第49章:琥珀色の面影
過ぎゆく季節の中で、少女は少しずつ強くなる。
その瞳に、亡き母の面影を宿して。
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(その瞳の強さは、あの日失った妹によく似ていた。)
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◆【1ヶ月目 – 悪夢とホットミルク】
NOISEが『Café 琥珀』の地下に潜伏して、最初の1ヶ月。
月陽は毎晩のように泣いて目を覚ました。
「いやぁ……! パパ、ママ、いかないでぇ……!」
地下室に悲痛な叫びが響く。
透也はそのたびに胸を締め付けられたが、どう声をかけていいか分からず、ただ拳を握りしめることしかできなかった。
そんな時、決まって「コツコツ」と重い足音が階段を降りてくる。
「……うるせぇぞ。」
紋之丞だ。
彼は不機嫌そうに眉を寄せながら、手には湯気を立てるマグカップを持っていた。
「……ほら。特製ハニーミルクだ。飲んだらさっさと寝ろ。」
月陽は泣きじゃくりながら、カップを受け取る。
その小さな手が震えているのを見て、透也はハッとした。
泣いているのに、カップを握る指には力がこもっている。
(……光生も、そうだった。)
かつて妹・光生が、辛い時に決して弱音を吐かず、こうして唇を噛んで耐えていた姿と重なったのだ。
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◆【2ヶ月目 – 受け継がれた「強情さ」】
生活が落ち着き始めると、月陽は地下室の中を探検し始めた。
真田が銃の手入れをしていると、月陽がじっと見つめる。
「危ないからあっちに行ってろ」と言われても、月陽はテコでも動かない。
「……納得できないと動かない。その強情さ、誰に似たんだか。」
甲斐が苦笑いする。
透也は、懐かしさと痛みが入り混じった目でそれを見ていた。
(……母親譲りだよ。)
「お兄ちゃん、私は絶対に引かないからね!」
かつて、NOISEの活動方針を巡って透也と喧嘩した時の、光生の真っ直ぐな瞳。
月陽の瞳の奥には、確かにあの時の妹が息づいている。
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◆【3ヶ月目 – 小さな看板娘】
そして、現在に近い3ヶ月目。
月陽は、ある決意をして階段を登った。
カランコロン♪
昼下がりの『Café 琥珀』。客足はまばらだ。
「……おい。勝手に上がってくるなと言ったろ。」
カウンターの中で、紋之丞が渋い顔をする。
透也も慌てて止めに入った。
「月陽、戻りなさい。ここは危ない。」
しかし、月陽は透也を見上げて、きっぱりと言い放った。
「イヤ! 私も働く!」
「月陽……。」
「パパとママがいない間、みんなにお世話になってるもん。……ただ守られてるだけなんて、イヤだ!」
その言葉に、透也は言葉を失った。
『お兄ちゃんに守られるだけの妹なんて、イヤよ! 私も戦う!』
過去の光生の声が、脳内でリフレインする。
ああ、やっぱり親子だ。
守られることを良しとせず、自分の足で立とうとするその姿勢。
透也は降参したように息を吐き、そして優しく微笑んだ。
「……分かった。でも、無理はするなよ。」
「うん!」
紋之丞も、透也の様子を見て何かを察したのか、フンと鼻を鳴らした。
「……生意気なガキだ。ほらよ、エプロンだ。」
「わあ……! ありがとう、モンちゃん!」
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◆【空席への約束】
その日の夕方。
エプロンをつけた月陽は、カウンターの隅にある「予約席」のプレートを丁寧に磨いていた。
そこは、誰も座らない席。
でも、毎日綺麗にされている席。
「……パパと、ママと、灯ちゃん。」
月陽は指折り数える。
「いつか帰ってきたら、ここに座ってもらうの。モンちゃんの美味しいコーヒー、飲ませてあげるんだ。」
その横顔は、夕日に照らされて輝いていた。
泣き虫で甘えん坊だった少女は、この3ヶ月で「待つ強さ」を身につけていた。
透也は、月陽の頭を撫でた。
「……ああ。きっと喜ぶぞ。」
(光生。……お前の娘は、強いな。)
(俺たちが、必ず……この子の未来を守り抜くからな。)
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◆【そして、その時が来る】
「いらっしゃいませー!」
月陽の元気な声が店内に響く。
常連客の老人が、目を細めて手を振る。
すっかり「看板娘」が板についてきた頃。
地下室のモニターが、ある信号(灯からの返事)を捉えようとしていた。
平穏な日々の終わり。
そして、奪還への狼煙が上がる瞬間が、すぐそこまで迫っていた。
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第49章・完
第49章をお読みいただきありがとうございます。
泣いてばかりだった月陽が、「待つ強さ」を身につけ、小さな看板娘として立ち上がりました。
透也が感じる妹・光生の面影と、月陽の成長。
穏やかな日常の描写に、少しでも温かい気持ちになっていただければ幸いです。
月陽ちゃん頑張れ!と思っていただけたら、
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