第47章:電子の架け橋
鉄壁の要塞に穿たれた、わずかな隙間。
そこを通るのは、電子の信号と、仲間への熱い想い。
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(壁が高ければ高いほど、
その足元には、必ずネズミの通り道がある。)
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◆【Café 琥珀・地下アジト – 深夜】
カタカタカタカタッ……!
静まり返った地下室に、キーボードを叩く乾いた音が響き渡る。
複数のモニターに照らされた佳乃の顔は、青白く、目の下には濃いクマができていた。
「……クソッ、また弾かれた。」
佳乃が髪をかきむしり、スナック菓子を口に放り込む。
「RE:CODEの野郎、セキュリティ・レベルを軍事並みに上げてやがる。正面玄関は完全に封鎖、裏口もコンクリート詰めだ。」
後ろで見ていた透也が、心配そうに声をかける。
「少し休め、佳乃。三日寝てないぞ。」
「寝てられるわけないでしょ! 灯さんが向こうで耐えてるのに!」
佳乃は画面を睨みつけたまま叫ぶ。
その目には、悔しさと焦りが滲んでいた。
「……私のハッキングで扉を開けられなかったから、あの時、灯さんは残るしかなかった。……これ以上、無能なままでいたくないのよ!」
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◆【バリスタの差し入れ】
コトッ。
湯気を立てるマグカップと、厚切りのピザトーストが、佳乃のデスクに置かれた。
「……腹が減っては、戦はできねぇぞ。」
紋之丞だった。
エプロン姿の巨体で、仁王立ちしている。
「あーん? 今、忙しいんだけど。」
「脳みそ使う奴には、糖分が必要だ。……特製ハニーラテだ。飲め。」
有無を言わせぬ迫力。
佳乃は渋々カップを手に取り、一口すする。
濃厚なミルクと蜂蜜の甘さが、疲れた脳に染み渡る。
「……ん。悪くないわね。」
「そうかい。……なら、さっさとその『電子の迷路』ってやつを突破しな。俺たちには真似できねぇ。」
紋之丞はニカっと笑い、太い指で親指を立てた。
その単純な励ましが、不思議と佳乃の肩の力を抜いた。
「……ふん。見てなさいよ。」
佳乃は再びキーボードに向き直った。
その指先には、先ほどよりも鋭いリズムが戻っていた。
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◆【医療データの隙間】
数時間後。
「……見つけた。」
佳乃の呟きに、仮眠をとっていた甲斐と真田が跳ね起きた。
「どこだ!? ルートがあったのか?」
「警備システムは鉄壁よ。でも……『医療データ』の管理サーバーに、わずかなタイムラグがある。」
佳乃は画面上のグラフを指差した。
「RE:CODEは、被験者(新太たち)の脳波データを24時間リアルタイムで解析してる。その膨大なデータを送信する瞬間、ほんの一瞬だけ、ファイアウォールが薄くなる。」
「そこから侵入して……灯さんの端末を探す。」
佳乃の瞳が光る。
エンターキーを叩き込む。
《Bypassing Security... Success.》
《Accessing Medical Network...》
画面に、施設内の職員リストが流れる。
そして――。
【ID: Nurse-704 / SHIRAISHI TOMORI / Status: Active (Surveillance)】
「いた……! 生きてる!」
歓声が上がる。
灯は「監視対象」として登録されているが、稼働中(Active)だ。
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◆【接触の方法】
「場所は特定できた。……でも、どうやって連絡を取る?」
甲斐が身を乗り出す。
「メールや通話は無理だ。一発でバレて、灯さんが殺される。」
「分かってるわよ。」
佳乃は不敵に笑い、プログラムコードを書き始めた。
「だから……『バグ』を装うの。」
「バグ?」
「灯さんが使っている電子カルテ。そのシステムアップデートに、微細なノイズを混ぜる。……普通の人にはただの画面のチラつきに見えるけど、規則性を持たせる。」
「モールス信号か。」
真田が即座に理解した。
「正解。……灯さんなら、絶対に気づく。」
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◆【RE:CODE施設 – 廊下】
同時刻。
灯は、新太のバイタルチェックを終え、廊下を歩いていた。
手にしたタブレット端末を確認しようとした、その時。
チカッ……チカ、チカッ……。
画面が一瞬、不自然に明滅した。
故障か? と思ったが、その点滅のリズムには、明らかな「意志」があった。
ト・ト・ト……ツー・ツー・ツー……ト・ト・ト……
(……SOS?)
いや、違う。
その後に続く信号。
『N・O・I・S・E』
『W・A・I・T』
『(ノイズ・待て)』
灯は息を呑み、思わず足を止めた。
心臓が早鐘を打つ。
(佳乃ちゃん……!)
彼らは諦めていない。
外の世界から、この厚い壁を越えて、自分に触れようとしてくれている。
「白石さん? どうしました?」
背後から警備員の男が声をかける。
灯は瞬時に表情を引き締め、振り返った。
「いえ……端末の調子が少し悪いみたいで。後で交換しておきます。」
「そうですか。報告しておいてください。」
警備員が去っていく。
灯は端末を胸に抱きしめた。
冷たい機械の中に、確かな「仲間の熱」が宿っていた。
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◆【見えない約束】
地下アジト。
Message Delivered (送信完了)》
「……届いた。」
佳乃が椅子に深く背中を預け、大きなため息をついた。
「返信は求めない。……気づいてくれれば、それでいい。」
透也が佳乃の肩に手を置いた。
「よくやった。これで繋がった。」
「灯は孤独じゃない。……俺たちが必ず迎えに行くという意思は、伝わったはずだ。」
薄暗い地下室に、希望の灯火がともる。
今はまだ、点滅する信号だけの繋がり。
けれどそれは、反撃への狼煙となる、最初の一歩だった。
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第47章・完
第47章をお読みいただきありがとうございます。
佳乃の執念と、紋之丞の差し入れが繋いだ奇跡。
モールス信号だけで「ひとりじゃない」と伝えるシーン、言葉は交わせずとも伝わる絆に胸が熱くなりました。
壁の内と外、それぞれの戦いは続きます。
佳乃かっこいい!NOISEの絆に感動した!と思っていただけたら、
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