治の病の王は、子供や妃を愛さなかった。前代の王も歴代の王もそうであった。彼らは誰も愛せない。

 現代でこそ、それは改善されてきたのだが、前代の王の時代は、誰もが王の座に執着していた。国民までも激しく執着していた。自分の領主が有利にさせようと、誰もが不正を働いた。一人違う意見を持つならば、その人間は殺された。後継者候補の彼らも、いつも死と隣り合わせだった。毎日毒見させた下郎が死んでいった。父である王が、政策を失敗させたり税を高くすると、一般人で仲の良かったはずの幼馴染に石を投げられた。怖かった。誰も、愛せなかった。


 そんなことを偲びながら、残された生命の日数を、王はベッドに横になりながら数えていた。

 ――平和になったものだ。

 屋敷に住まう4人の子どもたちを観察しながら、彼の一日が過ぎてゆく。初めて余命宣告された日、同じように子供たちを見つめていて、ふと王の頬には涙がこぼれた。あまりにも不思議すぎて、昔何度も夢見たことで、それならば自分が犠牲になってさえよかったと、思えるほどだった。

 特に彼は、ガルードとメルモーデを見ていると、自分の若かりし頃をよく思い出してしまう。

 ――弟は、元気だろうか。

 彼の弟ミルネリア伯爵は、遠く離れたアゼレッセンという田舎に住む。王を選ぶ選挙で敗れた彼の弟は、愛した人を捨ててアゼレッセンの伯爵令嬢と結婚した。そして伯爵夫婦に一人娘が生まれたとも知らせが入った。しかしそれ以来音沙汰がない。王は、弟が娘を次期王に推すだろうと考えていた。さすれば彼女は修行の旅をはじめ、この城にも来るだろうと踏んでいた。

 ――それまで保つだろうか。


 彼の退屈は、いつも訪問者で解消された。

 朝にはヴィヴィアンが花を摘んできた。毎朝違った香りのする花を活けてきた。王には花は見えないが、漂う香りを楽しんだ。

 昼にはメルモーデが、王の修行の旅の話を聞きに来た。王は彼にも分け隔てなく接した。

 おやつの時間にセビアンが訪れた。毎日美しいおべべを着て訪れた。王には彼女が彼女の母の妾に見えた。

 夕飯が終わった後、ガルードが訪れた。ガルードは視力の薄れた王に変わり、本を朗読してやった。その声に眠気を憶え、彼はいつも眠りについた。

 そして目が覚めれば、いつも隣に妃が眠っていた。王の腕に自分の腕を絡ませて、まるで子供のように眠っていた。

 王はそれ故幸せだった。

 ――私は愛を与えられないが、皆は私を愛してくれた。


 彼もまた、4人の子供たちが思うように、争いなどさせたくなかった。このまま平和に暮らしてほしかった。そして、自分も死にたくないと思っていた。



 ある朝ヴィヴィアンが変わった香りのする花束を持ってきた。

「お父様、アゼレッセンの叔父様からお便りが届きました。プレゼントが沢山あったので、私たちが変わりばんこに持ってきます。そしてこれもその一つ、お花の花束です。香りもここら辺で嗅げるものではありません。」

「そうかそうか、ありがとう。ヴィヴィー、キミがほしいだけ花を抜いていきなさい。」

 ヴィヴィアンは花や植物が好きだった。それ故とても喜んだ。


 その昼メルモーデが訪れた。便箋をひらひらさせて持ってきた。

「伯父様、アゼレッセンのミルネリア伯爵様のお便りです。僕が朗読いたします。」

「そうかそうか、ありがとう。お礼にキミに、彼の話もしてあげよう。」

 メルモーデも喜んだ。自分の野望にまた一つ近づける気がした。


 おやつの匂いを漂わせ、化粧をしてドレスを纏ったセビアンが訪れた。

「お父様、アゼレッセンの叔父様からプレゼントです。ヴィヴィーとあたしにはドレスと化粧品を、メルモーデとお兄様にはマントと剣をプレゼントされました。そしてあちらの名物のお菓子や紅茶もくださいました。どうか一口召し上がってくださいな。」

「そうかそうか、ありがとう。キミも拵えなさい。」

 お菓子に手を付けてない彼女は喜んだ。しかし彼女は、皿とカップを二つずつ持ってきてはいたが。


 夕飯が終わった後、いつもより遅くガルードが現れた。

「お父様、アゼレッセンの叔父様にアゼレッセンの薬草を頂きました。医者に頼んで煎じてもらいました。どうかお飲みくださいな。」

「そうかそうか、ありがとう。」

 王が宙に両手を伸ばした。ガルードはそっと器を乗せた。

「お父様、ミルネリア伯爵の娘レモーニ嬢が、旅を始めたとのお知らせです。僕らも旅を始めるべきですか?」

「…キミたちが自分で判断することだ。したければそうしなさい。」

 ガルードは、内心怖かった。まだ元気なので行かなくてもいいと言ってほしかった。他の3人たちには言う勇気がないから、だから彼が代わりに尋ねたのだ。


 明くる朝彼ら4人は城を出た。数少ない装備を身につけて。必要最低限な物を鞄に押し込んで。

 彼らは門の外でクジを引いた。東西南北の書かれたクジを引いた。

 ガルードは北へ行き、メルモーデは南に向いた。ヴィヴィアンは東へ旅立ち、セビアンは西を目指した。

 彼らは終始無言であった。これから始まることに期待と恐怖を抱いていた。別れの挨拶でさえも短かった。

 彼らの180日に及ぶ旅が始まった。



 4人の子供たちのお話は、ロマンスを少なくして童謡文学のように、詩のように書きたいです。


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