a.ab 怪物
あなたには、止められない欲望など理解できない
確かに僕は怪物かもしれない。思い当たる節はある。
物語に出てくるリヒャルトのような身の上ではないが、僕の心にはトゲがある。いや、トゲなんていうかわいい響きの代物ではない。爆弾だ。
爆弾が僕の胸には入っている。
誰にも気づかれず、こいつは僕の胸の中で回路をせっせと組み上げていた。
誰にも触れられず、こいつは僕の心臓と絡み合い愛し合っていた。
僕はこいつなしじゃ生きられない。
危険な妄想はいけないと思っていても、僕にはこいつを止めることができない。
こいつには意思がある。日中は犯したいと唸り続け、僕が寝ている間には実際に行おうとする。
夢だ、夢を食らう。
本の中の出来事を事細かに見せては「今しかない」と囁くのだ。
僕が彼女や従姉弟たちや親戚に会うと、足のつま先から憎しみが湧き出て殺意までもが脳内を刺激する。
「殺せ」と彼が囁き、左手が凶器を握る。
その鋭利なナイフに写る僕の顔は、いつだって笑っている。
微笑みを浮かべ、ありもしない善を装い、背後から忍び寄る。
そして、僕は泣く。
冷静になったとき、ベッドの上には僕の飼っていた動物の死骸が転がっていた。
幼き日から僕は彼のいいなりになっている。
僕は彼が恐ろしい。
今ではある程度、彼を押さえることができる。
しかし、もしも彼女と結婚した時、僕の手は愛する人の血で染まる。
彼女を殺す爆弾なのだ。
僕にはいらない。
彼女は相応しくない。
きっと、どこかに僕のことを優しく愛して、僕も愛せて、何も怖がらないでいい相手がいるはずなんだ。
だから僕は彼女に本を渡した。
物語に出てくる少年と同じ名前のソレと一緒になってほしくて。