第27章:奪われた真実
仕組まれた記憶の罠。それを打ち破ったのは、医師としての執念でした。
そして、一人の看護師が敵の本丸へと足を踏み入れます。
⸻
◆ 【歪められる記憶】
2048年、NOISE仮拠点 医療ブース。
甲斐仁は端末の血液分析グラフを眺めながら、頭を押さえていた。
(……また……この頭痛……)
目を閉じると、脳裏に“光生の声”が流れ込む。
――「甲斐さん……NOISEは間違ってる……」
――「結城先生のほうが正しいよ……」
震える唇で呻き声を漏らした。
(違う……光生は……そんな人じゃ……)
しかし、もう一つの映像が被さる。
――光生が結城の前で頭を下げる
――「甲斐さんはECHO兆候があります。処分してください。」
(……やめろ……やめてくれ……)
揺れる理性。
けれどその胸奥には、怒りと憎悪が少しずつ芽吹き始めていた。
(……NOISEは……間違ってる……光生……お前も……)
机上には、甲斐が自作したECHO誘発補助薬が置かれていた。
指先で、無意識にアンプルを撫でる。
⸻
◆ 【灯の覚悟と真田の準備】
同刻、会議室。
ホログラムモニターには、RE:CODE研究所 潜入計画図。
真田が無言で武装ケースを開き、テーブル上に並べる。
・電磁攪乱器
・ナノカメラ
・浸透型麻酔針
・無音通話イヤピース
「灯。」
真田が呼ぶ。
「記憶バックアップ……やるか?」
佳乃が横でタブレットを叩きながら冷たく言う。
「バックアップしとけば、“元の灯”をここに残せる。最悪、記憶を奪われてもリカバリできるよ。」
灯は一瞬俯き、震える声で答えた。
「……いいえ。残しません。」
佳乃が目を細める。
「理由は?」
「私が帰ってこなかったら、“灯”は死ぬべきです。」
その声は弱くとも、決意だけは強かった。
真田はわずかに目を伏せ、頷く。
「……目的は一つ。真羽の奪還だ。」
「はい。」
「1年でも、2年かけてでもいい。急ぐな。」
「……分かりました。」
灯は拳を握り締めた。
(絶対に、取り戻す。)
⸻
◆ 【覚醒する甲斐】
深夜、NOISE医療ブース。
甲斐は、薬剤アンプルを見つめていた。
(……結城……これが……俺に仕込んだ罠か……)
震える指先で注射器を満たし、静脈へ挿入する。
ズキンッ
脳髄を焼くような痛みが走り、視界が白く染まった。
――かつての患者が微笑む
――「甲斐さん。私……信じてます。」
(……あぁ……)
重なる声。
――「甲斐先生。救ってください……お願い……」
かつての診療室での患者たちの声が蘇る。
(……俺は……何をしてきた……)
改訂後の薄い人格が剥がれ落ち、冷徹さに隠されていた“医師としての本当の願い”が胸奥から沸き上がる。
【人格再構築 – 改訂前人格同調率94.7%】
モニターに自動表示された数値を、ぼんやりと眺める。
(結城……お前は……許さない……)
目の奥に、鈍く冷たい怒りと決意が灯った。
(みんな……俺は戻った。今度こそ……)
指先が震える。
(救う……誰一人……失わない……)
その瞳には、かつてNOISE潜入前に抱いていた“人を救う医師としての光”が、確かに戻っていた。
⸻
◆ 【RE:CODE研究所 人事面談室】
淡い青色の壁。
空調音すら聞こえない静寂。
蛍光灯の白光が、ステンレス製テーブルの上で冷たく反射していた。
テーブルを挟み、二人の人間が座っていた。
結城維人と灯。
二人の視線が交わる。
これが、彼らの初対面だった。
⸻
第27章・完
お読みいただきありがとうございます。
甲斐を襲った頭痛と幻聴。それは「光生に裏切られた」と思い込ませ、彼を完全に結城の駒にするための罠でした。
しかし、甲斐は自ら劇薬を用いることでその洗脳を打ち破り、ついに「本当の甲斐仁」として覚醒しました。
一方、灯は「自分のコピー」を残すことを拒否し、退路を断って潜入へと挑みます。
ラストシーン、冷たい面談室で対峙する灯と結城。
第1章から登場していた「白石灯」と、全ての元凶である「結城維人」。因縁の二人がついに交わりました。
今回のエピソードを楽しんでいただけましたら、
下にある【☆☆☆☆☆】からポイント評価や、ブックマーク登録をしていただけると執筆の励みになります!




