第50章:地下室の共鳴
地上と地下。離れていても、意志は共鳴する。
届いた信号は、反撃の合図だった。
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(地上で「嘘」が蔓延するその時、
地下では「真実」が、静かに牙を研いでいた。)
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◆【Café 琥珀・地下アジト – 同時刻】
薄暗い地下室。
壁一面に設置されたマルチモニターが、ショッピングモールの監視カメラ映像を映し出している。
「……来た。エリアC、カフェ前。」
蓮水佳乃(gyudon)が、ポテトチップスをかじりながら鋭く呟いた。
その指は、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩いている。
「灯さんが動いたわ。……カメラの死角ギリギリだけど、手元は見えてる。」
透也、真田、甲斐がモニターの背後に集まる。
画面の中。
幸せそうな「偽物の家族(新太と沙耶)」の隙を見て、灯がペンを走らせている。
「……気づいてくれたみたいだな。」
透也が安堵の息を漏らす。
先ほど、モールの大型ビジョンに一瞬だけ仕込んだ『月と太陽』のサブリミナル信号。
灯はそれを見逃さず、即座に返答行動に出たのだ。
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◆【解析:反逆の翼】
「メッセージの解析、完了。」
佳乃がエンターキーを叩くと、灯が書いたカードの内容が拡大表示された。
『雲に隠れてしまった、小さなお月様のことを。』
そして、その横に描かれた――一枚の「大きな羽(真羽)」。
その絵を見た瞬間、地下室の空気がピリリと張り詰めた。
「……ハッ。やってくれるぜ、灯ちゃん。」
甲斐が、皮肉っぽく、しかし嬉しそうに笑った。
「『羽(翔真)』かよ。……今の無害な『新太』じゃない。俺たちを顎で使い、気に入らなけりゃ怒鳴り散らす、あの『どうしようもない男(翔真)』を覚えてるって合図だ。」
真田も、タバコの煙を吐き出しながら目を細める。
「ああ。……灯は、今の綺麗な嘘よりも、泥だらけの真実を選んだんだ。」
透也は、画面の中の灯の背中を見つめ、力強く頷いた。
「彼女はまだ、飼い慣らされていない。……俺たちが警戒していた『あの男』の記憶を、武器として持っている。」
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◆【BGMの合図】
「よし、受信確認(ACK)を送るわよ。」
佳乃がニヤリと笑う。
「モールの館内放送システムに侵入……3、2、1、ポチっとな。」
彼女がキーを押した瞬間。
モニター越しに聞こえるモールのBGMが、『ブツッ』と音飛びした。
画面の中の灯が、一瞬だけ動きを止め、そして小さく息を吐いたのが見えた。
「……繋がった。」
物理的な距離は離れている。言葉も交わせない。
だが、この一瞬の「電子のノイズ」だけで、彼らの意思は完全に同期した。
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◆【Café 琥珀・店内 – 紋之丞と月陽】
その頃、地上の店舗では。
「いらっしゃいませー……あ、ありがとうございました!」
月陽が、小さなエプロンを揺らして客を見送っていた。
その働きぶりは、もう立派な看板娘だ。
「おい、お嬢。あんま無理すんなよ。」
カウンターの中で、紋之丞が心配そうに眉をひそめる。
その手には、月陽へのご褒美であるイチゴパフェが握られている。
そこへ、地下から透也が上がってきた。
その足取りは、いつになく力強い。
「……紋之丞。月陽。」
透也の表情を見て、月陽の手が止まる。
布巾をギュッと握りしめ、透也を見上げた。
「……灯ちゃん、から?」
「ああ。……返事が来た。」
透也は月陽の前に膝をつき、目線を合わせた。
「『お月様のこと、忘れてないよ』って。」
月陽の大きな瞳が揺れ、やがて大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
声を上げて泣くのではなく、ただ静かに、安堵の涙を流す。
それは、ずっと張り詰めていた心が解けた瞬間だった。
「よかった……灯ちゃん、おぼえててくれた……っ。」
紋之丞は無言で、月陽の前にパフェを置いた。その目元も少し緩んでいた。
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◆【狼煙は上がった】
「……やるんだな。」
紋之丞が、低い声で透也に問う。
「ああ。灯の意思は確認した。これ以上、彼女をあの鳥籠に閉じ込めておく理由はない。」
透也は立ち上がり、店の窓から外を見た。
遠くに見えるRE:CODEの白いビル。
あそこには、たった一人で戦う大切な「同志(灯)」がいる。
そして――月陽が待ち焦がれている、「あの男(新太)」がいる。
透也の表情が、ふと険しく曇った。
(……あいつを連れ戻すことが、本当に月陽のためになるのか?)
かつて、あの男(翔真)は言った。『俺と一緒にいれば、あいつは不幸になる』と。
実際、彼は娘を愛しながらも、その身勝手な生き方で娘を危険に晒し続けてきた。
もし記憶を取り戻させれば、彼はまた月陽を傷つける「毒」になるかもしれない。
だが、灯があいつを選び、守ろうとしている。
そして何より、月陽が「パパ」を待っている。
「……まずは、灯を奪還する。」
透也は低い声で言った。新太の処遇については、明言を避けた。
「あの男をどうするかは……その時に決める。」
地下室のメンバーも上がってきた。
真田は銃のマガジンを叩き込み、甲斐は医療キットを確認し、佳乃はタブレットを掲げて不敵に笑う。
「いつでもいけるわよ。セキュリティの抜け穴、こじ開けてあげる。」
静かなカフェに、熱い風が吹き抜けた。
平和な潜伏期間は終わりだ。
欠けたピース(灯)を取り戻し、そして「危険な父親」と対峙するための戦いが、今ここから動き出す。
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第50章・完
第50章をお読みいただきありがとうございます。
灯が送った「羽(真羽)(翔真)」のメッセージ。
それは綺麗な嘘ではなく、泥だらけの真実と共に生きるという決意表明でした。
その想いを受け取ったNOISE、そして月陽。
潜伏期間は終わり、いよいよ奪還作戦が動き出します。
ついに反撃開始だ!月陽ちゃん良かったね!と思っていただけたら、
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