第24章:仮初めの家族
作られた箱庭の中で、偽りの家族の生活が始まります。
そして、それを取り戻すために一人の女性が立ち上がりました。
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◆ 【改訂者専用区域】
2048年、初夏。
改訂者専用区域。
緑化整備された低層マンション群の一室。
白く無機質なリビングには、家族写真がいくつも飾られていた。
「パパ、今日も一緒にごはん食べよ?」
少女が笑顔で見上げる。
「……ああ。」
「パパは食べたくない?私、パパの言う事聞くよ!」
男――黒峰新太は、穏やかに微笑んだ。
その声に、奥のキッチンで作業をしていた沙耶が小さく頷く。
(……問題なし。)
瞳に浮かぶ感情は希薄で、ただ淡々と“監視者”としての役割をこなしていた。
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◆ 【改訂者専用区域 – 研究所管理下】
同時刻、NOISE拠点。
ホログラムモニターに、区域内の映像が並ぶ。
「ここが……」
佳乃が呟いた。
【改訂者専用区域】
そこは、2046年に完成した、記録改訂を施された者たちが社会適応訓練を受けながら生活する区域。
表向きは福祉保護居住区だが、実質的にはRE:CODE研究所の完全管理下に置かれていた。
住居、教育、医療、買い物、工場勤務……全てのデータが研究所ネットワークへリアルタイムで送信され、日常行動が常時解析されている。
「……要するに、“理想市民”育成のためのモルモットってわけね。」
佳乃が鼻で笑った。
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◆ 【真羽の姿】
モニターの一画に、男に手を引かれる少女の映像が映る。
「……!」
佳乃の瞳が細められた。
(あの子……真羽……?)
頬の輪郭、瞳の形、髪質。
間違いなかった。
しかし男は……体格こそ翔真に似ているが、表情も雰囲気も別人のように見えた。
(……あれは、誰?不破翔真なの……?)
佳乃は無意識に唇を噛んだ。
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◆ 【沙耶の監視】
室内カメラの奥。
沙耶は月陽を見つめていた。
「パパとママと、月陽ちゃん。」
微笑みながら、少女の髪を撫でる。
(監視完了。新太のECHO兆候なし。)
瞳は静かに揺れただけで、すぐに無表情へ戻った。
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◆ 【灯の覚悟】
NOISE仮拠点 会議室。
モニター越しの映像を見つめ、灯は震える声を絞り出した。
「真羽ちゃん……」
透也が腕を組み、佳乃がタブレットを叩く。
「面接はどうする?」
「……真正面から行く。」
灯が答える。
「潜入じゃない。正規のルートで……“看護師として”入り込みます。」
真田が低く呟く。
「……危険だぞ。」
「分かってます。」
灯は唇を噛む。
「改訂者専用区域は……全てRE:CODE研究所の管理下。
あの子に会うには、そこへ入るしかないんです。」
「……。」
「でも……あの子は……光生さんの娘なんです。」
声が震える。
「……今度こそ、奪わせない。」
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◆ 【作戦会議】
数日後。
会議室に、甲斐、佳乃、真田、透也、灯が集まった。
「まず、甲斐さん。」
佳乃がタブレットを向ける。
「区域内医療構造と端末ID、分かる限り洗い出して。」
「……分かった。」
甲斐は疲弊した顔で頷いた。
「真田さんは、外周警備と避難経路。」
「了解だ。」
「私は、医療システムと監視ネットワークを可能な範囲で麻痺させる。」
佳乃が淡々と告げた。
灯は拳を握り締めた。
(……絶対に助ける。)
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◆ 【結城の視線】
同時刻、RE:CODEプログラミング室。
結城維人は、モニター越しに黒峰家を見つめていた。
【進捗率:87%】
灰色の瞳に、微かな光が宿る。
(理想社会への……最適化は進行中だ。)
無感情なまま、コードを叩き続けた。
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第24章・完
お読みいただきありがとうございます。
記憶を改訂され、「黒峰家」として暮らす新太たち。
無邪気に笑う月陽(真羽)が口にした「パパの言う事聞くよ!」という言葉。
過去編を読んでくださっている皆様には、この言葉がどれほど残酷な意味を含んでいるか、お分かりいただけるかと思います。
そして、灯の決断。
第1章に登場した「看護師・白石灯」は、こうしてあの場所に潜入していたのです。
バラバラだったパズルが少しずつ組み上がってきました。
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