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a.ba 女王
存在していたくなかった
存在してほしくなかった
どうして何も言わなかったの?
悲しみに暮れてたってもう遅い。彼はもう行ってしまったのだから。
彼がこの国を去って1年が経つ。
12歳になった去年の今日、私にキスをした彼は国境を越えてしまったの。
結婚するって約束していたのに。
後悔したってもう遅いのよ。
どっちにせよ私は第二後継者候補なのだから、王を継ぐ身であることは変わらない。
…それでいいじゃない。
彼が私に托した本に書かれていた物語は、ささやかな言い伝えだというのに。
えぇ、彼はきっとそのことを凄く気にしていたのよ。
だから私にこの本を渡したんでしょ?
仕来たりなんて気にするお父様たちが勝手に付けた名前で、どうしてこんな悲しい思いをしないといけないの。
分からないの。
どうして私の名前を、彼の名前を、付け間違えたのか…何度も聞いてはみたけれど、お父様やおじ様は苦い顔をして答えをはぐらかしてばかり。
ならなぜフィアンセなんかにしたのよ。
私が第二後継者候補だから?
そんな理由…あんまりだわ。