表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECHO-記憶の残響-  作者: GODS04


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/77

第41章:狭間の意志

閉ざされる扉。分かたれる運命。

救いと引き換えに、彼らが置いてきたものとは。



(この手は、もう汚れている。

だからせめて、お前だけは――真っ白な世界へ。)



◆【改訂者専用区域・ECHO観測室 - 深夜】


警報が鳴り続ける。


天井の赤色灯が、一定間隔で薄暗い室内を照らすたび、甲斐の表情が強張っていく。


壁際にはECHO抑制剤の投与装置。


その前で、翔真――いや、“黒峰新太”が、甲斐の手首を掴んでいた。


「……邪魔すんなよ。」


声は低く、しかし確かな怒気を含んでいた。

甲斐は言葉を飲み込んだまま、ゆっくりと呼吸を整える。


「新太……いや、翔真。落ち着け。」


「……“落ち着け”? 誰に言ってんだよ。」


翔真はゆっくり手を離すが、その目は獣のように研ぎ澄まされていた。


「“新太”なんて……最初からいねぇんだよ。お前らが作った幻だ。」



◆【甲斐の葛藤】


「違う。」


甲斐は首を横に振る。

その顔には、かつての医師としての責任と、消せぬ罪の意識が交錯していた。


「確かに……お前から“翔真”を奪ったのは、俺たちかもしれない。でもな、俺は……“新太”として生きるお前を見ていた。」


「“優しい父親”として……月陽ちゃんに手をあげず、笑いかけていたお前を、ずっと見てた。」


翔真の表情が、一瞬だけ揺らぐ。



◆【時間制限の迫り来る中で】


壁面モニターに表示される警告。

【自動隔離システム起動まで 残り 3分12秒】


甲斐は息を呑み、時計に視線を落とす。


「時間がない……お前をここから出さなきゃ、次は“完全隔離”だ。」


「……結城の思い通りにさせていいのか!?」


翔真は鼻で笑う。


「“思い通り”……?」

「違ぇよ。これは、俺が選んだんだ。」



◆【回想の断片 – 光生の死】


――光生の顔。

――泣き叫ぶ真羽。

――血に濡れた手。


翔真は目を伏せる。


「……なあ、甲斐さん。」

「俺が……“父親”としてまともだったのは、本当に俺か?」

「それとも、あのシステムで書き換えられた記憶の“産物”か?」


甲斐は答えられなかった。



◆【甲斐の本音】


「……それでもいい。」


震える声で、甲斐は言った。


「例え“偽物”でも……誰かを守れるなら、それでいいだろう。」

「“新太”として、あの子の手を引けるなら……それが、命を繋ぐってことじゃないのか!?」


翔真は黙って甲斐を見つめた。

灰色の瞳の奥に、かすかに揺れる何かがあった。


その瞬間――

【残り 3分01秒】

警告が再度点滅した。



◆【別離の選択】


「……行け。」


短く、吐き捨てるような声。


「月陽は……お前らが連れて行った。……それでいい。」


甲斐はよろめきながら叫ぶ。

「何言ってる……! お前も来い! 娘と一緒に暮らすんだろ!?」


「だからだよ。」


翔真が顔を上げる。

その瞳は、怒りでも狂気でもなく、深く乾いた絶望に沈んでいた。


「今の俺が行けば……あいつをまた、怖がらせる。」

「俺は……翔真バケモノだ。……もう、優しいパパ(新太)には戻れねぇ。」



◆【タイムリミット – 決別】


【自動隔離システム起動まで 残り 1分50秒】


廊下の向こうから、無機質な機械音と、複数の足音が近づいてくる。

警備ドローンと鎮圧部隊だ。


「甲斐!!」


インカムから透也の叫び声が響く。


『限界だ! 月陽は確保した! ルートが閉じるぞ! 戻れ!!』


甲斐は唇を噛み切り、血の味を呑み込んだ。

(連れて行くのは……月陽ちゃんだけか……!)


「翔真……頼む……!」


手を伸ばそうとした瞬間。

翔真が背を向け、低い声で言った。


「……甲斐。」

「……あいつに……月陽に……あんな絵、描かせんじゃねぇぞ。」


それは、医師への命令ではなく、父親としての最期の頼みだった。



◆【灯の選択】


その時、甲斐の横を白い影が駆け抜けた。


「新太さん!!」


白石灯だった。

彼女は撤退ルートへ向かわず、逆走してきていた。


「灯……!? お前、月陽ちゃんは!?」


「真田さんが連れて行きました! ……でも!」


灯は立ち止まらず、翔真の背中に駆け寄った。

震える手で、翔真の血に濡れた袖を掴む。


「来ちゃだめだ!!」


翔真が振り返り、怒号を飛ばす。


しかし、灯は離さなかった。


「……離しません。」

「私は……ここの看護師です。患者さんを……一人にはしません。」


その瞳には、狂気にも似た覚悟が宿っていた。



◆【扉の向こう】


【残り 30秒 - 全区画閉鎖】


轟音と共に、重厚な防火壁が降下を始める。


「甲斐さん! 月陽ちゃんをお願いします!!」


灯の悲鳴のような叫び。


甲斐は拳を握り締め、天井を仰いだ。

(……くそっ……!!)


「……死ぬなよ!! 絶対に……死なせるなよ!!」


甲斐は踵を返し、閉まりゆく扉の隙間へと滑り込んだ。



◆【閉ざされた世界】


ドォン……。


重い地響きと共に、NOISEとRE:CODEを隔てる壁が完全に閉ざされた。

残されたのは、赤い回転灯が回る廊下。

警備ドローンの銃口。


そして、立ち尽くす翔真と、その袖を握りしめる灯。


翔真は力なく笑い、崩れ落ちるように膝をついた。


「……馬鹿な女だ……。」


「……ええ。知ってます。」


灯は膝をつき、傷ついた彼の背中に手を添えた。

その掌から伝わる熱だけが、ここにある唯一の真実だった。



◆【敗北と希望の夜明け】


同時刻。NOISE撤退車両。


後部座席で、小さな毛布の塊が震えていた。

月陽だ。真田がその隣で、泥と煤にまみれた顔で月陽の背中をさすっていた。


「……パパ……ママ……」


うわ言のように繰り返す少女。


甲斐は車両に飛び乗り、荒い息をつきながらその光景を見た。


(……一人は救った。)

(でも……二人を置いてきた。)


窓の外、東の空が白み始めていた。

それはNOISEにとって、月陽という希望を守り抜く、新しい戦いの始まりだった。



(夜が明ける。

けれど、その光はあまりにも冷たく、残酷だった。)



第41章・完


第41章をお読みいただきありがとうございます。


月陽は光の世界へ。しかし、翔真と灯は闇の中へ……。

自身の「バケモノ」性を自覚して娘を手放した翔真と、彼を見捨てられなかった灯。

この結末は「救い」なのか、それとも。


二人の選択に心を動かされた方は、

下にある【☆☆☆☆☆】マークからポイント評価や、ブックマーク登録をしていただけると執筆の励みになります!


感想もお待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ