第4章:揺らぎの種
第1章で新太を見守っていた看護師・灯。
なぜ彼女が、非人道的とも言われる「RE:CODE研究所」に入ったのか。
感情を持たない主任・結城と、強い意志を秘めた灯。
静かなる対峙をご覧ください。
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◆ 2048年:RE:CODE研究所 人事面談室
淡い青色の壁。
空調音すら聞こえない静寂。
蛍光灯の白光が、ステンレス製テーブルの上で冷たく反射していた。
テーブルを挟み、二人の人間が座っていた。
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◆ 結城 維人
一人は、研究所主任研究官――
結城 維人。
灰色の瞳は濁りなく、感情の色を宿さない。
細く整った指が、面談用タブレットのスクロールを滑らせる。
「……志望動機は?」
声に抑揚はなかった。
質問というより、空気を振動させるだけの音のようだった。
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◆ 白石 灯
もう一人は、看護師として新規採用された女性。
黒髪は肩下まで滑らかに流れ、柔らかな光を反射している。
色白の頬、淡い桃色の唇。
静かに伏せた瞳には、かすかな決意があった。
名札には、「白石 灯」と書かれている。
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◆ 面談
灯はゆっくりと息を吸い込み、顔を上げた。
「はい。私は……」
声は透き通っていて、だが微かに震えていた。
「この制度が、ほんとうに人を救えるものなのか、知りたいと思いました。」
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◆ 結城の視線
「……救える?」
初めて結城の瞳が、モニターから外れた。
無機質な灰色が、灯を射抜く。
瞬間、肺の奥が冷たくなる。
だが灯は、目を逸らさなかった。
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◆ 結城の言葉
「記録改訂制度は、犯罪者を社会復帰させる矯正技術だ。救済ではない。」
冷たく平坦な声。
一切の余韻も同情もなかった。
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◆ 灯の笑み
「……そうですね。」
灯は、わずかに笑った。
だがその笑みは、どこか哀しげで、どこか優しかった。
「でも――」
灯は小さく首をかしげる。
「それでも“人間”を扱う以上、そこに救いがないなら、誰がこの仕事を続けられるでしょうか。」
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◆ 結城の観察
(感情論……無駄だ。)
心中で切り捨てる。
だが、その指先はタブレットをスクロールする手を止めていた。
灯の瞳には、恐れも拒絶もなかった。
ただ“知りたい”という、静かな探求の色があった。
(……珍しい。)
同情でも、嫌悪でもない。
この制度を恐れる人間は多い。
称賛する人間もいる。
だが――
(理解しようとする者は、ほとんどいない。)
彼の脳裏に、一瞬、ある人物の顔が過った。
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◆ 結城の回想
(……そういえば。
甲斐 仁も、かつてはここにいたな。)
医療班チーフとして在籍していた彼は、制度の実態を知り、去っていった。
今やNOISEと呼ばれる組織の一員になっている。
(……感情で判断を変える意味が分からない。)
結城は思考を切り捨て、再び画面へ視線を戻した。
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◆ 沈黙
やがて結城は、短く言った。
「必要以上に話しかけるな。」
「分かりました。」
灯は即答した。
しかし席を立つとき、小さく付け加えた。
「でも、必要最低限の会話は許してくださいね。……主任。」
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◆ 灯のモノローグ
廊下に出ると、冷たい空気が肺を満たす。
背後で扉が静かに閉まった。
(感情がない人……違う。)
歩きながら、灯は自分の胸元にそっと手を当てた。
(あの人は、“何か”が欠けているだけだ。
でも、その欠けたものが、この研究所や制度の核になっている。)
思考の奥で、光生の笑顔がよぎった。
(光生さん……私、来ましたよ。
あなたが信じようとしていた人間を、今度は私が信じてみたい。)
照明に照らされる、長い黒髪が微かに揺れる。
冷たいフロアに響く足音が、
そこに残る結城の無感情を、静かに打ち消していった。
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第4章・完
第4章をお読みいただき、ありがとうございます。
• 「救いがないなら、誰が続けられるのか」と問う灯。
• 元所員であり、現在はNOISE(反乱組織)にいる甲斐仁。
• 灯が心の中で呼んだ「光生」という人物。
それぞれの過去と目的が少しずつ交差し始めました。
灯は単なる看護師ではなく、何かを変えるためにここにいるようです。
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