第42章:愛という名の矛盾
真実は、時に刃となる。
少女を守るため、男たちは自らの正義を曲げ、共犯者となった。
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(真実を伝えることが正義なら、
なぜ俺たちは今、こんなにも口を閉ざしてしまうのだろうか。)
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◆【NOISEの隠れ家 – 早朝】
古びたビルの地下室。
コンクリートの冷たい部屋に、毛布にくるまれた月陽が座っていた。
「……パパ? ……ママ?」
小さな声が、静寂に響く。
彼女の周りにいるのは、見知らぬ大人たち。
透也、真田、佳乃、甲斐、ルカ。
全員が泥と煤で汚れ、疲労困憊の体で、しかし誰も月陽と目を合わせられずにいた。
月陽の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
「いや……かえして……おうちに、かえしてぇ……!」
その泣き声は、透也の胸を鋭利な刃物のようにえぐった。
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◆【別室 – 大人の葛藤】
「……どう説明する気だ。」
真田が低い声で問いかける。
隣の部屋からは、ルカが必死に月陽をなだめる声と、止まない泣き声が聞こえてくる。
透也は壁に拳を押し当て、俯いていた。
「……真実を、話すべきだ。」
透也の声は震えていた。
「あの子は光生の娘だ。俺の姪だ。……あんな偽物の両親じゃない。俺たちが本当の家族なんだと、教えるべきだ。」
「それが俺たちの戦いだろう!? 作られた記憶(RE:CODE)を壊して、真実を取り戻すのが!」
透也の叫びに、室内が沈黙する。
正論だ。彼らはそのために命を懸けてきた。
しかし――。
「……言えるのかよ。」
口を開いたのは、怪我の手当てを受けていた甲斐だった。
「あの子に。『お前のパパは、ママを殺した殺人鬼だ』って。『優しかったママは、国が用意した監視役の偽物だ』って。」
「それを伝えることが……あの子を救うことなのか?」
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◆【翔真の願い】
甲斐は、血の滲む包帯を握り締め、翔真の最期の言葉を思い返した。
『あいつに……あんな絵、描かせんじゃねぇぞ。』
「……あいつは、言ったんだ。月陽に、過去の悲劇を思い出させるなって。」
透也が甲斐を睨みつける。
「殺人鬼の言葉に従えと言うのか!」
「父親としての言葉だ!!」
甲斐が叫び返す。
「あそこで、あいつは……自分の命と引き換えに、月陽を逃がした! ……あの子の中で、新太は『優しいパパ』のままなんだよ!!」
その言葉に、透也は言葉を失った。
もし今、真実を告げれば、月陽の心にある「愛された記憶」すらも、すべて「汚らわしい嘘」に変えてしまうことになる。
それは、RE:CODEが行う精神破壊と、何が違うというのか。
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◆【月陽との対面】
透也は一人、月陽のいる部屋に入った。
月陽は泣き疲れて、ルカの膝で肩を揺らしていた。
透也が入ってくると、怯えたように身を縮める。
「……おじちゃん、だれ……?」
透也は膝をつき、月陽の目線に合わせた。
その瞳は、死んだ妹・光生に瓜二つだった。
(光生……俺は……。)
(お前の娘に、残酷な真実を突きつけることが……本当に正義なのか?)
喉元まで出かかった「俺が本当の家族だ」という言葉を、飲み込む。
そして、震える唇で、人生で最も重い嘘をついた。
「……パパとママはね。」
月陽が顔を上げる。
「……遠いところに、行かなきゃいけなくなったんだ。……君を、守るために。」
「……まもる……?」
「そうだよ。だから……しばらくの間、僕たちが君を預かることになった。」
「……パパ、くる? あとで、くる?」
透也は拳を強く握り締め、爪が皮膚に食い込む痛みで涙を堪えた。
「……うん。……いつか、きっと。」
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◆【たどり着いた答え】
月陽は、まだ不安そうに、けれど少しだけ安堵したように頷いた。
嘘が、彼女の心を繋ぎ止めたのだ。
部屋の外で聞いていたNOISEのメンバーたちも、静かに目を伏せた。
透也は月陽の頭を撫でながら、心の中で自嘲した。
(俺たちは、負けたんだ。)
(RE:CODEを否定しながら……結局、俺たちも「都合のいい物語(改訂)」で、この子を騙している。)
真実よりも、優しい嘘を選んだ瞬間。
彼らは「革命軍」から、「家族(共犯者)」へと変わった。
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◆【矛盾の抱擁】
「……ご飯、食べようか。」
ルカが明るく振る舞い、サンドイッチを差し出す。
月陽はおずおずとそれを受け取り、小さな口でかじりついた。
その姿を見つめながら、透也は決意した。
(この子が大人になるまで……この嘘を守り抜く。)
(それが、俺たちの……罪滅ぼしだ。)
薄暗い地下室。
窓のない部屋で、歪な形をした「新しい家族」が動き始めた。
それは、将来世界を覆うことになる「痛みのない世界」への、小さな、けれど確かな第一歩だった。
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第42章・完
第42章をお読みいただきありがとうございます。
NOISEの出した結論。それは、かつて自分たちが否定したはずの「優しい嘘」でした。
真実の残酷さと、嘘の優しさ。
この選択が、今後の彼らをどう変えていくのか。月陽の成長と共に描かれる未来にご期待ください。
深く考えさせられた、感動した、と思っていただけたら、
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