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ECHO-記憶の残響-  作者: GODS04


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第67章:インストール・ジーニアス

努力は時代遅れ、才能は購入するもの。

人類の進化か、それとも尊厳の喪失か。

便利すぎる世界は、静かに人々を狂わせていく。



(汗も涙もいらない。

欲しいのは、喝采を浴びる「結果」だけ。)



◆【努力の終焉】


街頭ビジョンには、今まで見たこともないほどスタイリッシュなCMが流れていた。


ピアノの前で頭を抱える少年。

そこに現れる『Re-Co』のロゴ。

次の瞬間、少年はコンサートホールで超絶技巧のラ・カンパネラを弾きこなしている。


ナレーションが軽快に告げる。


『10年の練習? いいえ、1時間のインストール。』

『一流ピアニストの指先、あなたに差し上げます。』

『スキル・パッケージ、今春リリース。』



それは、人類の歴史における「学習」の概念を根底から覆す革命だった。


RE:CODE技術の応用。

他者の脳から抽出した「経験」「技術」「感覚」のデータを、別の人間の脳にダウンロード(定着)させる。


もはや、苦しい下積みも、才能の有無に悩む夜も必要ない。

お金さえ払えば、誰でも一夜にして天才になれる時代の幕開けだった。



◆【才能の図書館】


RE:CODE本社、最上階。

結城維人ゆうき いひとは、壁一面に広がるサーバーの光を見つめていた。


そこには、彼が長年かけて収集してきた「人類の叡智」が眠っている。


凶悪犯の戦闘スキル、天才外科医の手術手技、伝統工芸士の繊細な感覚、亡くなった大物政治家の交渉術……。


被験者たちから搾取し、あるいは金で買い取った「人生そのもの」が、細分化されたデータとして保存されているのだ。



「素晴らしい……。」


結城は、ワイングラスを傾けるように、データの奔流を眺めて陶酔した。


「人間は死ねば、その知識も経験も無に帰す。なんと非効率なことか。だが、これなら永遠に残せる。」


彼にとって、これは商売ではない。

人類の進化だ。


優れた個体の能力を抽出し、共有財産として管理・運用する。

いわば、種のレベルアップ。


莫大な利益は上がっているが、それはあくまで、この巨大な「図書館」を維持するための燃料に過ぎない。


「さあ、配ろう。……愚かな大衆に、天才の火を。」



◆【インスタント・ヒーロー】


街は、奇妙な熱気に包まれていた。


「見て見て! 私、今日からトリリンガルになったの!」

「俺なんて、プロ級の料理スキル入れたぜ。これで彼女もイチコロだ。」


カフェでは、若者たちが新しい服を見せびらかすように、新しい「才能」を自慢し合っている。


『Re-Coショップ』の前には長蛇の列。


人気のパッケージは『トップアイドルの歌唱力』『東大合格レベルの数学脳』『伝説の営業マンの話術』。

かつては血の滲むような努力の果てにしか得られなかったものが、スマートフォンのアプリのように手軽に売買されている。



「すごい時代になったね!」

「もう、才能ガチャで人生決まるなんて古いよね。」


人々は笑う。

その笑顔の裏で、インストールされた「他人の記憶」が、彼ら自身のオリジナルの人格を少しずつ圧迫していることには気づかずに。



◆【借り物の翼】


「……気持ち悪い。」


変装して街を歩いていた佳乃よしのが、吐き捨てるように言った。


彼女の視線の先では、明らかに運動神経の良くなさそうな男が、プロのアスリートのような身のこなしでスケートボードを操っている。

だが、その表情はどこか虚ろで、まるで身体だけが勝手に動いているようだ。


「あれは自分の技術じゃない。……誰かから奪った『時間』よ。」


隣を歩くミカゲも、不快そうに顔をしかめる。


「結城の野郎……人間をパーツ屋のジャンク品みたいに扱い始めたか。」



才能の民主化。

聞こえはいいが、それは「個」の尊厳の喪失だ。


自分が自分であるために積み上げてきたものが、誰かの手でコピー&ペーストされていく世界。

しかし、世間はその毒入りの果実を「進化」と呼び、喜んでむさぼり食っていた。


もはや、RE:CODEを止めることは「便利な社会の破壊」を意味する。


NOISEの敵は、結城一人ではなく、この「快適な地獄」を愛し始めた世界そのものになっていた。



第67章・完

第67章をお読みいただきありがとうございます。


努力も経験も、金で買える時代。

一見夢のような世界ですが、他人の人生を継ぎ接ぎして作られた「天才」に、果たして魂はあるのでしょうか。


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