第71章:欠落した方程式
計算された遺伝子を持つ息子と、野生の強さを持つ少女。
天才科学者は、自らの理論を証明するため、動き出す。
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(全てを計算したはずだった。
だが、この胸の空白だけが、どうしても解けない。)
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◆【2061年・キメラの遺伝子】
RE:CODE本部、最上階のプライベートラボ。
無機質な部屋で、4歳になった空人が、大人でも難解な立体パズルを黙々と解いていた。
「……3分12秒。先月より短縮されたな。」
結城維人は、ガラス越しにその様子を観察し、データを記録する。
彼の関心は、この幼い個体が「誰の性質」を最も色濃く受け継いでいるか、という一点にあった。
(集中力の高さと論理的思考……これは不破翔真の形質だ。)
(だが、思い通りにいかない時に見せる破壊的な衝動、物を握り潰そうとする握力……これは山下泰輔の暴力性か。)
(そして、ふとした瞬間に見せる、他者への無防備な恭順……これは黒峰新太の弱さだな。)
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空人は、三人の父親の要素を併せ持つ、混沌とした「キメラ」だった。
結城にとって、この予測不能な成長過程は、最高の観察対象だった。
「……パパ、できたよ。」
パズルを解き終えた空人が、褒めてほしそうに振り返る。
その時、ふわりと笑ったその表情。
結城の指が、ふいに止まった。
(……なんだ、今の顔は。)
泰輔でも、翔真でも、新太でもない。
理知的で、どこか儚く、全てを受け入れるようなその微笑み。
(……望か。)
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亡き妻、結城望。
彼女の遺伝子もまた、確実にこの子の中に生きている。
結城は胸の奥で、計算外のエラー(ざわめき)が走るのを感じた。
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◆【野生のサンプル】
結城は空人への興味を一旦切り上げ、メインモニターに別のデータを表示させた。
画面に映し出されたのは、17歳になった少女の隠し撮り映像だ。
志 真羽。
透也のクリニックで、患者の手を握り、真剣な眼差しで話を聞いている少女。
「……興味深い。」
彼女は、実の父(翔真)の記憶を消され、別の父(新太)と過ごし、その両方を失った。
RE:CODEによる調整は受けていない。
過酷な運命と、不完全な環境(NOISE残党)の中で育った「野生のサンプル」だ。
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本来なら、PTSDや人格破綻を起こしていてもおかしくない。
なのに、なぜ彼女はこれほどまでに精神が安定し、他者を癒やすほどの「強さ」を持っているのか?
(光生……君の娘は、私の理論を超えている。)
結城は分析する。
彼女にあって、空人にないもの。
それは「愛された記憶」と「感情の肯定」だ。
非効率で、弱さの根源だと思っていたそれらが、実は人間を最も強くする要素なのかもしれない。
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◆【感情という未開の地】
結城はモニターを消し、自身の顔を黒い鏡面に映した。
(私にも、両親がいた。)
ふと、古い記憶の断片を手繰る。
高い知能を持って生まれた自分を、「気味悪い」と遠ざけた両親。
感情を持たない自分を、「可哀想」だと抱きしめて泣いた望。
そして、死の間際、望が残した言葉。
『あなたの一部になれて……幸せでした』
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(幸せ……? 私のために死ぬことがか?)
論理的には理解不能だ。自己保存本能に反している。
だが、望の表情は嘘をついていなかった。
そして今、空人の笑顔の中に望の面影を見た時、自分の中に生じた「ノイズ」。
(私は……何かを見落としているのか?)
人類の進化、知識の共有、感情の排除。
それが正解だと信じてきた。
だが、モニターの中の少女――志 真羽は、まるでそれに対する「反証」のように輝いている。
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「……確かめる必要があるな。」
結城は立ち上がり、ラボの出口へと歩き出した。
モニター越しでは分からない。
彼女と直接対峙し、その瞳の奥にある「強さ」の正体を解析しなければ、次のステージ(完全な進化)へは進めない。
「会いに行こう。……私の理論を覆すかもしれない、特異点へ。」
2061年、冬。
世界を統べる天才は、自らの足で「心」の正体を探るべく、静かに動き出した。
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第71章・完
第71章をお読みいただきありがとうございます。
亡き妻の記憶、息子の笑顔、そして真羽の存在。
完璧な計算式の中に生じた「空白」を埋めるため、ついに結城維人が動き出します。
真羽と結城、二人の邂逅は世界に何をもたらすのか。
物語はいよいよ2062年の「あの日」へと近づきます。
結城が動く……!いよいよ直接対決か!?と思っていただけたら、
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