第77章(最終章):残響
記憶は消えても、愛は残響となって響き続ける。
「空」と「羽」。二人が見上げる未来は、どこまでも青く澄んでいた。
小説『ECHO-記憶の残響-』、ここに堂々の完結。
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(記憶は消えても、愛は残響となって、
永遠に未来へ響き続ける。)
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◆【血の継承】
2062年、初夏。
結城維人の死後、彼の遺言に従い、一人の少年が『朝比奈カウンセリングルーム』に引き取られた。
結城 空人、5歳。
彼は、リビングの隅で小さくなっていた。その瞳は、かつての結城のように理知的で、どこか怯えている。
「……君が、空人くんね。」
真羽は、少年の前に膝をつき、目線を合わせた。
「……あなたは、だれ?」
「私は真羽。……あなたのお姉ちゃんだよ。」
真羽は、恐る恐る伸ばされた小さな手を、両手で包み込んだ。
温かい。
この手の中に、今は亡き父・翔真と、育ての父・新太、そして母・沙耶と、もう一人の母・望の血が流れている。
「今日からここが、あなたの家よ。」
空人の瞳から、ポロリと涙がこぼれた。
結城が最期に残した「愛」というバトンは、確かに真羽へと渡されたのだ。
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◆【名の帰還】
その日の夜。
真羽は、紋之丞と灯、そして透也を前に、ある決意を告げた。
「私……名前を戻そうと思うの。」
「名前?」
「うん。『志』から、ママの姓である『朝比奈』に。」
真羽は、胸のロケットペンダントを握りしめた。
「これから空人を育てていくにあたって、私は本当の私で生きていきたい。光生ママと翔真パパがくれた、最初の私に。」
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紋之丞は、少し寂しそうに目を伏せた。
「志真羽……いい名前だと思ったんだがな。」
彼にとってその名は、自分が守り抜き、育て上げた娘の証だったからだ。
だが、すぐに顔を上げ、ニカっと笑った。
「だが、お前の人生だ。『朝比奈 真羽』……うん、悪くない響きだ。」
灯も、優しく真羽を抱きしめる。
「そうね。貴女はいつだって、私たちの自慢の娘よ。名前が変わっても、その絆は変わらないわ。」
「ありがとう……パパ、ママ。」
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◆【灰色の世界で】
それから数ヶ月。
透也のクリニックは、連日多くの患者で溢れていた。
RE:CODEの解除により、抑圧されていた記憶や感情を取り戻した人々が、その「重さ」に耐えかねて救いを求めてくるのだ。
世界は相変わらず混沌としており、決してユートピアなどではない。
「はい、ゆっくり呼吸をして……。」
朝比奈 真羽は、パニックを起こした患者の背中を、丁寧にさすっていた。
隣では灯がカルテを整理し、透也が穏やかに話を聞いている。
(世の中は、綺麗事だけじゃ回らない。)
憎しみも、悲しみも、争いもなくならないかもしれない。
それでも、真羽は今のこの世界を愛していた。
無関心で、冷たくて、でも時々どうしようもなく温かい、この人間たちの世界を。
どんな未来になろうとも、そこで傷ついた人の手を取り、感情の糸を繋いでいく。それが彼女の選んだ「戦い」だった。
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◆【空へ】
休日の午後。
真羽は、空人を連れて、かつて新太と月陽が遊んだあの公園に来ていた。
ブランコに座る空人の背中を、優しく押す。
「ねえ、空人。」
「ん?」
「結城さんはね、自分の心が『空っぽ』だから、あなたに空人って名前をつけたって言ってた。」
真羽は、青く澄み渡る頭上を見上げた。
「でもね、私は違うと思うの。」
彼女は、空に向かって手を伸ばした。
「『空』よ。どこまでも広くて、自由で、光が溢れている場所。」
空人が、眩しそうに空を見上げる。
「僕が……空?」
「そう。そして私は『真羽』。真実の羽。」
真羽は、空人の小さな肩を抱き寄せた。
「いつかあなたが大きくなって、自分の足で歩き出す時……私のこの羽で、あなたのその広い空を、自由に翔けていきたい。」
「……うん!」
空人が、年相応の無邪気な笑顔を見せる。
その笑顔は、かつて新太が守り、沙耶が愛し、結城が最後に夢見た「人間」の顔だった。
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風が吹く。
過去からの悲しみも、喜びも、全てを乗せて、風は未来へと吹き抜けていく。
その風音の中に、確かに聞こえた気がした。
愛した人たちの、優しい残響が。
――物語は続く。
私たちの鼓動が、止まるその日まで。
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最終章・完
小説『ECHO-記憶の残響-』 完結
『ECHO-記憶の残響-』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
記憶を失った男・新太から始まり、数奇な運命を辿った月陽(真羽)。
そして、RE:CODEという技術に翻弄された多くの人々の物語は、ここで一旦幕を閉じます。
完全なハッピーエンドではないかもしれません。
けれど、傷を抱えながらも前を向く彼らの姿に、少しでも「希望」を感じていただければ幸いです。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
最高の物語だった!感動した!と思っていただけたら、
最後に【☆☆☆☆☆】マークからポイント評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者としてこれ以上の喜びはありません!
また、次の物語でお会いしましょう。




