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升物語 ~ CHEAT STORY ~  作者: 相山 美都
永遠と一瞬
2/10

a.ab 怪物

 


 あなたには、止められない欲望など理解できない


 

 


 確かに僕は怪物かもしれない。思い当たる節はある。

 物語に出てくるリヒャルトのような身の上ではないが、僕の心にはトゲがある。いや、トゲなんていうかわいい響きの代物ではない。爆弾だ。

 爆弾が僕の胸には入っている。


 誰にも気づかれず、こいつは僕の胸の中で回路をせっせと組み上げていた。

 誰にも触れられず、こいつは僕の心臓と絡み合い愛し合っていた。

 僕はこいつなしじゃ生きられない。


 危険な妄想はいけないと思っていても、僕にはこいつを止めることができない。

 こいつには意思がある。日中は犯したいと唸り続け、僕が寝ている間には実際に行おうとする。


 夢だ、夢を食らう。

 本の中の出来事を事細かに見せては「今しかない」と囁くのだ。


 僕が彼女や従姉弟たちや親戚に会うと、足のつま先から憎しみが湧き出て殺意までもが脳内を刺激する。


 「殺せ」と彼が囁き、左手が凶器を握る。

 その鋭利なナイフに写る僕の顔は、いつだって笑っている。

 微笑みを浮かべ、ありもしない善を装い、背後から忍び寄る。


 そして、僕は泣く。

 冷静になったとき、ベッドの上には僕の飼っていた動物の死骸が転がっていた。


 幼き日から僕は彼のいいなりになっている。

 僕は彼が恐ろしい。


 今ではある程度、彼を押さえることができる。

 しかし、もしも彼女と結婚した時、僕の手は愛する人の血で染まる。

 彼女を殺す爆弾なのだ。


 僕にはいらない。

 彼女は相応しくない。


 きっと、どこかに僕のことを優しく愛して、僕も愛せて、何も怖がらないでいい相手がいるはずなんだ。

 だから僕は彼女に本を渡した。

 物語に出てくる少年と同じ名前のソレと一緒になってほしくて。


 

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