第8章:被験者への道
完璧を求めたあまり、恋人を手にかけてしまった男・泰輔。
彼の物語は、法による裁きではなく、もっと恐ろしい「国家による利用」という形で幕を閉じようとしていました。
現在(2050年)から遡ること20年前。
記憶改訂制度の最初の「被験者」が生まれる瞬間をご覧ください。
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◆ 【Day 6】完璧という不完の夜
美緒の身体を、アパートの床に横たえた。
夜風でカーテンが揺れている。
部屋にはかすかな香水と、わずかな汗と恐怖の匂いが混ざっていた。
泰輔はタオルで手を拭い、じっと美緒を見下ろした。
(完璧だ。)
乱れた髪を整え、服の襟元を直し、薄く化粧を直す。
その頬には、先ほどまでの涙の跡がかすかに残っていた。
テーブルの上を片付け、クッションを整え、
冷蔵庫に残っていた食材をラップに包んで収納する。
(生活は、こうでなくちゃいけない。)
最後に、美緒の首筋に、彼女がいつもつけていた香水をひと吹きした。
洗面所で鏡を見た自分は、微笑んでいた。
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◆ 【Day 7】崩れる静寂
通報は翌日だった。
美緒が出勤せず、連絡もつかないと心配した同僚が管理会社に連絡したのだ。
アパートの部屋に警察官が入った時、室内は整然としていた。
ただ、一つだけ異様だったのは――
花瓶に挿された薔薇の隣に、美緒の遺体が座るように置かれていたことだった。
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◆ 【取り調べ】
警察署。
寒い取調室の中、泰輔は無表情で座っていた。
机の上には、美緒の死亡写真、そして数年前の女性たちの診断書コピーが並んでいる。
「これも、お前の仕業だろう。」
刑事が低く問いかける。
泰輔は、ゆっくりと視線を上げた。
口元がわずかに歪む。
無言。
だがその瞳には、冷たい優越感と嘲りが滲んでいた。
刑事は苛立ちに顔を歪める。
「お前に殴られたって被害届、何件も出てるんだよ。」
泰輔の脳裏には、泣き叫ぶ過去の女たちが閃いては消えていった。
髪型も、服装も、声も違う彼女たち。
(皆、同じだ。完璧じゃないから、壊れた。)
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◆ 【2年後:拘束室】
2030年、泰輔20歳。
余罪追及と裁判準備で、判決は確定していなかった。
だが、ある日突然、拘置所から国家機関へ移送された。
暗い拘束室。
両手両脚を固定され、頭部には神経抑制装置が装着されている。
鋼鉄のドアが開いた。
スーツ姿の男が入ってきた。
銀髪混じりの短髪、灰色の瞳。
榊原 蓮也。
泰輔を見下ろし、書類をめくる。
「山下泰輔。殺人、暴行、傷害未遂、計10件以上。
…本来なら死刑判決は確定していた。」
泰輔は返事をしなかった。
ただ、冷たい目で榊原を見上げる。
榊原は書類を閉じ、ゆっくりと笑った。
「だが――国家はお前を選んだ。」
「…国家?」
「お前は今日から、国家直属の実験被験者になる。
お前の記憶は書き換えられ、人格も全て再構築される。」
榊原の声は淡々としていた。
優しさも怒りもない、ただの“宣告”だった。
「拒否権はない。
…せいぜい新しい人生を“有効活用”してもらうぞ。」
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◆ 【ガラス越しの結城】
閉じた瞼の奥で、微かに眼球が動いた。
ガラス越しに立つ白衣の青年がいた。
黒髪、灰色の瞳、無表情。
結城 維人、20歳。
RE:CODE研究所主任研究官。
(人間は、記憶さえ変えれば、理想になる。)
その冷たい眼差しが、拘束された泰輔を静かに射抜いていた。
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第8章・完
第8章をお読みいただき、ありがとうございます。
泰輔という男の過去。
• 冷酷な犯罪者だった過去。
• 死刑の代わりに、記憶改訂の実験台となった運命。
• 若き日の結城と榊原によって「処理」された事実。
それとも、心の奥底に眠っていた本当の光なのでしょうか。
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