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ECHO-記憶の残響-  作者: GODS04


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第65章:籠の中の女優

演じられた愛、作られた家族。

舞台の幕が下りた時、彼女に残されたのは「空虚」という名の息子だけだった。



(脚本通りの愛を演じ終えた時、

舞台袖に残るのは、空虚な私と、禁断の恋心だけ。)



◆【2057年・空人くうと誕生】


新太がこの世を去ってから数ヶ月後。

2057年の春、沙耶さやは玉のような男の子を出産した。


「……オギャア! オギャア!」


元気な産声が、主のいない広い家に響き渡る。

沙耶は、腕の中に抱いた小さな温もりを、どこか冷めた瞳で見つめていた。


「……終わったわ。」


呟きは、誰に向けたものでもない。


『黒峰新太の妻』という、彼女に与えられた「役割ロール」が、今この瞬間、完結したのだ。



「あなたの名前は、空人くうと。」


空っぽの私から生まれた子。

そして、もう二度と戻らない、あの偽りの家族の団欒(月陽がいた頃)の空虚さを埋めるための名前。



◆【女優の告白】


世間は彼女を「悲劇の未亡人」として扱ったが、沙耶の内面は違った。


彼女もまた、RE:CODEによって記憶と人格を調整された「被検体モニター」だったのだ。


彼女の任務は、新太の精神安定を支え、彼を「善人」として定着させるための「理想の妻」を演じること。

かつては、そこに「娘役」として月陽(真羽)がいたことも覚えている。


(あの子は……脚本シナリオから逃げ出した。)


月陽がNOISEに保護された時、沙耶の記憶からは「娘」の存在が消去マスクされた。


だが、新太の死というショックがトリガーとなり、マスクの下にあった「真実」が浮き彫りになっていたのだ。


自分が誰か。何をしていたか。

そして、この穏やかな生活が、すべてガラス細工の上の虚構であったことを。



◆【創造主への愛】


沙耶は、リビングの祭壇に飾られた新太の遺影に背を向け、スマートフォンを取り出した。


画面に映っているのは、ニュース番組で演説をする結城維人の姿だ。


「……維人いひとさん……。」


画面に指を這わせる沙耶の瞳には、狂おしいほどの熱が宿っていた。


彼女の深層心理、その一番奥底ルートに刻み込まれているのは、新太への愛ではない。

自分を作り変え、居場所を与え、役割をくれた結城維人への絶対的な愛だった。


新太を愛したのは「命令」だから。

けれど、結城を想うこの気持ちだけは、彼女自身の「魂」の叫びだった。


「私……やり遂げましたよ。新太さんは、立派な聖人として死にました。」


褒めてほしい。愛してほしい。

かつて研究所で、彼が私にそうしてくれたように。


だが、画面の中の結城は、大衆に向かって微笑むばかりで、籠の中の鳥である沙耶には目を向けない。



◆【崩壊の予兆】


その夜から、沙耶の身体に異変が現れ始めた。


「……あ、ぐ……っ!」


授乳中、激しいめまいと共に、視界がノイズのように明滅する。


(……きた。)


沙耶は直感した。

これは新太を蝕んだものと同じ。


無理な記憶改変と、長期間の「役割演技ロールプレイ」による脳の拒絶反応だ。


彼女の場合、「新太の妻としての自分」と「結城を愛する本来の自分」、そして「母親としての本能」が複雑に絡み合い、新太以上に深刻なエラーを引き起こしていた。



「……空人……。」


腕の中の赤ん坊を見る。

この子は、新太の子だ。けれど、私が産んだ子だ。


愛しい。けれど、この子を見ると、あの忌まわしい「研究所」の記憶がフラッシュバックする。


(私も……壊れていくの?)


沙耶は震える手で、結城への連絡用端末(すでに回線は切られている)を握りしめた。


表向きは聖人の妻。

その裏側で、彼女は誰にも言えない秘密と、届かない恋心に身を焦がしながら、ゆっくりと壊れ始めていた。



第65章・完


第65章をお読みいただきありがとうございます。


沙耶の抱える闇が明らかになりました。

新太への愛は演技であり、彼女の心は創造主・結城に向けられていた……。

そして生まれた「空人」。

彼の運命もまた、母の崩壊と共に歪み始めようとしています。


沙耶の愛が切なすぎる……続きが気になる!と思っていただけたら、

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感想もお待ちしております。


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